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社内DXを任されたのに決める権限がない──現場と上司の間で止まる理由

社内DXやAI導入を任されたとき、最初は少しだけ前向きな気持ちになる。

今まで属人的だった作業を減らせるかもしれない。現場の二重入力をなくせるかもしれない。紙やExcelで回っていた申請を見直せるかもしれない。そう思って、現場に話を聞き、課題を整理し、ツールを調べ、簡単な資料まで作る。

でも、途中で止まる。

現場からは、今のやり方には困っているけれど、変わるのは不安だと言われる。上司からは、まず効果を見せてほしいと言われる。情報システム部門からは、セキュリティや運用ルールの確認が必要だと言われる。経営層からは、DXは大事だから前に進めてほしいと言われる。

ところが、自分には決める権限がない。

予算を決められない。業務ルールを変えられない。部門間の優先順位を動かせない。現場に協力を強制できない。ツール導入の最終判断もできない。それなのに、進まない理由だけは自分に集まってくる。

僕は、この状態でしんどくなる人を、能力不足だとは思わない。むしろ、現場が見えていて、上司の期待も理解していて、組織の制約も分かる人ほど、この間で止まりやすい。

社内DXが止まる理由は、担当者のやる気が足りないからではない。多くの場合、責任と権限の置き場所がずれているからだ。

社内DX担当という名前は、少し厄介だ。

担当と言われると、周囲からはその人が進めるものに見える。だから、現場は要望を持ってくる。上司は進捗を聞く。関係部署は相談を待つ。本人も、何とか自分が前に進めなければいけないと考える。

しかし実際には、社内DXで動かすものは、担当者一人の作業ではない。

業務フローを変える。承認経路を変える。入力項目を減らす。例外処理を整理する。部門ごとのやり方を合わせる。誰がどこまで確認するかを決める。新しいツールを使う人と、使わない人の差を埋める。

これは、単なるシステム導入ではなく、仕事の決め方を変える話に近い。
だから本来は、誰が何を決めるのかを最初に置かなければいけない。ところが多くの現場では、そこが曖昧なまま始まる。

とりあえず現場の課題を聞いてきて。
まずはAIで何かできないか調べて。
小さく試してみて。
関係者に声をかけておいて。
次の会議までに案を作って。

こうして担当者は動き始める。けれど、動けば動くほど、決めるべきことが増えていく。

どの業務から変えるのか。どの部門を先に巻き込むのか。現場要望をどこまで拾うのか。標準化のために、どの例外を捨てるのか。導入後の運用責任を誰が持つのか。効果が出なかったとき、誰が判断を戻すのか。

これらは、調査や資料作成では解けない。判断が必要になる。

そして、判断には権限が要る。

社内DXが止まる一つ目の理由は、担当者が決めるべきことと、上位者が決めるべきことが混ざっていることだ。

担当者ができるのは、現状を整理すること、選択肢を出すこと、影響を見える化すること、リスクを言語化すること、現場の声を翻訳することだと思う。

一方で、部門間の優先順位を決めること、例外をどこまで許すかを決めること、予算をつけること、人を出すこと、業務ルールの変更を承認することは、担当者だけでは決められない。

この線を引かないまま進めると、担当者は自分の仕事ではない判断まで背負い始める。

現場から、この機能も必要ですと言われる。上司から、なるべく早く成果を出してと言われる。関係部署から、運用負荷が増えるなら困ると言われる。そのすべてを受け止めて、誰にも嫌われない案を作ろうとする。

しかし、誰にも嫌われない案は、たいてい何も変えない案になる。

社内DXが止まる二つ目の理由は、現場の納得と上司の期待が別の言葉で語られていることだ。

現場は、日々の困りごとで話す。
入力が多い。探すのが面倒。承認が遅い。二重管理になっている。例外が多くて標準機能に乗らない。新しいツールを入れられても、今より仕事が増えるなら困る。

一方で、上司は成果の言葉で話す。
工数削減。生産性向上。属人化解消。コスト削減。リードタイム短縮。AI活用。全社展開。投資対効果。

どちらも間違っていない。ただ、言葉の階層が違う。
担当者が苦しくなるのは、この二つをそのままつなごうとするからだ。現場の不満をそのまま上に上げると、単なる要望一覧に見える。上司の期待をそのまま現場に下ろすと、また上から何か降ってきたように見える。

ここで必要なのは、伝書鳩になることではない。
現場の困りごとを、判断できる言葉に変えることだ。

たとえば、入力が多いという声を、そのまま入力が多いですと報告するだけでは弱い。どの業務で、誰が、どのタイミングで、同じ情報を何回入力しているのか。その結果、どの確認が遅れ、どのミスが起き、どの承認が詰まっているのか。ここまで分解して初めて、判断材料になる。

逆に、上司の生産性を上げたいという言葉も、そのまま現場に持っていくと抽象的すぎる。何の時間を減らすのか。誰の判断を速くするのか。どの例外処理を減らすのか。何を標準化し、何を残すのか。そこまで落とさないと、現場は自分たちの仕事がどう変わるのか分からない。

社内DX担当の価値は、全部を決めることではない。
決められる状態まで、論点を整えることにある。
ここを誤解すると、担当者は二つの方向に崩れやすい。

一つは、現場の味方になりすぎることだ。
現場の痛みをよく理解している人ほど、すべての要望を拾いたくなる。せっかく困っていると言ってくれたのだから、無視したくない。導入後に使われないのは避けたい。だから、例外も個別事情も、できるだけ仕様に入れようとする。

しかし、すべての例外を拾うと、DXは標準化ではなく、複雑化になる。
もう一つは、上司の期待に寄りすぎることだ。
早く成果を見せたい。経営会議に出せる数字がほしい。AIを使っていると言える事例がほしい。そう考えると、現場の納得より、見栄えのよい施策を優先したくなる。

しかし、現場が動かないDXは、資料上だけ進む。

だから、社内DXの中間層に必要なのは、どちらかの味方になることではない。現場と上司の間にある判断の空白を見つけることだ。

僕なら、まず三つを分ける。

一つ目は、担当者が整理すること。
これは、現場課題、業務フロー、関係者、影響範囲、選択肢、リスク、必要な判断を見える化することだ。ここは担当者の腕が出る。曖昧な不満を、議論できる材料に変える仕事だからだ。

二つ目は、上位者が決めること。
どの業務を優先するのか。どの部門から始めるのか。例外をどこまで残すのか。どれだけ予算を使うのか。現場負荷をどこまで許容するのか。ここは担当者が抱え込んではいけない。担当者が代わりに決めると、後で責任だけが残る。

三つ目は、現場と一緒に決めること。
実際の運用手順、移行時の困りごと、使い始めのサポート、例外発生時の逃がし方、現場で守れるルール。ここは現場を巻き込まないと机上の空論になる。

この三つを分けるだけで、社内DXの止まり方はかなり変わる。
担当者が全部を背負うのではなく、担当者が決める場を設計する。現場に丸投げするのでもなく、上司に丸投げするのでもなく、誰が決めるべき論点なのかを明確にする。

社内DXで評価される人は、派手なツールを知っている人だけではない。AIの使い方に詳しい人だけでもない。

現場の困りごとを、上司が判断できる形に変えられる人。
上司の期待を、現場が動ける粒度に落とせる人。
自分が決めることと、決めてもらうことを混ぜない人。
そういう人が、止まっているDXを少しずつ前に進める。

そして、その仕事は地味に見える。
会議を一つ設定する。論点を一枚にする。決める人を確認する。現場の不安を言葉にする。上司の期待を具体化する。先にやらないことを置く。小さく試す範囲を決める。

でも、社内DXの実務では、この地味な仕事がないと何も動かない。
担当者がつらいのは、能力が足りないからではない。自分が背負うべきではない判断まで、自分の宿題にしているからかもしれない。
社内DXを任されたとき、最初に問うべきことは、どのツールを入れるかではない。

このDXで、誰が何を決めるのか。
自分は何を整理し、何を決めてもらい、何を現場と一緒に作るのか。
その線を引けたとき、現場と上司の間で止まっていた仕事は、少しだけ前に進み始める。

あなたが今抱えているDXの詰まりは、努力で押し切るべきものですか。それとも、誰が決める話なのかを、まだ分けられていないだけでしょうか。

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