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仕様を詰める人より、話を戻せる人が強い──上流で重く見られる整え直しの力

会議の終盤、画面の中にはきれいに並んだ論点がある。
担当者ごとの宿題も見えている。
次回までのアクションも決まった。

一見すると、ちゃんと前に進んでいるように見える。

でも、会議が終わったあとに、妙な違和感だけが残ることがあります。
何かが決まったはずなのに、なぜか安心できない。
この仕様を詰めていって、本当に着地するんだろうか。
そもそも、今この場で決めていること自体が、少しズレている気がする。

上流の仕事をしていると、この感覚は珍しくありません。

そして実は、ここで強い人は、仕様を一番細かく詰められる人ではないことがあります。
本当に重く見られるのは、話を前に進める人より、必要なところで話を戻せる人です。

僕はこれが、上流で信頼される人と、ただ忙しいだけで終わる人の差だと思っています。

細かくする力だけでは、ズレた前提の上に精度が積み上がる

仕事では、曖昧な話を具体化する力が大事です。
これは間違いありません。

ただ、上流で厄介なのは、曖昧さを減らすこと自体が目的ではない、ということです。
前提がズレたまま具体化すると、精度の高い誤りができあがります。

たとえば、

  • そもそも誰の業務を楽にしたい話なのかが曖昧

  • 現場運用と管理者視点が混ざっている

  • 課題の話なのか、解決策の話なのかがずれている

  • 決めるべきことと、確認すべきことが混線している

こういう状態で、画面項目や入力チェックや権限ルールだけをどんどん詰めても、あとで必ず大きな手戻りになります。

しかも怖いのは、途中までは進んでいるように見えることです。
論点が細かいほど、みんな仕事した気になります。
でも土台がズレているから、後から全部が重くなる。

だから上流では、前に進める力と同じくらい、いや現場によってはそれ以上に、話を戻す力が必要になります。

話を戻せる人は、空気を壊しているのではなく、損失を止めている

話を戻すのが苦手な人は多いです。
理由は単純で、勇気が要るからです。

せっかく会議が進んでいる。
ここで立ち止まると、水を差したように見える。
理解が遅い人だと思われるかもしれない。
今さら前提の確認をするのは、場の熱を下げる気がする。

でも現実には、ここで戻せる人のほうが強い。

なぜなら、上流で一番高いコストは、数分の立ち止まりではなく、ズレたまま1週間走ることだからです。

話を戻せる人は、単に慎重な人ではありません。
その人は、今この場で進めることの損失と、戻すことの損失を比べています。
そしてたいていの場合、戻すほうが安いと分かっている。

ここが重要です。

上流で重く見られる人は、知識量だけで評価されているわけではない。
損失の大きさを見て、どこで止めるべきかを判断できるから、重く見られるんです。

強い人は、答えを出す前に、問いを整え直している

話を戻せる人には、共通点があります。

一つ目は、前提を戻せること。
いま話しているのは、本当に同じ対象か。
現場担当者、管理者、利用者、情シス、経営。
誰の視点で決めているのかが揃っていないなら、仕様を詰めても意味がありません。

二つ目は、言葉を揃え直せること。
便利にしたい、見やすくしたい、管理しやすくしたい。
こういう言葉は一見分かった気になりますが、人によって意味が違います。
強い人は、そのまま流しません。
便利とは何か、管理しやすいとは何が減ることか、そこを言い換えて揃え直します。

三つ目は、何を決める話かを再定義できること。
上流の会議が迷走するのは、答えが出ないからではなく、議題がずれているからです。
手段の比較をしているのか、要件の確認をしているのか、優先順位の議論をしているのか。
これが混ざると、優秀な人が集まっても進みません。

つまり、強い人は、解く力の前に、問いを整える力を持っている。
僕はこれが、上流での実力のかなり大きな部分だと思っています。

実務では、戻す一言を持っている人が強い

話を戻せる人は、特別なカリスマではありません。
実務では、戻すための一言を持っています。

たとえば、

ここ、仕様の前に運用の前提を揃えたいです
いま決めたいのは画面ではなく、誰が責任を持つかだと思います
この議論、課題の確認と解決策の比較が混ざっていませんか
一度、利用者を誰に置いているか戻していいですか
その要望は分かりますが、目的まで戻ると別案もありそうです

こういう一言です。

派手ではありません。
でも、この一言があるだけで、会議の流れはかなり変わる。

逆に言えば、話を戻せない現場では、みんな善意で頑張っているのに、ズレたまま精度だけが上がっていきます。
そして後半で、なぜこんなに苦しいのか分からなくなる。

だから、上流に行きたい人ほど、仕様を詰める技術だけでなく、整え直す言葉を持ったほうがいい。
それは会議を止める技術ではなく、手戻りを止める技術だからです。

進める力は見えやすい。でも、戻す力はあとで効く

仕事では、どうしても前に進める人が目立ちます。
議論を回す。
宿題を切る。
結論を引き取る。
これはもちろん大事です。

でも、上流で本当に価値が大きいのは、進めた結果を壊さないことです。
そしてそれを支えているのが、整え直しの力です。

一度戻す。
言葉を揃え直す。
誰の話かを確かめる。
何を決める場かを引き直す。

この動きは、会議中には地味に見えます。
けれど、後工程に行くほど効いてきます。
設計の迷いが減る。
認識差が減る。
説明コストが減る。
手戻りが減る。
結果として、チーム全体の消耗が減る。

だから、上流で信頼されるのは、答えが速い人だけではありません。
ズレを早く見つけて、ちゃんと戻せる人です。

もし今、あなたが上流の仕事に少し苦手意識を持っているなら、全部を仕切ろうとしなくていいと思います。
まずは一回だけ、話を前に進めることより、話を正しい場所に戻すことを意識してみてください。

それだけで、見える景色はかなり変わります。

上流で評価されるのは、たくさん知っている人でしょうか。
それとも、ズレたまま進む怖さを知っていて、必要なところで戻せる人でしょうか。

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