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前の案件と同じ進め方をしたのに、要件レビューで差し戻される。上流SEが「前回と違う条件」を一件だけ書く

前の案件で通った要件を参考にし、今回も同じ粒度で整理した。それなのにレビューでは、「この運用では使えない」と差し戻される。類似案件の経験を使ったはずなのに、自分の型がもう通用しないのかと不安になる。

類似案件を横展開する上流SEにとって、前回の資料を参照すること自体は間違いではない。毎回ゼロから考え直せばよいわけでもない。結論から言えば、経験は答えとしてではなく、今回も成り立つかを確かめる仮説として使う。そのために、二案件の全項目を比べるのではなく、「前回と違う条件」を一件だけ外へ出す。

経験が外れるのは、型より前提を持ち込むから

前回の画面や項目、承認の流れを再利用するとき、僕たちは仕様だけを写しているように見える。しかし実際には、その仕様を成立させていた業務条件も一緒に持ち込んでいる。利用者は本人だけ、処理は一拠点で完結する、締め後の訂正はない、といった条件である。

問題は、持ち込んだ条件が今回も同じかを確認できていないことだ。仕様書の章立てや機能名が似ているほど、差は小さく見える。すると、前回と同じ部分の説明に時間を使い、今回だけ違う一条件がレビューで初めて表に出る。

これは経験が古いという話ではない。前回の経験には、「この条件なら、この判断で進められた」という価値がある。ただし、条件を外したまま判断だけを移すと、再利用ではなく当てはめになる。上流SEの仕事は、過去の答えを守ることではなく、答えが成立した条件を今回の要件へ照合することにある。

六項目の差分メモで、一件だけ比べる

僕なら、差し戻された箇所に対して、六項目だけの類似案件差分メモを作る。案件全体の比較表ではない。今回の判断を変えそうな一条件に絞り、次の順で文章か箇条書きにする。

  • 過去:前の案件では、誰がどの業務をどう行っていたか

  • 今回:今回の実要件で、同じ業務を誰がどう行うか

  • 同じ前提:両方の資料で確認できた条件

  • 違う条件:今回だけ追加、変更、または未確認になっている一条件

  • 変わる判断:その差によって、要件や設計の何を変えるか

  • 見直し条件:どの事実が変われば、その判断を再検討するか

「同じ前提」は、記憶や案件名の近さで埋めない。過去と今回の要件、業務フロー、合意記録などで確認できた範囲だけを書く。今回の資料に記載がなければ、同じではなく未確認である。空欄をもっともらしい推測で埋めないことが、比較の精度を守る。

六項目を置く目的は、差分を網羅することではない。どの条件を根拠に前回の判断を再利用し、どこから判断を変えるのかを一続きにすることだ。一件に絞れば、レビューする側も、資料全体を読み直さずに、その判断の根を確かめられる。

匿名の仮想例では、複数配送先の有無だけを見る

ここからは匿名の仮想例である。前の案件と今回の案件は、どちらも営業担当者が顧客の注文を登録し、在庫確認後に出荷を指示する。この共通点だけを見て、前回と同じく注文全体へ配送先を一つ持たせたところ、要件レビューで、今回は一注文の商品を複数の拠点へ分けて届ける運用があると戻された。差分メモには、次のように書く。

  • 過去:一つの注文に含まれる商品は、すべて同じ配送先へ届けた

  • 今回:一つの注文の商品を、複数の配送先へ分ける運用がある

  • 同じ前提:営業担当者が注文を登録し、在庫確認後に出荷を指示する

  • 違う条件:今回は一注文に複数の配送先がある

  • 変わる判断:配送先を注文全体の一項目として固定せず、商品との対応を要件にする

  • 見直し条件:配送を分ける単位が変わったときに再確認する

この例で重要なのは、注文管理の要件を広く洗い直すことではない。一注文一配送先だった過去と、複数配送先がある今回の差が、配送先を置く単位の判断を変えると示すことだ。複数配送先の有無が実資料で確認できなければ、仮想例のように断定せず、未確認として止める。

一条件が見えると、差し戻しの受け止め方も変わる。「前回のやり方が間違っていた」ではなく、「成立条件が一つ変わったため、判断を一つ変える」と説明できる。経験を捨てずに、今回へ合わせて更新できる。

レビューでは、比較から生まれた一問を確かめる

差分メモを作ったあと、レビューで確かめる問いも一つに絞る。仮想例なら、「前回は一注文一配送先でしたが、今回は一つの注文を複数配送先へ分ける運用がありますか」である。

ここで、問いを増やさないことが大切である。配送先以外の確認まで同時に広げると、どの答えが今回の判断を変えるのかがぼやける。複数配送先の有無に答えが出てから、その答えが必要とする次の確認へ進む。

これはレビュー依頼文の型ではない。過去と今回を比べた結果、判断を分ける一条件を確認する問いである。

答えが「ない」なら、前回の判断を再利用できる可能性が高まる。「ある」なら、配送先と商品の対応を要件にする。まだ分からないなら、未確認のまま設計を確定しない。問いへの答えが、そのまま次の判断につながる。

明日は、差し戻された要件を一つだけ選び、過去、今回、同じ前提、違う条件、変わる判断、見直し条件を書いてみる。前回資料を丸ごと読み直す必要はない。まず一件で、経験のどこを残し、どこを変えるかを説明できればよい。

類似案件の経験を持つ上流SEの価値は、前回と同じ答えを早く出すことだけではない。答えを支えていた条件を見つけ、今回の違いに合わせて判断を更新できることにある。あなたが今の案件で、一件だけ確かめ直したい「前回と違う条件」は何でしょうか。

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