「現行踏襲」がパッケージ導入を重くする:残す業務と変える業務を分ける理由メモ
パッケージ導入の要件確認で、部門別の一覧が「現行通り」という言葉で埋まっていくことがある。新しい業務手順を提案すると、安全なのか、現場が回るのか、誰が責任を持つのかを細かく問われる。一方、今の手順を残す案は、それだけで無難な要件として通りやすい。
その状態が続くと、標準機能で業務を成立させられるかを確かめる前に、現行手順の再現が前提になる。追加開発だけでなく、設計、テスト、教育、保守の対象も増え、導入後の変更まで重くなる。
これは、現行が悪く、標準が正しいという話ではない。今の手順には、過去の失敗を防いだ工夫や、外せない制約が含まれていることがある。問題は、変える案だけが審査され、残す案が意思決定を通らないまま要件になることだ。
結論から言うと、現行踏襲も一つの設計判断として記録したほうがいい。「今やっている」という事実を出発点に、残す場合と変える場合を同じ判断材料で比べる。そのために使うのが、五項目の踏襲理由メモである。
現行踏襲は、決めた結果か、決めなかった結果か
要件一覧を見ると、変更案には目的、影響、移行方法、責任者が書かれているのに、現行踏襲の項目には作業名だけが置かれていることがある。これでは、変更には根拠が必要で、維持には根拠が要らない。
けれど、現行を残すことも無変更ではない。パッケージ側から見れば、個別設定や拡張、追加のテストケース、利用部門向けの教育、将来の保守を引き受ける判断になる。一方、標準へ変える案には、移行中の混乱、権限の変更、例外処理の見直しといった影響がある。
つまり、比較しているのは「安全な現行」と「危険な変更」ではない。異なる費用と影響を持つ二つの案である。現行踏襲を要件にするなら、残すことで何を得て、何を引き受けるのかまで決める必要がある。
残す案と変える案を、同じ物差しへ載せる
たとえば、返品された商品を再販売可能な在庫へ戻す前に、品質部門が現物を確認する業務があるとする。パッケージの標準手順では、返品理由と検査結果によって在庫状態を更新できるが、現場からは手作業を残したいという要望が出た。
ここで「手作業を変えられますか」と聞くだけでは、現場は安全側で答えるしかない。代わりに、現行を再現する案と標準手順へ変える案を並べる。
現行を残す案では、品質上の判断を維持できる一方、専用の状態や操作、追加テストを保守し続ける影響がある。標準へ変える案では、個別対応を減らせる一方、標準の判定で拾えない返品条件がないか、権限と教育をどう移すかを確認する必要がある。
どちらを選ぶかは、現場の慎重さや導入側の効率だけでは決められない。守る成果、両案の影響、判断権限を同じ場所へ置いて、初めて比較できる。
五項目のメモを、二案の判断記録にする
現行踏襲の項目が出たら、次の五つを一枚へ残す。
現行作業:誰が、いつ、何をしているか。
踏襲理由:なぜ始まり、何を避けるために続いているか。
守る成果・制約:失ってはいけない業務成果や、法令・契約・内部統制上の条件は何か。
変えた場合の影響:移行、前後工程、データ、権限、教育に何が起きるか。あわせて、現行を残した場合の追加開発、テスト、保守への影響も対比して書く。
決定者:二つの影響を比較し、どちらを引き受けるか決めるのは誰か。
このメモは、現行を残すための申請書ではない。残す案と変える案を同じ審査へ載せる判断記録である。踏襲理由が確認できなければ、現行維持で確定せず、根拠の確認先を置く。決定者が不在なら、現場担当者へ可否を預けず、誰の判断が必要かを課題として残す。
業務を詳しく説明できる人と、変更の影響を引き受けられる人は、同じとは限らない。現場有識者には事実と影響を確認し、最終判断は権限を持つ人へ返す。この線を分けるだけでも、「念のため現行通り」という結論を減らしやすい。
メモは、最初のヒアリングで一度書いて終わりにしない。標準機能を実際に確認する前は、踏襲理由も変更影響も仮説を含む。標準手順を確認した後に、残る差分と両案の影響を書き直す。古い画面や手順書だけを見て現行踏襲を決めず、比較材料がそろった時点で決定へ進めるためである。
会議を「現行通り」で終わらせない
会議の出口は、長い議事録ではなく、一つの決定文にする。
標準へ変えるなら、「守る成果は標準手順で満たせるため変更し、決定者が移行影響を引き受ける」と残す。現行を残すなら、「標準手順では守れない条件があるため踏襲し、決定者が追加開発と保守影響を引き受ける」と残す。
まだ決められない場合は、現行踏襲を暫定回答にしない。「不足している根拠」「確認する人」「決定する期限」を置いて保留する。そうすれば、時間切れで現行が要件へ変わることを防げる。
この決定文は、見積や設計へ入る前に要件IDとひもづける。先に現行踏襲だけを確定すると、その後の議論は「どう再現するか」に狭まり、「なぜ再現するか」へ戻りにくい。見積時に追加費用が見えたら、決定者が同じ判断を維持するかも確認する。合意は一度取ったかではなく、両案の影響が見えた後にも成立しているかが重要になる。
現行踏襲を減らすことが目的ではない。残す業務も変える業務も、誰かが影響を比較して決めた状態にすることが目的だ。
あなたの案件で「現行通り」とされている項目に足りないのは、
A:残す理由
B:両案の影響比較
C:最終決定者
のどれですか。

次に読む:
はじめての方へ:
マガジンの紹介:
IT業界の「技術×キャリア×整える」を束ねるマガジンを公開中です!
ビジネスや心と体を整える良記事が集まってきていますので、
是非、覗いてみてくださいね。
記事は全て無料記事のみです。
気に入って頂けたらマガジンのフォローもよろしくお願いします!
共同マガジンに参加希望の方も募集中です!
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 