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蟹男|第一章|第三話「血に染まった手がかり」

現場検証が続く中、海堂かいどうは一人で周囲を歩き回った。

足音がコンクリートに響く。

カツカツという音が、まるで蟹の爪が地面を叩くような音に聞こえて、海堂は無意識に歩き方を変えた。

落ち着け。ただの靴音だ

でも耳の奥で、その音が増幅ぞうふくされて聞こえる。

桟橋さんばしの端で、海堂は一つの蟹の殻を見つけた。

他の殻とは違い、これだけは鮮血に染まっている。

まるで生きているかのように赤い。

手に取った瞬間──温かい。

まだ温かい?

心臓が跳ね上がる。

殻を落としそうになったが、なぜか手が離さない。

まるで磁石に吸い付けられるように。

咄嗟とっさに、海堂はその殻をポケットに滑り込ませた。

なぜそうしたのか、自分でも分からなかった。

ただ、これが重要な手がかりになるような、そんな──

いや、違う。

ポケットの中で殻が脈打つような感覚。

まるで小さな心臓のように。

気のせいだ。そんなはずは──

「海堂」

古賀こが刑事の声に、海堂は飛び上がった。

「被害者は浜崎洋一はまさきよういち、三十五歳。漁港の加工場で主任をしていた」古賀刑事が手帳を見ながら言う。

「真面目で、借金もない。女関係のトラブルも聞かない」

「それなのに、どうしてこんな」

「それが分からん」古賀刑事が深いため息をつく。

その息が白く見えるのは、朝の冷え込みのせいだけではないような気がした。

静寂せいじゃくが流れる。

波の音だけが、規則正しく響いている。

その時、古賀刑事がゆっくりと振り返った。

その目の奥に、言葉にできない何かが宿っている。

「ただ、一つだけ確実に言えることがある」

海堂の呼吸が止まる。

「これをやった奴は、普通の人間じゃない」

風が止んだ。

まるで海も空も、その言葉に耳を傾けているかのように。

ポケットの中の蟹の殻が、また脈打った。


次回:第四話「海が記憶している」

古い漁師が語る、十五年前のまわしい記憶──。

前回:第ニ話「それは人間だったのか」

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椿 喜介 ありがとうございます😭