笑ってコラえて
もうかれこれ30分ほど立ち尽くしている。大切なおこづかいで買うモノなのにこんなにも気が進まないことなんてあるんだな。
〈まずは前回までの投稿をお読み下さい〉
美術室の天井を見た、数日後の日曜日。
これまで入口手前の雑誌コーナーで立ち読みをしていたか、漫画コーナーで小学館のてんとう虫コミックスを買う時にくらいしか行かなかった田舎にしてはそこそこ大きな本屋の店内の奥に今日は足を進める。当時は全く本を読んでいなかったボクにとって、それは小難しく異国のようで何が待ち構えているのか分からない未知の世界だった。新刊、ビジネス、健康、生活、資格、文庫、占い、図鑑。中学生のボクにはまだ興味のないジャンルばかりが並ぶ。
「絶対、漫画なんて買っていったら怒られるだろうな。」
先日、ジャンケンを負けてしまったばかりに“あの日本人形”が担当の【読書】の時間をしなければいけなくなり、その時に持参する「本を買わなければいけない」状況なのだ。ずっとテレビばかりを見ていて漫画ですら小学低学年の頃にコロコロコミックとドラえもんくらいしか読んでいなかったボクは家に自分が読んでみたい本なんてのは1冊も持っていなかった。大きなため息を複数回吐きながら本屋の中を「まだ大丈夫そうな獲物(本)」を探すゾンビのようにゆっくりと徘徊する。
そんなのだから成績も下から数えた方が早いことは自覚している。分からない専門用語が並ぶ書店で唯一ボクが足を止めたのは「タレントコーナー」だった。昔からテレビ好きで「まだ好きな芸能人が書いた本だったら読めるかもしれない」と思ったからだ。しかし、そもそも「本」に興味がないので何が面白いのか、面白くないのかが分からない。試しに手に取ってパラパラとページをめくるも、国語は特に苦手だったので「漢字全部ふりがなを振ってくれよ」と思っていた。
どうも踏ん切りがつかない。【川遊び】を奪われたボクはまだまだ全然「本を買うこと」に納得なんかしてなかったのだ。そうは言っても時間が過ぎる。頭の片隅からイマジナリー日本人形がこちらに向かって「早く本を買いなさいよ」と叱責してくる。こうしている間もボクの大切な休日はジリジリと削られていくのだ。
しびれを切らして「んーーー。」と半ばあきらめ気味で手に取ったのは所ジョージの「No.1の幸せ」という本だった。その当時は気にもしていなかったタイトルだが今にして思えばよほど自分が「不幸」で、どうにかして欲しいとわらにもすがる思いでその本を掴んだのだろう。
始めて自分の意志で買った「文字の本」。店員さんに言われるがままカバーをしてもらい。買ったレシートを適当なページに挟んでリュックに入れる。
やっと肩の荷が降りた。まだ何も始まっていないのに。
とは言え、家に帰るとワクワクしながら準備をする。遠足用の大きめのリュックに。
筆記用具、旅のしおり、飯盒炊さん用のお米1合、メガネ、歯ブラシ、着替え、夜に遊ぶ用のトランプ、1日目の【川遊び】用の浮き輪。そしてため息1つしてから、「No.1の幸せ」を入れて。

