ある男の話9
今日は日曜日で仕事が休みだったが、珍しく朝早く目が覚めてしまった。
テレビをつけても、子供向けの戦隊モノや旅番組くらいしかなく、たいして面白そうな番組はやっていなかった。
僕は外に出て、少し散歩することにした。
アパートを出て、すぐ裏にある川沿いを歩き、歩いて10分くらいのところにあるコンビニを目指す。
ランニングしているお姉さん。犬の散歩をしているおばさん。談笑している老人たち。早起きして活動している人はみな、エネルギーに満ち溢れているように思えた。僕もそのようにみられているのだろうか。
ふと、スマホのLINE通知が来た。
麗奈からだった。
「別れましょう」
突然のことで目の前が真っ白になった。
朝の川沿いのさわやかな日差しとのコントラストで、頭がクラクラした。
とりあえず目的地のコンビニまで行き、アイスコーヒーを買った。
店員は、夜勤明けのベトナム人らしき外国の若いお兄ちゃんだった。
コンビニからの帰り道、河原沿いの石段に座り、麗奈への返事を考える。
そういえば最近、家から少しずつ彼女の荷物が減っていた気がする。
そんなことすら気づかないなんて。自分はそこまで薄情だったのか。
というか、意外と計画的で、策士だなアイツ。最近よくケータイ見てたけど、ほかに男ができたってことだったのか。
と、様々な感情が入り混じる中、結局、
「了解しました。今までお世話になりました」
とビジネスメールのような文章を返した。
ショックではあった。三年も付き合った彼女に振られたのだから。
でも、どこか安心している自分もいた。結婚、子育て、マイホーム、そして仕事。そんな面倒そうなことを、直視することができなかったから。
そんな、いい年して大人になりきれない自分に、心底、嫌気がした。
それから数日間は、心にぽっかりと穴があいたようだった。
時折、仕事にも身が入らず、風邪をひいたとウソをついて何日か休んだ。
家で飲む酒の量も増えた。台所は空のビール缶だらけになった。
目に見えていた色鮮やかな世界も、モノクロの世界に変わっていった。
そして、世界から色が消えたとき、僕は麗奈を愛していた、とはっきりと分かった。
昔から、一人で生きるのも悪くないと思っていた。
でも、それは違う。前提として、大事な人との太いつながりがあるからこそ、ひとりで生活することを楽しく思える。どこか安心できる。
今の僕は、誰ともつながっていないように思えた。
