AIに経営チームを作らせたら、経営の前提が変わった
前回、AIエージェントに会社を覚えさせる方法を書きました。フォルダ構成を決め、マニュアルを書き、情報が自動的に貯まる仕組みを作り、仕事の進め方をスキル化する。ここまでやると、AIはひとりの優秀な社員として機能するようになります。
今回はその先の話です。ひとりのAI社員が、気づけば10人の経営チームになっていました。
経営企画エージェントという「司令塔」と9人のAIチーム
ファームノートでは、Claude CodeとGitHub上に「経営企画エージェント」を構築しています。前回のステップで作ったフォルダ構成、会社のマニュアル、自動蓄積される議事録やデータ。これらすべてを土台にして動く司令塔です。
この経営企画エージェントは自分では分析も文章も書きません。私の指示を解釈して、適切な専門エージェントに作業を振り、進捗を管理する。いわば、プロジェクトマネージャーとチームリーダーを兼ねた存在です。
そして司令塔の下に、9人の専門エージェントがいます。

経営分析、経営戦略、参謀、CEO壁打ち、プロジェクト管理、ライター、リサーチ、批判的検証、レビュー。人間のマネジメントチームと同じです。CEOがすべてを自分でやるのではなく、CFOに数字を、CSO(最高戦略責任者)に戦略を、PMにプロジェクト管理を任せる。それと同じことを、AIでやっています。
中でも面白いのがCEO壁打ちエージェントです。私の思考パターンや判断基準をプロファイルとして持っていて、「この判断にはバイアスがかかっている可能性がある」と指摘してくれます。自分では気づけない思考の偏りを教えてくれます。
チームが勝手に増えていった
このチームはどうやって作ったのか?
はじめから「10人のチームを設計して」と頼んだわけではありません。
前回書いたGitHubの基盤を整えた上で、「経営分析をやってほしい」「戦略の壁打ちがしたい」とClaude Codeに相談すると、「それなら専門のエージェントを作りましょう」と提案してくれるのです。
最初は経営分析エージェントだけでした。使っているうちに文章の質の向上や市場調査、クリティカルシンキングも欲しいと課題が出てくる。そのたびにClaude Codeが新しいエージェントとスキルを定義し、チームに組み込んでいく。気づけば10人のチームになっていました。
私がやったのは「こういうことがしたい」と伝えることだけ。チーム構成も、役割分担も、連携の仕組みも、AIが自律的に作っていった。これが「AIに経営チームを作らせた」ということの実態です。
事業計画を検討させたときの話
昨日、「来期の売上を1.3倍にする計画を検討して」と経営企画エージェントに指示しました。すると分析計画を作ってくれます。
「経営分析エージェント実績データを分析させ、リサーチエージェントに市場動向を調査させ、参謀エージェントに機会とリスクを整理させます。よろしいですか?」
私が承認すると、一気に動き出します。各エージェントが協力しあってレポートをまとめていきます(画像参照)。

最後に「保存しました」と私に提出されます。内容を確認したところかなり精度が高かったです。我々の課題認識と同じで、十分実践に耐えうるものです。
計画の承認→作業の実行→成果物の確認。優秀なマネジメントチームが自発的に動いて、最後にCEOに判断を仰ぐのとまったく同じ構造です。もちろん手直しは必要です。体感で80点くらい。でも、80点のたたき台があるのとゼロから作るのとでは、まるで違います。
経営チーム全体の共有基盤になる
ここからが面白いところです。

洗練された戦略文書と経営企画エージェントはGitHub上にあるので、経営チームの誰もが同じ情報をベースにAIを使えます。例えば営業役員がその戦略を読み込ませた上で営業戦略を立てる。開発役員が開発戦略やサービス設計を検討する。全員が同じエージェントと戦略文書を土台にしているから、経営チーム間の認識のズレが減っていく。
逆もまた然りです。他の役員が作ったドキュメントもGitHubに上がるので、私はそれを読み込ませた上で経営判断ができる。情報が一方通行ではなく、双方向に流れる。GitHubが経営チーム全体の共有基盤になるのです。
つまり「知識の再生産」のスピードが増して経営チームの底上げができるわけです。
前回までに書いた「AIに使いやすい情報基盤」と「会社を覚えさせる仕組み」が、ここでつながります。
ぶつかった壁
ここまで書くとうまくいっているように聞こえるかもしれませんが、課題は山積みです。
一番大きいのは、経営チームのAI活用度合いが全員バラバラなことです。
社内でAI研修を何度も行っていますが、一度やれば終わりではなく、継続的にリテラシーを上げていく努力が必要です。
ツールの壁もあります。GitHubやCursorはエンジニアライクでとっつきづらい。AIが書いてくれるとはいえ、慣れたツールで作業したくなるのは人情です。ただ、Google WrokspaceにもCLI対応の動きが出てきているので、GitHubとGoogle Driveの共存はもう少しで実現できるかもしれません。
そして、一番根深い課題はクリティカルシンキングです。
AIが出してきたものが正しいかどうかを判断するには、事業経験や経営経験が要ります。その経験がなければ、AIのアウトプットに疑問を持つこともできない。「これは本当にうちの会社にとって正しいのか」と問い直すには、現場を知っている必要があるのです。
もうひとつ。今できているのは「計画を立てる」ところまでです。経営で決まったことを実行に落とし込み、PDCAを回していく。特に実行の支援と、振り返りをAIでどうサポートするか。ここが次のテーマです。
とはいえ、これは時間の問題です。エージェントが得意な定型作業(データの集計、レポート生成、進捗の突き合わせ)は、すでにAIチームで進めているので、次第に経営の意思決定と現場の実行がAIを介してつながっていくはずです。
人による「ガバナンス」の価値が上がる
ここに向き合う中で、AIの時代に本当に求められる能力がわかってきました。
AIによって、大量のシミュレーションが瞬時にできるようになりました。戦略の選択肢を何十パターンも出せる。市場分析も、競合比較も、すぐです。つまり、分析やシミュレーションそのものの価値は大きく下がったのです。
では、逆に価値が高まったものは何か。
「この分析は信じていいのか」「この選択肢の中で、うちが本当に選ぶべきはどれか」
その判断に必要な、人の経験と直感です。
AIが幾つのパターンの戦略案を出してくれても、「この会社の前提を踏まえたとき、どれが本当に実行できるのか」を見極められるのは人間だけです。数字だけでは見えない、組織や市場の肌感覚。それが分かるのは、現場で経験を積んできた人です。

100点の社員がいないように、100点のAIもありえません。AIは確率的に言葉を生成する仕組みです。どれだけ優秀でも、100%正確な回答を保証することはできない。だからこそ、人の判断が最後の砦になります。
経営戦略は、最終的に経営会議で議論し、取締役会で審議されます。このガバナンスがあることで、AIが作った文書を私が仮に過信していたとしても、チェックが働く。社外取締役の異なる視点、現場を知る執行役員の感覚。AIが速くなるほど、人によるガバナンスの価値はむしろ上がるのです。
AIが速くなった分だけ、「立ち止まって考える」機会が減るリスクがあります。だからこそ、AIの時代にこそ、判断とガバナンスがより一層重要になると思っています。
9ヶ月を振り返って
今年の3月、ファームノートでは未来創造チームとプロダクト開発本部を統合し、「アグリインテリジェンス本部」を新設しました。AIを経営の補助ツールとして使うのではなく、AIが経営の中核にいることを前提に、組織そのものを再設計する。そのための部隊です。この経営企画エージェントとチームを、次は牧場の経営にも展開していきます。
振り返ると、プロジェクトをスタートしたのは去年の6月。9ヶ月前はクラウドベースのソフトウェアで経営していました。Cursorを触り始め、GitHubにドキュメントを置き、Claude Codeに出会い、議事録が自動で貯まるようになり、AIに会社を覚えさせ、気づけば10人(エージェント)のチームになっていた。
道具が変わっただけではありません。経営の前提が変わりました。
「人間が作業して、ツールが補助する」から、「AIが作業して、人間が判断する」へ。この転換を受け入れて、仕組みを作り直した9ヶ月でした。
まだまだ道半ばですし課題も山積みです。
でも、9ヶ月前には想像もしなかった景色が、今は見えています。
AIがどれだけ賢くなっても、「この会社をどうしたいか」を決めることだけは人間にしかできません。情報は揃う。選択肢も出る。それでも最後に「これでいく」と腹をくくるのは、経営者の仕事です。
シリーズは3部作で終了ですが、今後もAIエージェント経営についての記事を書いていきたいと思います。
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