金は“安全資産”ではない瞬間がある
――それでも最後に残るのは、debasement trade
◼️金は「何も生まない資産」である
通常、投資家は資産に「収益」を求める。債券はクーポンを生むし、株は配当を生む。だが金は違う。キャッシュフローを一切生まない。ジュエリーや電子機器といった実需は存在するものの、それだけでポートフォリオに大きく組み込まれる理由にはならない。
それでも金が保有される理由は明確だ。それは、“保険”としての役割である。世界が壊れたとき、ゼロにはならない資産これが金の本質だ。
◼️本来なら、金は上がる局面だった
今回のイラン戦争は、典型的な「金が上がる局面」のはずだった。エネルギーショック、インフレ圧力、そして地政学リスク等が同時に発生している。過去を見ても、2022年のロシアのウクライナ侵攻や1979年のイラン革命など、こうした局面では、金は強く上昇してきた。だが今回は違った。金は約15%も下落した。しかも、株式以上にだ。
◼️理由①:金は「ゼロクーポンのインフレ連動債」である
この動きの1つの理由は、金の本質にある。市場は金をしばしば「クーポンがゼロのインフレ連動債」と捉える。つまり、インフレ率が上がる時、金は魅力的になる。逆に、実質金利が上昇する時、金は不利になるのだ。今回、戦争によって、原油価格が上昇したので、インフレが懸念された。中央銀行の利上げ観測が出たので、実質金利は上昇した。これらが同時に発生したのだ。実際、米10年実質利回りは上昇している。その結果、金は"有事の保険”としてではなく、“金利競争に負けてしまう資産”として売られてしまったのだ。
◼️理由②:中央銀行が「売り手」になる瞬間
もう1つ重要なのが、各国の中央銀行の行動だ。ロシアの外貨準備凍結以降、「ドルの武器化」に対するヘッジとして、多くの国が金を保有してきた。だが金の価格が大きく上がると、話は変わる。売却して売却益を得ることが魅力になるからだ。例えば、通貨防衛として、トルコは約80億ドル分の金を売却した。インドも同様の動きをする可能性がある。また、ポーランドは国防費の捻出のため、同じく金を売却した。
つまり、金は「守る資産」であると同時に、
危機時に売られる資産でもあるのだ。この2面性が、今回の下落を生んでいる。
◼️理由③:金の“ミーム化”
更に興味深いのはここだ。かつてビットコインは「デジタル・ゴールド」と呼ばれた。だが現実には、ビットコインは、投機的な動きやリスク資産との連動を見せ、「安全資産」にはなれなかった。そして今、逆転現象が起きている。金の方が“ミーム資産”に近づいているのだ。金は昨夏から約60%も上昇。金ETFの保有量は25%も増えた(約4,200トン)。この急騰は、
純粋な保険需要ではなく、モメンタム資金による側面も強い。そのため、ポジション解消(アンワインド)が起きれば、価格は急落する。
◼️結論:金は万能のヘッジではない
ここまでをまとめると、金は安全資産だが、常に上がるわけではない。金は保険だが、同時に売られる資産でもある。金は本質的資産だが、ミーム化することもあるということだ。つまり、金は“万能のヘッジ”ではない。
◼️それでも最後に残るのは、debasement trade
だが、この話はここで終わらない。この記事の核心は最後にある。金の本当の役割は、戦争へのヘッジではない。通貨の価値希薄化(debasement)へのヘッジだ。各国の巨額の財政赤字、戦争による支出拡大、そしてインフレによる実質的な債務圧縮など、政府は最終的に、
インフレで債務を“溶かす”誘惑から逃れられない。だからこそ、短期ではミーム資産のように動いたり、一時的に下落したりしても、最終的には、debasement trade が再び主役になるのだ。
◼️終わりに
金は、常に輝いているわけではない。時として、最も期待される局面でさえ下がる。だがそれは、金が弱いからではない。市場がまだ「そこまで壊れていない」からだ。しかし、本当に壊れた時、金は再び“ただの金属”ではなくなる。それは、制度への不信の結晶としての金である。
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参考文献:
https://economist.com/finance-and-economics/2026/03/30/after-iran-gold-is-looking-less-glittery
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