「MAGA税」とアメリカ経済
― 世界最強の経済は、なぜ「足を引っ張られながら」も成長しているのか?
The Economistに非常に興味深い記事があった。タイトルは、
“America’s economy is soaring—even with the MAGA tax”
つまり、
「"MAGA税"があるのにも関わらず、アメリカ経済はなお成長している」という意味だ。この記事は単純な「トランプ批判」ではない。むしろ、「なぜアメリカ経済だけが強いのか? 何がアメリカ経済の成長を妨げているのか? AI時代に必要な国家の条件とは何か? ポピュリズム的な経済政策の本当のコストは何か?」などを、非常に構造的に分析している。
https://economist.com/leaders/2026/05/21/americas-economy-is-soaring-even-with-the-maga-tax
■世界経済が停滞する中、アメリカだけが伸びている
記事によれば、2025年のアメリカ経済は年率で2%の成長を維持している。一見すると普通に見える数字だが、イギリス・フランス・ドイツ・日本などの他のG7諸国の成長率が0〜1%前後に留まる中では、かなり高いのだ。しかもIMFの予測では、2030年以降もアメリカ優位が続く可能性が高いという。つまり今の世界経済は、「アメリカだけが別のゲームをしている」状態に近いのだ。
■「MAGA税」とは何か?
The Economistは、トランプ政権の経済政策を“MAGA tax”と呼ぶ。その内容は、「過去100年で最高の関税率、移民制限、政策の不透明さ、保護主義、恣意的な政治介入」などの組み合わせだ。記事によれば、このMAGA税によって、2025年のアメリカのGDP成長率は「約0.75%も削られた」と推計されている。
つまり、本来は3%近く成長できた可能性のあったアメリカ経済が2%成長に留まってしまったのだ。それでもなお、世界最強クラスのGDP成長率を維持している。ここがアメリカ経済の恐ろしいところだ。
■AIブームですら、政策不安が重石になっている
特に記事では「AI以外の分野では、政策不透明感によって企業投資が急減速している」と指摘されている。しかも、その悪化の規模は「Brexit後のイギリス以上」とも書かれている。AI革命が起き、株価が上昇し、エネルギー生産も強い。本来であれば、アメリカ経済は爆発的な成長局面にいてもおかしくない。しかし、トランプ政権の「関税率が突然変わる、移民政策が読めない、政治介入リスクがある」傾向により、企業が長期投資を躊躇しているのだ。経済を成長させるためには、“predictability (予測可能性)"が必要なのである。
■それでもアメリカは強い
では、何故アメリカ経済はそれでも成長できるのか?
依然も投稿したが、アメリカの強みは「大陸規模の単一市場・単一言語・豊富な天然資源・基軸通貨ドル・巨大で自由な資本市場・フレキシブルな労働市場・州間の競争・世界最高水準の高等教育・AI投資・シェール革命」などだ。特に重要なのが「disruption (破壊的変化) への耐性」だ。
■アメリカは「変化」を許容する
記事では、シェール革命やAIデータセンターへの投資が、アメリカ経済を更に強くしたと説明されている。これは、環境論争の激化・急激な雇用の変化・地域経済の変化・労働市場の混乱などの副作用を伴う。それでもアメリカは、「まずはやってみる」方向に進むのだ。ここが非常にアメリカ的で、他の国が真似できない強みだ。猪突猛進という形容がピッタリだ。破壊的イノベーションへの耐性が国のDNAに刻みこまれている。
■「成長できる国」とは何か?
この記事を読んで改めて思った。本当に重要なのは、「問題が無い国」ではない。むしろ、「問題を抱えながらも、新陳代謝できる国」である。アメリカという国は、政治的な混乱、経済格差、ポピュリズム、関税、移民など様々な問題を抱えている。しかし同時に、AIの爆発的な発展、エネルギー革命、途切れることのない起業家精神、自由で潤沢な資本市場、新しい技術への積極的な投資なども止まらないのだ。陳腐な表現にはなるが、“dynamic”なのだ。
■The Economistの本当の警告
この記事の核心は、実はトランプ批判ではない。本当の警告は「他国がMAGAnomicsを真似すること」にある。記事では、メキシコ・フランス・イギリスなどでも、保護主義や国家介入路線が強まっていると指摘されている。しかしThe Economistは、「アメリカだから耐えられている」と言う。これは非常に重要な視点だ。
■「強さ」があるから、失策にも耐えられる
アメリカは、世界最大級の資本市場・ドル覇権・巨大IT企業群・豊富なエネルギー資源・絶え間ない人材流入・史上最強の軍事力などを持つ。だからこそ、多少の政策ミスでも耐えられるのだ。しかし普通の国が同じことをやれば、もっと深刻なダメージになるだろう。
■最後に
The Economistは最後に「もし“MAGA税”を取り除けば、アメリカ経済は更に強くなる」と書く。私はこの記事を読んで、「強い経済とは完璧な経済ではない」のだと改めて感じた。むしろ、混乱・失敗・変化・政治対立があってもなお、新しい産業を生み出し続けられること。それこそが、アメリカ経済の本当の強さなのだと思う。
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