「あの人とは考え方が合わない」の前に|職場のすれ違いは"大切にする順番"の違い
日頃、組織内コミュニケーションコンサルタントとして、さまざまな企業に伺い、職場のコミュニケーション改善に携わっています。
先日、ある企業から研修のご依頼をいただいたときのことです。
もうすぐ設立100周年を迎えるその会社は、従業員の意識向上や人材育成にとても熱心でした。
研修の依頼状とともに送られてきたのは、A4用紙10枚にわたる資料です。
表紙には今回の研修テーマが大きく記され、その先には、企業理念や組織図、参加者の構成、主な役割、活動目的などが細かくまとめられていました。
なかでも「研修を実施する背景と想い」については、3枚もの紙を使って丁寧に書かれていました。
交代勤務によって、
顔を合わせる機会が限られていること。
ITの普及によって、
直接会話をする時間が減っていること。
働き方の変化に伴い、これまでとは違うコミュニケーションの課題が生まれていること。
そして、組織として「コミュニケーションアップ活動」を重点的に進めていきたいという、担当者の熱意が伝わってきました。
資料を読み進めるほど、
私も自然と背筋が伸びる思いになりました。
なぜ、同じ職場なのに意見が合わないのか
研修では、
職場づくりに関する三つの言葉を書いたカードを用意しました。
「コミュニケーション」をしっかり図ることができる環境をつくる
「尊敬・思いやり・助け合い」の心が生まれる
皆が「力を合わせ」られる職場になる
そして、
参加者の皆さんに問いかけます。
「あなたが職場のリーダーだとしたら、どのカードを最初に置きますか?」
「どのような順番で意識し、実践することで、目指す職場環境をつくれると思いますか?」
三つとも、より良い職場をつくるために欠かせないものです。
だからこそ、どれを最初に置くかで迷います。
一見すると簡単な問いに見えますが、実際にカードを並べていただくと、その順番は人によって異なりました。
「まず、コミュニケーションを図れる環境を整えることが必要だ」と考える人。
「相手を尊敬し、思いやる気持ちが先にあってこそ、対話が生まれる」と考える人。
「一緒に力を合わせる経験を重ねることで、思いやりやコミュニケーションが育っていく」と考える人。
同じ会社で働き、同じように職場を良くしたいと願っていても、何を出発点にするかは一人ひとり違います。
目指している職場は同じでも、そこへ向かう道筋は一つではないのです。
職場のすれ違いは「優先順位の違い」から生まれる
職場では、意見が合わないとき、相手の考え方そのものに問題があるように感じてしまうことがあります。
「なぜ、分かってくれないのだろう」
「どうして、そこを優先するのだろう」
「こちらの意図が伝わっていない」
そのように感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、よく話を聴いてみると、目指しているものが違うわけではないことがあります。
どちらも、働きやすい職場にしたい。
どちらも、チームで良い成果を出したい。
どちらも、部下や仲間を大切にしたい。
目指す方向は同じなのに、そこへ向かうために「何から始めるか」が違うのです。
つまり、意見の違いに見えていたものが、実は優先順位の違いだったということがあります。
意見の違いの奥にある、経験と価値観
研修では、カードを並べるだけでは終わりません。
「なぜ、そのカードを最初に置いたのですか?」
「その順番にした理由を教えてください」
と、お互いに話し合っていただきます。
すると、カードの並べ方には、その人がこれまで経験してきたことや、仕事の中で大切にしている価値観が表れていることが分かります。
ある人は、過去に情報共有の不足から大きな行き違いが生まれた経験があり、
「まずは、コミュニケーションをしっかり図れる環境をつくることが必要です」
と考えていました。
別の人は、相手を尊重する気持ちがなければ、どれだけ会話を増やしても本当の意味で分かり合うことは難しいと感じ、
「最初に、尊敬や思いやり、助け合いの心を育てることが大切です」
と考えていました。
また、一緒に仕事へ取り組む中で、少しずつ相手への理解や信頼が深まった経験から、
「まずは皆で力を合わせることから始めたいです」
と考える人もいます。
どの順番が正しく、どの順番が間違っているということではありません。
その人が置かれてきた環境や、これまでの経験によって、何を出発点にしたいかは自然と変わります。
順番だけを見ていると、
「自分とは考え方が違う」
と感じるかもしれません。
けれど、その理由を聴いてみると、
「その経験があったから、この順番なのですね」
と、カードを見ただけでは分からなかった、その人の考えや背景が見えてきます。
正しい答えを決めるのが、対話ではない
このワークには、一つの正解があるわけではありません。
何に重点を置くかによって、カードの順番は変わります。
職場の状況によっても、今必要な順番は異なるでしょう。
ワークの目的は、正しい順番を当てることではありません。
自分が何を大切にしているのかを言葉にすること。
そして、相手が何を大切にしているのかを知ることです。
グループで話し合っていると、少しずつ会場の空気が変わっていきます。
「その考え方は、自分にはありませんでした」
「その経験があったから、この順番なのですね」
「目指しているところは、私たちも同じですね」
参加者の皆さんが、他者の意見に関心を持ち、お互いの違いを確かめ、発言の意図を理解しようとし始めます。
気がつけば、カードについて話し合うその時間自体が、コミュニケーションの実践になっているのです。
優先順位の違いが分かると、対立が対話に変わる
人は、自分が大切にしていることほど、相手も同じように大切にしていると思いがちです。
そのため、相手が違うものを優先していると、
「考え方が合わない」
「分かり合えない」
と感じてしまうことがあります。
けれど、
「相手は間違っている」
と決めつける前に、
「この人は、何を大切にしてこの順番を選んだのだろう」
と考えてみると、見え方が変わります。
相手の結論だけではなく、そこに至った理由に関心を向ける。
すると、意見の違いは、相手を否定する材料ではなく、お互いを知る入り口になります。
優先順位の違いが分かると、対立していたように見えた二つの意見を、組み合わせることもできます。
「どちらが正しいか」ではなく、
「今の私たちの職場には、どちらから始める必要があるか」
という話し合いに変わっていくのです。
リーダーに必要なのは、全員を同じ考えにすることではない
職場のリーダーというと、メンバーの意見を一つにまとめる役割だと思われることがあります。
もちろん、最終的な方向を示し、判断することは必要です。
しかし、すべての人を同じ考え方にすることが、リーダーの役割ではありません。
一人ひとりが何を大切にしているのかを知り、その違いを生かしながら、共通の目的に向かえるようにすること。
それも、リーダーの大切な役割です。
自分と違う順番を選んだ人に、
「なぜ、そう考えたのですか」
と尋ねることができる。
自分の考えを伝えながらも、
「その見方もありますね」
と受け取ることができる。
そうした姿勢があると、メンバーも自分の考えを安心して話せるようになります。
違いをなくすのではなく、違いを言葉にする
同じ会社で働いていても、経験や立場、役割は一人ひとり違います。
当然、大切にすることの順番も異なります。
その違いをなくそうとすると、どちらかが自分の考えを引っ込めることになります。
大切なのは、違いをなくすことではありません。
なぜ、その順番なのかを言葉にして、お互いに知ることです。
同じ職場を目指しているのに、なぜか話がすれ違う。
そんなときは、目標が違うのではなく、そこへ向かうための優先順位が違うのかもしれません。
「あの人とは考え方が合わない」と結論を出す前に、一度尋ねてみてください。
「あなたは、なぜそれを一番大切だと思うのですか」
その問いから、相手が見ている景色が少しずつ見えてきます。
コミュニケーションとは、全員が同じ答えを持つことではありません。
異なる考えや優先順位を持ちながらも、その理由を伝え合い、同じ目的に向かう方法を一緒に見つけていくこと。
その対話の積み重ねが、職場の信頼関係を育てていくのだと思います。
今日のひとこと
「なぜ、それを一番大切だと思うの?」その問いが、対立を対話に変える。
きょうもいい日になりますね🌹
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研修の現場の話は、こちらにも書いています。
Profile
桐生 純子|コミュニケーショントレーナー
法人を中心に30年・延べ15万人の研修現場に立ってきました。
「伝わらない」の多くは、言葉ではなく姿勢の問題です。
その気づきを、記事を通してお届けしています。
著書『こころのスイッチ』
「違いを言葉にして、同じ目的に向かう」。
このカードワークのような対話の場づくりを、30年・800社・のべ15万人の研修現場でお伝えしてきました。
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管理職の対話力・1on1・心理的安全性をテーマに
企業研修・講演を行っています。
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