女神憑き: 13話 思考クローンの冒険⑤
矢須子さんはオホゥ、みたいな声を出して数秒停止した。
「心臓が止まったわ」
「蘇生した」
セルフAEDですか。
こういう時、女性の方が立て直しが早いみたいだ。
オバケが出た! コワイわあ、より「元カノという怨敵ロックオン」でしょ。
「――それは、どうも。驚かせて、ホントごめんなさい」
ハダカだけど正座して、深めにお辞儀した。
矢須子さんも居住まいを正して、正座。
奥さまを見て、サトミくんも正座。
「矢立矢須子です、初めまして。香織さん――お化けと挨拶するのも初めてで、ちょっと信じられないけど」
「香織です。今は――寺内香織、です(本体が心中した旦那の苗字だ)
「あの、オバケになっちゃったけど、サトミくんに挨拶かなーっと思って……来ちゃいました。呪いとか、恨みごととかホントないんです! どうしてるかなー、とゆうだけで」
矢須子さんは少し考えるそぶりのあと、目をギュッとつむって、
「まず言わせて! 香織さん、ごめんなさい!」
と手をつき、頭を深々と、床に擦り付けんばかりに下げた。
「ええ? 何です」
「私は、香織さんが死んだことにつけ込んだの! 落ち込んだ理見を慰めて近づいて、それで結婚まで」
「そんなこと――あたし勝手に居なくなったんだし」
勝手に泡食って別れて、勝手に死んだんだよ。
むしろ幸せになってくれたんなら、いいんだ。
もはやどうしようもない、サトミくんを巡って張り合うことすらできない。
「矢須子さんみたいな、いい人できたんなら良かった、と思いますよ。ちょっとだけ複雑ですけど。えへへ」
正直さも混ぜておく。
「でも、香織さんが居て、居なくならなければ理見も落ち込まなかったし、私が言い寄ることもなかった」
「私から近づいたんです、彼のこと気になってたんで。香織さんの訃報で抑うつ気味だ、と聞いてチャンスかも! って思ったんです!」
矢須子さんは頭を下げたまま、懺悔、なんだろうな、罪の意識を独白した。
「ホント、矢須子さん、気にしないで欲しいです。オバケになったことも、後悔してないし」
自分からなったわけだしね。
「謝らないで欲しいんです……あたしが今日来たのだって、サトミくんに「実験」頼んじゃおう、っていう動機で、ろくなもんじゃないんです」
「じっけん?」
「や、いやモウしない、というか気持ち的に出来ないンですけど――」
それから『あたし』は矢須子さんとサトミくんに、本来の訪問目的を説明した。
あらゆる生物の……生殖を体験させてもらう研究。
オバケとしての存在を維持するエネルギーが必要で、この研究、生殖行動への憑依で得られそうなこと。
実は「憑依の実験」のためサトミくんを訪れたこと。
「……ほらあ、あたし死んでまで元カレ利用しようとしてるんですよ、だから、そんなのに気を使わなくて、いいんです! で、新婚さんにリスクのある実験するほど、あたし悪霊じゃないんで」
やっと顔をあげてくれた矢須子さんに、大袈裟な笑顔をみせる。
「ほんと、ホントに気にしないで、そういうわけなので、あの、そのモウ行きますので」
(思考クローンの冒険⑤ おしまい)
