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8. Naoki|読む人の運命を加速させる恋愛小説

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今日はちょっと、友利花さんの口数が、少ない気がする。
気のせいかな・・・

「疲れてる?」って聞いても、いいのだろうか。
いや、それは聞かずに、何事もないかのように楽しく会話をしていた方がいいのかもしれない。
いつもは友利花さんの不思議な返答に笑ってしまうのだけど、今日はそんな笑いも起こらない。
なんだか少し、空気が重いというか、なんというか・・・

昨日の夜、Netflixで映画を観た。アメリカの映画だった。
そんな話を友利花さんにしてみる。
友利花さんは洋画を見るときは必ず英語音声で見るらしい。英語の音が好きだから。
ボクも次回からは英語で観よう。いつも吹き替えで観ちゃうから。
友利花さんとは何でもいいから、一つでも多くのことを共有したい。

友利花さんは、今日はなんでかほとんど話さない。
「最近観た映画はある?」って聞いても、「うーん、なんか観たかなぁ・・・」ってしばらく考え込んで、「覚えてないです」で話が終わってしまう。
今日は終始そんな感じ。
そしてその後の、妙な沈黙・・・。

いつもは1時間以上電話するけど、今日は珍しく、30分だけ。
友利花さん、用事があるらしい。

用事・・・?
その用事のせいで、友利花さんの様子がどこかおかしいとか?
どんな用事だろう。

身内に何かあったとか?
いや、もしそうなら、そっちを優先してボクとこうして電話なんてしないはず。

誰かと、会う?
誰と?
友達?
たとえば、沙織さんとか?

いや違う。
沙織さんと会うなんてほぼ毎日のはずだから、こんなに友利花さんの様子がおかしくなるわけない。

誰と?
誰か男性と会う?
ボク以外の、誰かと?
だから緊張してる、とか?

友利花さんに気になる人がいるのかどうか、聞いたことはない。
でも、そういう人がいても、おかしくない。
なぜボクは、今までそのことを全く考えなかったんだろう。
ボクには今、気になる人は、友利花さんしかいない。
そして友利花さんにもボクしかいないとなぜか思い込んでいた。
ボクに好意を持ってくれているのかはわからないけど、他にそういう人がいるかもしれないということを、ボクは全く考えもしなかった。

友利花さんがボク以外の男性と会って、もしその人のことを好きになったら・・・
それは結局、いいことなんだと思う。
友利花さんはその人のことが好きで、その人も友利花さんのことが好きで、付き合って友利花さんが幸せなら、それはいいことなんだと思う。

いいこと?誰にとって?
友利花さんにとって。
その、男性にとっても。

じゃあ、ボクは?ボクにとっては?
ボクは、悲しくなる。
胸が、苦しくなる。
でももしボクが友利花さんと付き合うことになったら、ボクも友利花さんを幸せにしたいと思うにちがいない。
だったらもしボクじゃない他の男性と友利花さんが付き合って、それで友利花さんが幸せになるなら、それはきっといいことなんだと思う・・・

友利花さんが笑う時、ボクは嬉しくなる。
友利花さんとボクの笑いが重なる時、もっと嬉しくなる。
もし友利花さんがいつも、あんなふうに笑っていられるなら、その隣はボクじゃなくても、いいじゃないか。

その人は友利花さんの隣で、どんな話をして、どんなふうに友利花さんを喜ばすのだろう。
友利花さんの様子がこんなに変わってしまうぐらい、意識する人。それはどんな人なんだろう。
ボクよりもきっと、魅力的なんだろうな。

ボクはなぜか、恋愛がうまくいかない。
いや、傍目からはうまくいっている。大きな喧嘩もなく、誰と付き合っても少なくとも1年以上は続く。
関係はいつも穏やかで、周りからも「仲良しだね」と言われる。ボクも自分たちを仲良しだと思う。それは誰と付き合うことになってもあまり変わらない。
付き合って数ヶ月で喧嘩別れしたりする友達がいるけど、ボクにはそれが全くわからない。あえてそうしろって言われても、ボクにはそれができないと思う。やり方がわからない。
ボクは、いつも仲良しのまま、別れる。
「そろそろだよね」と、そんなふうに別れる。どちらからともなく。お互い笑顔で、別れる。「今までありがとう」と言い合って。
いつもボクは、そんなふうに別れる。誰と付き合っても、変わらない。
もちろん別れたくない時もある。けど、もしその方がいいのなら、無理に引き止めたくもない。向こうがそれで、幸せなら・・・

なんでだろう。なんでいつもボクの恋愛は、穏やかに始まり、穏やかに親密になって、そして穏やかに終わってしまうのだろう。
ボクという男が、どこか物足りないのかもしれない。どんな女性にとっても。
そう言われたことはない。けど、そんな気がする。
付き合ってしばらく経つと、相手がそんなふうに思っているんじゃないかと思い始める。「もしかしたら他に好きな人ができたのかもしれない」となんとなく思うことがある。
けどボクは、聞かない。
聞けない。
「他に好きな人ができたの?」なんて聞かれて、いい気持ちがする人なんていないだろうから。聞いてみようと思うこともあったけど、どうしてもその一言が、ボクの口からはうまく出てこなかった。
そしてボクは言い聞かせる。「きっとボクの気のせいだ」「ボクは心配しすぎだ」って。

———友利花さんは今、誰か好きな人はいるの?

沈黙の気まずさを打ち消すかのようにボクは「沙織さんは最近元気?」と聞いてみる。
「元気ですよ」という返事が返ってくる。

これ以上、何を聞けばいいんだろう。

振り返るとボクは、告白したことよりも告白されたことの方が多い。
何かをきっかけに仲良くなって、友達として一緒にいるのが楽しくなって、そして向こうから、告白してくれる。
もちろんボクから告白することもある。でもボクは、告白して振られたことがない。それはボクがモテるからとか、魅力があるからとか、そういうことじゃない。
ボクはボクのことを好きになってくれる人しか、好きにならないのかもしれない。

———友利花さんは今、誰か好きな人はいるの?

沙織さんには長く付き合っている彼氏がいて、結婚も考えているらしい。

「友利花さんの周りは結婚してる人多いの?」

どうしてボクは、心が聞きたいことと違うことを、聞いてしまうのだろう。
いつも、そうだ。いつもそうだった。

———友利花さんは今、誰か好きな人はいるの?

もしこの質問をして「います」と言われたら・・・
きっとそれは、ボクじゃない。
そう言われたボクはどうすればいいのだろう。
ボクは友利花さんのことが、好きなのかもしれない。
でももし、友利花さんには他に好きな人がいたら・・・
ボクは、どうすればいいのだろう。
わからない。ボクにはきっと、経験がないんだ。
告白したことはある。付き合ったこともある。結婚を考えたこともある。
けどボクは、こうした友利花さんへの想いを、どう進展させていけばいいのか、わからない。
もう34歳なのに。こんな経験すらしてきてないのか、ボクは。
ボクは本当の意味で、ちゃんと恋愛をしてきたのだろうか。

———友利花さんは今、誰か好きな人はいるの?

ボクの、心の声。
電話口で行き交う乾いた音。
その対比を、ボクは呪う。

>>次回話


【あらすじと初回話】


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