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15. Yurika|読む人の運命を加速させる恋愛小説

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春は、苦手だ。
嫌でも色々なことを思い出してしまう。

私は沙織にLINEを送る。
「今から行くね」
同時に、洸太さんからLINEが来る。
「直樹さんとのお花見、どうだった?」

洸太さんは本当に不思議なタイミングで連絡をしてくる。いつも。
「楽しかったですよ」
そう送りスマホをポケットにしまおうとすると、また通知が来る。
「なんだ〜、朝まで直樹と一緒にいればよかったのに〜」
このテンションの沙織はもう酔っているに違いない。
私はクスッと笑ってスタンプだけ送る。

あの夜、直樹さんは私のことを抱きしめた。とてもとても、強く。
それを沙織にも話した。沙織はすごく興奮した様子で目を見開き、「おー!直樹さん、ついに!」と叫んだ。
「それでそれで?その後は?」
「え?ああ、それで、解散」
私がそう言った後の沙織の顔の落胆ぶり。興奮からの落差が凄まじかった。「えぇっ!直樹さん、何それ」と言って。

私はあの日、どうしたかったんだろう。
いや、どうにかされたかったのかもしれない。
あの夜もし、直樹さんが私のことを、引き止めていたら。もし直樹さんが「今日は帰したくない」とか———

ずるいな。

スマホが揺れる。洸太さん。
「そう。それはよかった」

ずるい。
どうなりたいの。

あの夜、直樹さんと別れた後、私は洸太さんに電話をした(どうして電話したんだろう)。
洸太さんはなんだか憔悴し切った様子だった。
あんな洸太さん、初めてだった。

「・・・もしもし」
電話に出た私の声はすごく怯えていた。
「ごめん、本当に」
「いえ」
「ごめん・・・」
「大丈夫ですよ」
洸太さんが何に謝っているのか、わからなかった。
「どうしても、声聞きたくて」
私も———「はい」
「ひとりぼっちに・・・」
「え?」
「本当に、ひとりぼっちになっちゃった」
なぜかはわからない。わからないけど、洸太さんがそう言った時、涙が止めどなく溢れてきた。
洸太さんも電話の向こうで、泣いていた。

「これから沙織たちとたこ焼きパーティーしてきます」
洸太さんにLINEを送る。
電車の中は、本格的な春の陽気を待ち望むカップルや家族連れが楽しそうにしている。

あれから洸太さんとは何度も電話をしている。直樹さん、以上に。
毎日のつながりも戻った。
「おはよう」から「おやすみ」まで、そしてまた「おはよう」で再開する、つながり。
洸太さんとはLINEを交換した。
「もうアプリはやめようと思う」洸太さんは電話の向こうでそう言った。
「そうなんですね」私たちは———?
「友利花さんとは、ずっとつながっていたい」
私はなんで、ホッとしてるの。
「僕とLINE、交換して」
「・・・」
「お願い」

お願い———
あの夜から洸太さんは、何かが、違う。

洸太さんにLINEを教えるのは抵抗があった。
電話をする時はいつも洸太さんの番号に私からかけていた。非通知で。
LINEや電話番号は教えたくなかった。マッチングアプリだけの関係に留めておきたかった。アプリで知り合って少しだけ仲良くなった、既婚者。それで終わりにしたかった。
私は結局、洸太さんとLINEを交換した。その後私も、マッチングアプリをやめた。

洸太さんからのLINEをスマホが知らせる。
「沙織さんは同じ東北出身の同期の子だよね?」
私は吊り革に掴まりながらスマホを打つ。
「そうですよ。すっごいお酒好きでたぶんもう酔ってます(笑)」

結局すごい、落ち着いてしまう。洸太さんとのつながりに。どうしようもなく、安心してしまう。
洸太さんから連絡が来なかった間、あんなに苦しくて、眠れなかったのに。洸太さんとのつながりが戻っただけで私は———

洸太さんからすぐ返信が来る。
「男性の同期もいるの?」

最近の洸太さんは、なんだかすごく、求めてくる感じがある。焦がれている感じ。
でも私は、未だ洸太さんとは会わないようにしている。だって、会ってしまったら・・・

「どうだろう、いるのかな」と私は送る。
その後少し考えて、「不安ですか?」と付け足す。

ずるい。

洸太さんはあれから、何かがどんどん変わっていった。深く深く、何かと向き合おうとしていた。その過程で、洸太さんと私は色々なことについて話した。
「友利花さんは親と仲いい?」
洸太さんは電話口でこう聞いてきた。
「どうだろう。普通、ですかね」
「普通、か。普通って、どんな感じなの?」
「うーん、お母さんとはしょっちゅう電話しますし、お父さんは仕事でたまに東京に来るんですがその時は一緒にご飯食べに行ったりしますよ」
「そっか」
洸太さんは?
と聞こうとして、やめた。なんとなく。

洸太さんはどこか苦しそうだった。何かに閉じ込められているような。
でもそれを、壊そうとしているのもわかった。抜け出そうとしてる。何かから。それが、感覚的に、わかった。
そして私は、誓った。
今は洸太さんのそばにいよう。私は洸太さんを支える。無条件に。
なんでそんなふうに思ったのかは、わからない。

「友利花さん、直感タイプだよね」
電話口の洸太さんの声を思い出す。
「そうですね。結構そうかも」
「そしたらさ」
「はい」
「僕の声から、直感で答えて」
洸太さんの声。
「はい」
「一つだけ、質問するから」
「わかりました」

「僕は、間違っていると思う?」

スマホの振動が私を現実に引き戻す。
洸太さんからのLINE。
「不安だよ。友利花さんが男の人もいる場でお酒を飲むのは、すごく不安」

ずるい。
「何もないから大丈夫ですよー」
私は揶揄う表情の絵文字と一緒に返信する。

洸太さんは、私と直樹さんが何かあったら、どうするんだろう。私がもし直樹さんと付き合ったら、洸太さんとの関係はどうなっていくんだろう。
洸太さんは直樹さんのことを気にしている。もちろん色々聞いてくる。
でもだからといって何もない。「友利花さんが幸せなら、それが一番いいことだと思う」と言って。
直樹さんに抱きしめられた話は、洸太さんにはしていない。

———洸太さんは、間違ってない。

じゃあ、私は?

最寄駅への到着を知らせるアナウンス。私はスマホをしまい、出口に向かう。
今この電車に、もし偶然にも洸太さんが乗っていたら、私は気づくのだろうか。洸太さんは、気づくのだろうか。
きっと、気づくのだろう。お互い、同時に。
そんなことを考えてしまう自分を頭から振り払い、私は電車を降りた。

>>次回話


【あらすじと初回話】


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