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10. Yurika|読む人の運命を加速させる恋愛小説

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「友利花、大丈夫?」遅れて休憩に入った沙織が聞いてくる。
「うん、ごめん。大丈夫」
「あのお局の言うことなんて気にしなくていいんだからね」
「うん」

私は今日、ミスをした。
いや、今日も、だ。

「やる気のない看護師なんて患者にとって迷惑なだけだよ」
先輩の刺すような言葉を思い出す。
やる気がないわけじゃない。
でも———

「体調悪いなら早めに休憩入る?」
師長にそう勧められ、私は早めに休憩室に向かった。
全然、眠れてない、最近。夜、目が覚める。何度も。
起きると胸の奥が軋むように痛い。
息も細い感じがして、苦しい。空気がうまく吸えない。

———でも、大丈夫。
今はあまり考えない方がいい。午後、働けなくなる。

「なんか、あった?」沙織が聞いてくる。
私はただ黙って、首を横に振る。
沙織が私のことを見ているのがわかる。
でも今は、沙織の顔が見れない。

何度も、何度も、呼んでしまう。あの人の名前を。
壊れそう。
もう、壊れそう———

私はまたスマホの画面をつける。1日に何度も、見てしまう。
マッチングアプリのアイコンは、どこか寂しそうに、画面の中でひっそりとしている。

「ちょっと休んだほうがいいんじゃない?最近顔色すごく悪いよ」
沙織の心配そうな声が聞こえる。
「大丈夫だよ。ごめんね」
私は振り絞るようにして顔を上げ、笑顔を作って沙織に言った。

なんで?
なんでだろう。
なんで洸太さんから、急に連絡が来なくなったんだろう。
電話の後、特に変わった様子もなかった。むしろもっと、親密になった気がした。電話をして、ぐっと近づいた。

近づきすぎた、から?

わけもなく、私は洸太さんとのメッセージを見返す。

「何か、ありましたか?」

1週間以上前に私が送った最後のメッセージが、くっきりとそこには残ってる。
洸太さんから連絡が急に来なくなって、散々悩んだ挙句、1通だけメッセージを送った。それでも洸太さんからは何の連絡もなかった。

「友利花、今日どうするの?」沙織の声がする。
「え?」
「いやほら、今日の夜、直樹さんと会うって」
「あ、うん」そうだった。
「会うん、だよね?」
「うん」
「そっか」
会えるかな。こんな状態で。

直樹さんとはずっとやりとりが続いている。
毎日LINEして、週に2回ぐらい電話もする。何度かご飯にも行った。
直樹さんもどこか、私の様子に気づいているような気がする。
でも直樹さんは何も言わない。ただいつも通り、あの優しい雰囲気で———

ガタンッと扉が開く音がして、体が強張る。
苦手な先輩が部屋に入ってきて、場の空気が少し固くなった気がした。
沙織は何も気にしない様子でスマホをいじっている。

「直樹さんは友利花のこと気になってるんじゃないの?」
この前沙織にそう聞かれた。
「どうだろう。わかんない」
私はそう答えた。
正直な答えだった。直樹さんの気持ちは、わからない。
毎日LINEをして、電話もしてる。ご飯にも行ってる。好意のようなものを確かに感じる時もある。
でも、わからない。直樹さんのは、伝わってこない。どこか伝わってこない。
なんでだろう。こんなにたくさん電話して、会ってもいるのに。

洸太さんは、たった一回、電話しただけなのに———

机の上に置かれたスマホを見つめる。
スマホすら洸太さんとのやりとりを思い出しているかのように、寂しげに映る。
静かに、身を潜めている。鳴るはずのない通知を待って。

洸太さんの「おはよう」。洸太さんの「お疲れ様」。洸太さんの「おやすみ」———

そういう、ことなのかな。
結局、洸太さんとの関係は、始まったとしても、どこまで行っても、不倫にしかならない。
洸太さんは、直樹さんとのことを応援するって言ってた。
そういうこと、なんだよ。
結局、そういうことなんだ。

「友利花」
「うん?」私は沙織の方を見る。
「これ」そう言って、沙織は私にスマホを渡す。「友利花、牡羊座だよね?」
「うん、そうだよ」
「それ、今日の友利花の占い」

『心に従って。きっと、大丈夫だから』

「うん」やばい、泣きそうだ。職場なのに。
「大丈夫だよ、友利花」
「うん、ありがとう」
私は食いしばる。涙が出ないように。

そう、だよね。きっと、大丈夫。
私はやっぱり幸せになりたいよ。
もう辛い恋愛は嫌だ。幸せになりたい。
安心できる人と一緒になって、愛し合って、幸せになりたい。

「ありがとう」
私はもう一度言って沙織の顔を見る。
「うん」
沙織はまっすぐ私を見て、笑った。

私は時間を確認して、大きく深く、深呼吸をする。

うん、大丈夫。
「じゃあ、そろそろ行くね」
私は沙織にそう言って立ち上がった。
「無理しないでね」
「うん」
鳴らないスマホを握りしめ、ポケットにしまう。

もう、やめよう。

私はいつもより強くドアノブを握りしめ、休憩室から病棟へと戻っていった。

>>次回話


【あらすじと初回話】


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