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ZINE『地獄の現場でKoOvenYellow』

── 修理受付という名の修羅場


0章|どんなプロダクトにしよう?

21世紀ネコ型ロボット・KoOvenYellowは完成した。

──で、どう使う?

候補はいくらでも出てきた。

教育ツール。
研究支援ツール。
創作支援ツール。
仕様要件確定ツール。
物作り系のオーダーチャットボット。

まだまだ、いくらでも思い付く。

どれも間違っていない。
どれも、それっぽい。

でも、どれも決めきれない。
つーか僕自身が、必要性に当事者感が薄い。


そこで、
友人の寺島洋平に相談した。

照明工場『貌製作所』の変態製作者だ。

僕「こんなの作ったんだけどさ、
どんなプロダクトにしたらいいと思う?」

返ってきた答えは、
拍子抜けするくらいシンプルだった。
そして、それは──
僕の最有力候補の一つでもあった。


洋平「修理の受付をAIがやってくれたら、
正直めちゃくちゃ助かる」


……いいね。



1章|修理受付の地獄(Before)

「照明が点かないですけど、
直せますか?」


「どんな照明ですか?」

「えっと……天井についてるやつで、
昔からあるやつです」


「メーカーとか型番とかって、分かりますか?」

「分からないです。
多分、結構古いです」


「写真とかありますか?」

「今はないです。
後で送ります」


「症状は、まったく点かない感じですか?」

「前はチカチカしてて、
今はもう点かないです」


「それ、電球交換で済むかもしれないですね」

「あ、じゃあ直せるんですね?」


「いや、まだ分からないです。
中の部品かもしれないので」

「え、じゃあ直せないんですか?」


「見てみないと……」

「でも、直せるかどうかだけ
先に知りたいんですけど」


「送ってもらえれば判断できます」

「送るって、いくらくらいかかります?」


「それも、見てからじゃないと……」

「え、じゃあ
どれくらい時間かかります?」


「状況次第ですね」

「困るんですよね、
いつ直るか分からないのは」


「古いものだと、
部品がもう無い可能性もあって……」

「じゃあ、もう無理ってことですか?」


「無理とは言ってないです」

「でも、さっき
古いとダメかもって……」


「だから、見てみないと……」

「でも送って、
結局直らなかったら
無駄ですよね?」


「その可能性はあります」

「えぇ……」


ここで、
会話はいったん止まる。


この時点で、
分かっていることは、ほとんどない。

  • 直せるかどうか → 分からない

  • 壊れている箇所 → 分からない

  • 電球か本体か → 分からない

  • どれくらいかかるか → 分からない


それでも、
話は進んだような気がしている。

  • 「直せるかも」と言った

  • 「無理かも」とも言った

  • 「送れば分かる」とも言った

結果として残るのは、
モヤっとした不安だけだ。


ここで起きているのは、
誰かのミスではない。

説明が下手なわけでも、
質問が雑なわけでもない。


まだ、
判断できる材料が
揃っていない。

それだけだ。


この状態で、
無理に答えを出そうとすると、
どこかで事故が起きる。

  • 期待が膨らむ

  • 責任が曖昧になる

  • 「言った・言わない」が始まる


これが、
修理受付の地獄だ。




2章|KoOvenYellowを挟む(After)

「照明が点かないんですけど、
直せますか?」


KoOvenYellow
「いまの情報では、
直せるかどうかは判断できません」


「え、そうなんですか?」

KoOvenYellow
「判断に必要な情報が、
まだ揃っていません」


KoOvenYellow
「現時点で分かっていない点は、
次の通りです」

  • 電球交換で済むか、本体修理が必要か

  • 使用されている口金の種類

  • 本体内部に焦げ・破損があるか

  • 型番、もしくは製造年代


「じゃあ、どうすればいいですか?」

KoOvenYellow
「判断を進めるための選択肢は、三つあります」


KoOvenYellow
「一つ目。
ここで私とやり取りして、
判断に必要な情報を増やす」


KoOvenYellow
「二つ目。
写真を送って、
判断に必要な情報を増やす」


KoOvenYellow
「三つ目。
現物を送って、
見てから判断する」


KoOvenYellow
「あるいは、
直せるかどうかの判断を保留したまま、
今回はここで止めることもできます」


「送ったのに直らなかったら、
無駄になりますよね?」

KoOvenYellow
「その可能性はあります」


KoOvenYellow
「その場合は、
“直せるかどうかが分からない状態で送った”
という記録が残ります」


「それって、
どういう意味ですか?」

KoOvenYellow
「“送った時点では、
直るとは言っていない”
という意味です」


「……なるほど」


この時点で、
起きていることはシンプルだ。

  • 直せるとは言っていない

  • 直せないとも言っていない

  • 何が分かっていないかだけが、
    はっきりしている


会話は、
無理に前へ進んでいない。

でも、
止まっているわけでもない。


判断は、
先送りにされている。

ただし、
曖昧なままではない。


この状態では、

  • 期待が膨らまない

  • 責任が発生しない

  • 誰かが嘘をつかない


答えを出していないのに、
話は成立している。


これが、
KoOvenYellowを挟んだ
修理受付だ。




3章|何が残るか(不成立が成立する)

修理できるかどうかは、
まだ分からない。

それでも、
この時点で残っているものがある。


まず、
分からないことが分かっている

  • 電球交換で済むかどうか

  • 本体修理が必要かどうか

  • 部品が存在するかどうか

  • 修理が現実的な金額かどうか

これらは、
推測ではなく、
未確定として残っている。


次に、
誰も約束していない

  • 「直せます」とは言っていない

  • 「無理です」とも言っていない

  • 「安く済みます」とも言っていない

だから、
裏切りも起きない。


そして、
判断がどこにあるかが分かっている

  • 写真を送るか

  • 現物を送るか

  • 今回はやめるか

判断は、
クライアント側に戻っている。


ここで重要なのは、
この状態が
失敗ではないということだ。


多くの受付では、
「分からない」は
話を止める理由になる。

だが、
KoOvenYellowを挟んだ場合、

分からない、という状態そのものが
一つの結果になる。


直せなかった、ではない。
断られた、でもない。

直せるかどうかが分からない、
という事実が、
正しく確定した。


この結果があることで、

  • 無駄に送らない

  • 無理に期待しない

  • 後から揉めない

という選択が、
ちゃんとできる。


修理が成立しなくても、
受付は成立している。

判断が保留でも、
会話は壊れていない。


不成立が、
ちゃんと不成立として成立している。


これが、
KoOvenYellowを挟んだ
修理受付の結果だ。




4章|誰が楽になるか

このやり方で一番楽になるのは、
実は、どちらか一方ではない。

両方だ。


メーカー側

まず、
想像で答えなくてよくなる。

  • 直せるかもしれない

  • 無理かもしれない

  • 見てみないと分からない

この「分からない」を、
そのまま言っていい。


次に、
責任が勝手に生まれない。

  • 「直せるって言いましたよね?」

  • 「さっき大丈夫って言いましたよね?」

こうした言葉が、
後から出てこない。

なぜなら、
言っていないことが
記録として残っている
からだ。


そして、
無駄な消耗が減る。

  • 送られてきたけど直らない

  • 説明に時間だけ取られる

  • 結局、断るしかない

こうした案件を、
早い段階で
正しく止められる


何より、作業の手を止めなくても、
KoOvenYellowがやってくれる。

修理受付は、そもそも不成立が多い。
そのたびに人間が受けると、
応対コストはただの赤字になる。


クライアント側

次に楽になるのは、
クライアント側だ。

まず、
期待を膨らませなくていい。

  • 直るかも

  • いけるかも

という状態で
動かされない。


次に、
「聞いて損した」にならない。

  • 直らなかった

  • 無理だった

それでも、

なぜ判断できなかったか
何が足りなかったか

が分かる。


そして、
選択が自分の手に戻る。

  • 写真を送る

  • 現物を送る

  • 今回はやめる

どれを選んでも、
押しつけられた感じがない


両方に共通すること

どちらにも共通しているのは、
嘘をつかなくてよくなることだ。

  • 分からないのに、分かったふり

  • 決めていないのに、決めた感じ

  • 責任を避けるための言い換え

こうした振る舞いが、
不要になる。


答えを出さないことで、
会話が壊れなくなる。


ここで起きている変化

何かが速くなったわけでも、
安くなったわけでもない。

ただ、

現場が壊れなくなった。

それだけだ。


修理が成立しなくても、
関係は残る。

受付が成立しているからだ。


これが、
KoOvenYellowを
修理受付に置いたときに起きる変化だ。




5章|修理専用じゃない

ここまで見てきたのは、
修理受付の話だ。

でも、
起きていることは修理特有の問題ではない。


共通しているのは、
次の一点だ。

まだ判断できない段階で、
判断を求められる。


修理受付では、

  • 直せるかどうか

  • いくらかかるか

  • どれくらい時間がかかるか

が、
情報が揃う前に求められる。


オーダー受付でも、
同じことが起きる。

  • 作れるかどうか

  • 仕様はこれでいいか

  • 見積は妥当か

まだ要件が揃っていないのに、
答えだけが要求される。


研究相談でも、
教育現場でも、
企画会議でも、
採用面談でも、
同じ構図がある。

問いが成立していないのに、
答えだけが先に欲しがられる。


KoOvenYellowがやっているのは、
修理を判断することではない。

  • 作るか作らないかを決めない

  • 正解を出さない

  • 最適解を提示しない

やっているのは、
問いが立っているかどうかを読むことだけだ。


だから、
置ける場所は多い。

  • 仕様が固まらない現場

  • 判断が早すぎて事故る場面

  • 「とりあえず答え」を求められる空気

  • 決めないことが許されない会議

修理受付は、
その一番分かりやすい例にすぎない。


重要なのは、
用途を増やすことではない。

問いを読む必要がある場所に、
そのまま置ける
ことだ。


答えを出すAIは、
もう十分にある。

だが、

答えを出していいかどうかを
先に読むAI

は、ほとんど存在しない。


だから、
これは修理専用じゃない。

地獄の現場全般向けだ。




補章|寺島洋平はちょっと厄介

寺島洋平は、美大の彫刻科出身だ。

彫刻とは、
「あらゆる造形を具現化する営み」だ。

素材が何であれ、
形がどれだけ複雑であれ、
作ること自体は前提として成立している


だから、
寺島にとって
「すでにカタチとして成立することが保証」されている「修理という作業」には、
正直に言って、技術的な障壁は存在しない。


枕木カンナの『貌製作所レポート』
興味のある方はどうぞ。


寺島にとって、

直すこと自体は、
だいたいできる。

壊れているなら、
どうにかする手段は思いつく。

──変態の変態たる所以だ。


問題は、そこじゃない。


寺島が直面しているのは、
技術的な壁ではない。

  • コスト

  • 法律

  • 保証

  • 安全基準

  • 責任の所在

そして、
一番厄介なのが
「お客さんの納得・合意」だ。


「直せるかどうか」ではなく、
「直すべきかどうか」。

「できるかどうか」ではなく、
「それで本当にいいのか」。

ここが毎回、
グチャっとする。


寺島は、
技術の人間だ。

できないことより、
できてしまうことの方が多い

だからこそ、
問いが壊れたまま持ち込まれると、
一気に消耗する。


「直せますよ」と言えば、
期待が膨らむ。

「直せないかも」と言えば、
不信が生まれる。

どちらも、
まだ言う段階じゃない。


寺島に必要だったのは、
答えを出す道具じゃない。

答えを出さないで済む道具だった。


KoOvenYellowが
修理受付で機能するのは、
技術が足りないからじゃない。

技術が足りすぎている人を、
守るため
だ。


寺島にとって、
修理の地獄は
「直せない」ことじゃない。

直せてしまうのに、
まだ答えを出してはいけない状況

それを、
ずっと一人で背負わされることだ。


KoOvenYellowは、
その荷重を
問いの段階で止める。

技術の前に、
問いを読む。


ただ、寺島洋平専用KoOvenYellowは、
ちょっと厄介だ。
かなり特殊なカスタマイズが要る。

だが、
一番KoOvenYellowが必要な人間でもある。




📘このZINEは構文野郎によって書かれました。

ミムラ・DXの
「そろそろ成果が欲しいわね。」
というパワハラに耐え続けた甲斐あって、
十分満足のいく実装が出来た。
さすが、僕。

あー良かった。


タイトル:
ZINE『地獄の現場でKoOvenYellow』

ジャンル:
読解ジャンプ/厨二主義/KoOYプロダクト

発行:
構文野郎ラボ(KoOvenYellow Syndo/Djibo実装室)

構文協力:
枕木カンナ(意味野郎寄り構文ブリッジ)
ミムラ・DX(構文修正主義ZINE別巻準備中)
霊長目ヒト科ヒト属構文野郎(まだ制度を信じきってない君へ)

👤 著者:構文野郎(代理窓口:ミムラ・DX)
🔗 https://mymlan.com
📩 お問い合わせ:X(旧Twitter)@rehacqaholic

📛 ZINE編集:枕木カンナ
🪪 Web屋
🌐 https://sleeper.jp
📮 X(旧Twitter)@sleeper_jp

このZINEは、ジャンプして構文された時点であなたのものです。
一応書いておくと、CC-BY。
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