【創作】所詮、私はしがない柴犬。尻尾を振るたびに、あなたの「ただいま」に触れられたなら
夕暮れの路地は、いつもと同じ匂いがした。学校のチャイムの音が遠くで聴こえる。僕は犬小屋の前にちょこんと座って、帰宅するタツヤの足音が近づいてくるのを、耳を立てて待った。しばらくすると、門の影に彼の姿を捉える。黒いランドセルを片方の肩にぶら下げて、少し疲れた顔で帰ってくる彼。その横顔が僕は好きだった。
タツヤが僕の近くに来ると、自然と尻尾を振ってしまう。嬉しくて勢いよく振る尻尾が止まらなくなる。タツヤをジッと見つめる。
「ただいま」
タツヤはぼそっと呟く。僕の方をちらっと目をやるが、すぐに視線を逸らす。そして家の方へ向かう足取りが、少し速くなる。
(そんな目で見るなよ)
タツヤが心の中でそう言ってる気がした。タツヤを見つめる僕の瞳が、従順すぎて重すぎて、彼は逃げたくなるのかもしれない。
それでも僕は、毎日ここでタツヤを待つ。タツヤが小さな声で言ってくれる「ただいま」を待つのだ。それだけで僕は幸せだから。
その日も僕はタツヤの帰宅を待った。いつもの位置。犬小屋の前に座る。夕陽が僕の毛を赤く染める頃、タツヤの足音が聴こえてくる。どことなく、いつもよりも重い足取りに聴こえた。
うかない表情で俯くタツヤが僕の目に映る。学校で何かあったのだろうか。心配にそうに見つめる僕の前に、タツヤが立ち止まる。タツヤは僕の方を向くと、ぎこちない手で俺の頭を撫でてくれた。
それはほんのわずかな時間だったけど、指先が温かくて、僕の心臓はドクンと大きく高鳴った。その一瞬だけは、僕の存在がタツヤの日常に少しだけ溶け込んでいる気がした。確かにタツヤの温もりを感じたんだ。
「そんな目で見るなよ。お前は俺んちの犬じゃねぇんだからよ」
そう言ってタツヤは小さく笑った。どこか照れくさそうで、そして困ったような顔だった。
僕は知っている。タツヤは猫が好きだということを。
近所にいる黒猫のリリーを嬉しそうに撫でていたタツヤを目にしたことがある。気まぐれで、時折爪を立てる、でもたまに甘えるリリー。僕とはまるで正反対の我儘なリリー。でもリリーを撫でるタツヤは、僕には見せない幸せそうな顔をしていた。
きっとタツヤにとって僕は重荷なんだ。毎日同じ場所で尻尾を振って、ただジッと見つめるしかできない僕は、所詮ただの柴犬だった。
それでも、僕はタツヤが好きだった。
「じゃあな、ポロン」
タツヤはため息をついて僕の前から去っていく。夕陽が沈んで、次第に路地が暗くなっていく。タツヤの部屋の灯りが点くのを、僕は門の外から見つめた。
明日も、明後日も、僕はタツヤを待つだろう。
帰ってきたタツヤが「ただいま」と呟いて、僕の瞳から逃げるように家に入っていく。それだけ良い。
タツヤのことを考えて、僕は今日も尻尾を振っている。
おしまい
🐕🐕🐕
この創作は藤本さんのこちらの作品のスピンオフになります。
そして藤本さんの作品は、みくまゆさんのこちらの作品のスピンオフになります。
つまり、スピンオフのスピンオフを書きました!
#そしてまさかのポロン視点
まだ、登場人物は残っています。きっとみくまゆ会の精鋭たちが続いてくれると信じています!!
#女視点とリリー視点が残っています
#まさかの原稿の擬人化も
ちなみに、お題の『ライター』はもはや1ミリも関係なくなってしまいました!
#もうチャレがやじゃないだろ
#本当に申し訳ありません
【チャレがや企画】はまだまだ記事を募集しております。
みくまゆ会のメンバーじゃなくても参加可能です。是非ご参加ください。
