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【創作大賞感想】喰うか喰われるか、あなたはどうする

日付が”6月29日”に変わったばかりの0時、僕のスマホに一通の通知が届きました。

白鉛筆さんが【長編】山猫軒のオーダーシート(1)を投稿しました

白鉛筆さんが?長編?
僕の胸が期待で高まりました。それに呼応するように次々と通知が届きます。

白鉛筆さんが【長編】山猫軒のオーダーシート(13)《最終話》を投稿しました

最後の通知を見届けた僕は「長い夜になる」ことを確信して、通知先を開いたのでした。


白鉛筆さんの【山猫軒のオーダーシート】を拝読しました。

 人を殺した、かくまって欲しい。旧友である黒川からの依頼を受け、大学生の時雨しぐれは、期間限定で彼を保護することに。同級生であった時代、病気で声が出なかった黒川は今、声優として初仕事を控えていた。「捕まる前に、一度でいいからこの声で社会と関わりたい」。黒川の夢と、それを叶えようとする幼馴染のツクル。それぞれの思いに触れ、協力を続ける時雨だが、黒川が隠したという死体が実は存在しないことを知る。黒川は本当に人を殺したのか、殺していないなら何故逃げてきたのか。声優事務所との接触により、徐々に明らかになる真相。その現実に対し、自分は一体どうすればよいか。状況に翻弄されながら、黒川の初仕事の日が近づいてくる。

山猫軒のオーダーシートあらすじより

「ごちそうさま」で始まり「いただきます」で締めくくられるこの『山猫軒のオーダーシート』は、息をのむような心理サスペンスと、登場人物の心の機微を丁寧に描いた人間ドラマの傑作でした。「嘘と真実」「信頼と裏切り」「喰うと喰われる」などのさまざまな対比が目まぐるしく交差する中で、主人公シグの葛藤や成長、幼馴染ツクルの思惑、黒川の復讐、瀬野の狂気、【ママ】の異常性が複雑に絡み合い、読む者の心を満たしてくれる極上のエンターテインメント作品だと思います。

白鉛筆さんファンはもちろんのこと、初見の方でも絶対に楽しめる超オススメ作品です。以下は僕なりの感想になりますが、多少のネタバレを含みます。出来れば、先入観なしに読んでいただきたいと思っておりますので、まずは本編からお読みください。


……お読みいただいたでしょうか。
それでは感想を書かせていただきます。ネタバレも含みますし、そこそこ長文になっております。お時間ある時にゆっくりお読みください。

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『山猫軒のオーダーシート』は、黒川の殺害告白や芸能事務所の闇など、サスペンスを軸としながら、その実は登場人物それぞれの内面的な葛藤と成長を描く深い人間ドラマだと思いました。主人公シグ(村井時雨)の「耐える」生き方から「守る」決意への成長を軸に、ツクル(三科創)の「思惑」との対峙、黒川稔の復讐、瀬野はじめの狂気、【ママ】の異常性が織りなす心理戦が本当に面白くて、何度も予想を裏切られる展開が読んでいてとても心地よかったです。毎話の冒頭に宮沢賢治『注文の多い料理店』の一文が引用されています。それが物語と絶妙にリンクし、不気味さや緊張感をより一層高めています。

僕が特に面白いと思ったのが、シグが喰われる側から喰う側へと逆転する場面です。
シグがリンクス・プロダクションの「闇」を逆手に取り、瀬野と【ママ】の写真を撮影して交渉を仕掛ける展開は、物語のクライマックスとして圧巻でした。「喰らえ」という宣言は、シグの成長を象徴する名シーンでした。 シグの精神的支柱である幼馴染のツクルの「勝ちたい」という執念は、物語に熱を持たせました。知的な彼が、過去の負債である5年1組での敗北をずっと引きずっており、シグを巻き込んでまで乗り越えようとする我儘はとても人間味が溢れて魅力的に映りました。シグの裏切りに笑う寛容さや、「偽善者であり続ける」と宣言する姿は、とても印象的でした。

中盤に登場する瀬野(モクバ)の裏切りと狂気は、物語の緊張感を高める推進力として非常に重要な人物だったと思います。【ママ】との淫らな行為や流血する姿は、事務所の「闇」を象徴しており、きっと彼も一人の被害者なんだと感じました。また、黒川の嘘の動機も衝撃でした。わざわざ「人を殺した」と嘘をついたのが、5年1組のいじめへの復讐と声優としての情熱を試す演技だったのは、物語の最大の謎を解きつつ、黒川の複雑な心情を浮き彫りにしていました。さらに【ママ】の中絶への関りがあるような描写は、物語に深みと解釈の余地を加え、読後にも考えさせられました。

物語のラストシーンのハルコとの食事の場面は大好きなシーンの一つです。そこで交わされるハルコとの日常的な対話は、温かく希望に満ちた名場面であり、これまでの緊迫したサスペンスとのギャップもあって、本当に胸に沁みました。シグの「ごちそうさま」という無自覚な行動が彼女の心を救ったと知り、「信じる」ことの価値を再発見する流れは、物語の暗さを中和し、爽やかな余韻を残しました。最後の一文が「いただきます」だったこともニクい演出です。

そしてこの作品のタイトルがまたすごいと思いました。『山猫軒のオーダーシート』は物語のテーマと構造を完璧に体現したタイトルです。宮沢賢治の『注文の多い料理店』の作中に出てくる「山猫軒」は、リンクス・プロダクションの搾取と”喰うか喰われるか”のモチーフを象徴しています。「オーダーシート」は、シグ、ツクル、黒川が自身の意志で「注文」する行動(交渉、我儘、嘘)を記録するメタファーであり、タイトルの意味を鮮やかに具現化していると思いました。
タイトルに拘る白鉛筆さんらしい、物語の核心を捉えつつ読者の想像力を刺激する非常に素晴らしいタイトルでした。


さて、生粋の白鉛筆さんファンの方なら、おそらく物語の途中で気づいたのではないでしょうか。登場人物の村井や三科、黒川、そして5年1組のいじめの問題。そうです。この物語はあの白鉛筆さんの最初の作品である【花咲かずにして、春を待つ。】の続編というべき作品なのです!

この事実に気づいた時、白鉛筆さんファンとして非常に胸が熱くなりました。「ありがとう白鉛筆さん」と思わず呟いていました。
こちらの作品を拝読されると、物語に深みが出ること間違いと思います。是非ご一読を。


『山猫軒のオーダーシート』は、心理サスペンスのスリルと人間ドラマの深みを融合させた傑作だと思います。シグの逆転劇、ツクルの思惑、黒川の嘘、ハルコとの温かな対話など、濃密な物語は僕ら読者の心を大きく揺さぶり、そして充実感と満足感でお腹がいっぱいになりました。
「ごちそうさま」と「いただきます」の間に、スリルとサスペンスとそして希望を見事に織り込んだ白鉛筆さんのさすがの筆力に、僕は心からの拍手を送りたいです!

白鉛筆さん、極上のエンターテインメント作品をありがとうございました。白鉛筆さんの長編をしっかり味わい堪能させていただきました。本当に本当にごちそうさまでした。


コッシー



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