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『運動音痴は存在しない』─ 我が子と自分の体を変える、動きの設計図【後編】

── 言葉が変われば、動きが変わる


【前編・中編の振り返り】

前編:3つの階層

  • アビリティ(基礎体力)

  • テクニック(動きの巧みさ)

  • スキル(状況判断・駆け引き)

中編:3つのフィルター

  • ライン(体のどこに軸があるか)

  • ポジション(体重はどこに乗っているか)

  • タイミング(どこから、どの順番で動き始めるか)

前編で「何を見るか」、中編で「どう見るか」を手に入れました。

後編では、「どう伝えるか」「どう継続するか」 というコミュニケーションの力をお伝えします。


第7章|「グッドワード」で人は動き出す

「遅い!」と叫ぶ父親が、子供の未来を壊している

「遅い!」「もっと速く!」「何やってんだ!」

陸上アカデミーだけでなく、どのスポーツ現場でも、子供を叱る父親の姿を何度も見てきました。父親は一生懸命に応援しているつもりです。でも、その言葉のすべてが「ダメ出し」になっている。

子供は、回数を重ねるごとに表情がくもっていきます。

バッドワードは、「できていないこと」だけにフォーカスします。
これでは、何をどう直せばいいのかが伝わりません。そして、子供の自己肯定感も下がっていきます。

でも、グッドワードは違います。

グッドワードは、「できていること」「次にやること」 にフォーカスします。

  • バッドワード:「遅い!もっと速く!」

  • グッドワード:「スタートのポジションは良くなったね。次は、一歩目を強く踏んでみよう」

この違い、わかりますか?

グッドワードには、承認具体的なやるべきこと があります。だから、子供は「どうすればいいか」が明確になり、やる気も生まれるのです。


たった3ステップで、子供の目が輝き始める


グッドワードを使うには、シンプルな3つのステップがあります。

1. 観察する(できていることを見つける)

  • 前編・中編で手に入れた3つのフィルターを使う

  • ライン、ポジション、タイミングのどこかに必ず「できていること」がある

2. 承認する(ここができていると伝える)

  • 具体的に「何が」できているかを言葉にする

  • 「頑張ったね」ではなく「ラインが保てているね」と伝える

3. 提案する(次はここを試してみようと具体的に示す)

  • 命令ではなく、提案の形で伝える

  • 「〜しろ」ではなく「〜してみよう」


「できていることが見つからない」は、ただの勘違いだ

多くの父親が「できていることが見つからない」と悩みます。

でも安心してください。前編・中編で手に入れた3つのフィルターを使えば、必ず見つかります。

たとえば、走りが遅い子供でも:

  • ライン:姿勢は良い

  • ポジション:スタートの体重移動ができている

  • タイミング:腕の振りは良くなってきた

このように、どんな子供にも「できていること」は必ずあります。 それを見つけるのが、父親の役割です。


明日から使える!グッドワード実践フレーズ集

スポーツシーン

■ スタート

  • ❌ バッドワード:「遅い!」

  • ✅ グッドワード:「体重の乗せ方、良くなったね。次は一歩目を強く踏んでみよう」

■ 走り

  • ❌ バッドワード:「フォームがおかしい!」

  • ✅ グッドワード:「ラインは保てているよ。次は、腕の振りと脚のタイミングを合わせてみよう」

■ ジャンプ

  • ❌ バッドワード:「全然飛んでない!」

  • ✅ グッドワード:「しゃがみ込みの深さはバッチリだから、伸びあがるタイミングを手の振りと合わせてみよう」

日常シーン

■ 姿勢

  • ❌ バッドワード:「姿勢悪い!」

  • ✅ グッドワード:「集中してやることは良いことだから、同時に姿勢も集中してごらん」

■ 歩き方

  • ❌ バッドワード:「ダラダラ歩くな!」

  • ✅ グッドワード:「リラックスして歩けているね。次は、ラインを意識して歩いてみよう」


【実話】タケシくんの変化

ここで、実際にあったエピソードをひとつ。

タケシくん(仮名・小3野球)は、父親から毎日のように「遅い!」「何やってんだ!」と言われ続けていました。父親は息子を思っての言葉です。でも、タケシくんは次第に練習が嫌いになっていきました。

ある日、父親が陸上アカデミーの見学に来られました。
そこで、私は父親に3つのフィルターを使った「見る基準」を伝えました。

すると、父親の目の色が変わりました。

「コーチ、息子のできていることが、見つかりました!」

翌週、タケシくんの表情が明るくなっていました。
父親の言葉が変わったからです。

グッドワードで変わったタケシの笑顔
  • Before:「遅い!」「何やってんだ!」

  • After:「スタートのラインが良くなったね」「次は、一歩目を意識してみよう」

グッドワードを使い始めてから、タケシくんは自信を取り戻しました。
そして、野球の試合でも積極的にプレーするようになったそうです。

言葉が変われば、動きが変わる。
動きが変われば、結果が変わる。

これは、大げさな話ではありません。
実際に、何度も見てきた光景です。


第8章|「歳だから」で終わらせない

35歳の僕が、20代のボクサーと戦えた理由

僕は、35歳までプロボクサーとして11回も試合に出ました。

正直に言います。若い頃のような瞬発力やスピードは、もうありませんでした。20代の頃の自分と比べれば、明らかに体は衰えていました。

でも、試合には出られました。なぜか?

答えは、「動きを言語化していたから」 です。

言語化のプロセス(感覚→言葉→修正→再現)
  • ラインがどう変わったか

  • ポジションがどこに移動したか

  • タイミングがどうズレたか

こうした 「変化」を言語化 していたから、修正できました。

若い頃は、感覚だけでできていました。 「なんとなく速く打てる」「なんとなく強いパンチが出る」──そんな感じです。

でも、歳を重ねると、感覚だけでは再現できなくなります。

だから、言語化が必要になるのです。


「なんとなく」を「言葉」に変えるだけで、体は変わる

具体的に見てみましょう。

  • 「足を高く上げる」→「地面を強く踏む」

  • 「速く走る」→「ラインを保つ」

  • 「腕を振る」→「タイミングを合わせる」

左側は「感覚的な表現」、右側は「言語化された表現」です。

感覚的な表現は、若い頃は通用します。でも、歳を重ねると、もっと具体的な言葉が必要になります。

「感覚」を「言葉」に変換する ことで、再現性が生まれます。そして、継続できるようになります。


イチローが45歳まで現役だった、本当の秘密

イチロー選手は、45歳まで現役でした。
サッカーキングことカズ選手は、50歳を超えても現役です。

なぜ、彼らは長く現役でいられるのか?

答えは、「動きを言語化しているから」 です。

みなさん、覚えていますか?

「ライオンはウェイトをしない!」で話題となり、世間に衝撃を与えた侍ジャパンの稲葉監督とイチロー選手の有名な対談。

その時にイチロー選手が語っていたのが、「膝と肩はつながっている」 という話でした。

これは、イチロー選手の 身体感覚そのもの を象徴する発言です。

イチロー選手は、こう考えていました:

  • 肩が痛い → 肩だけの問題とは限らない

  • 膝や下半身の使い方が変わる

  • その"ズレ"が肩にストレスとして返ってくる

動きに対して「歳だから」で終わらせていない。 体の変化を観察し、言語化し、修正している。だから、長く現役でいられるのです。


【実話】毎日10km走っていた僕が、2日に1回4kmに変えた理由

ここで、僕自身の経験を少しお話しします。

20代の頃は、こんなトレーニングに夢中でした:

  • やった気になるトレーニング

  • 数値が伸びて安心するトレーニング

  • 他人に説明できないトレーニング

とにかく、量をこなすことが正義でした。毎日10km走り、ひたすらサンドバッグを叩き、筋トレを繰り返す。「頑張っている自分」に酔っていたのかもしれません。

でも、30代になってから、すべてが変わりました。

知識と経験が積み重なり、盲目的に"良い"と言われてきたトレーニングに疑問を感じるようになりました。

「走り込みは本当に必要なのか?」

試合のラウンド数から逆算すると、毎日10km走る必要はないことに気づきました。2日に1回、4kmで十分でした。

  • 20代:足し算(もっと、もっと、もっと)

  • 30代:引き算(競技に必要なものだけ残す)

競技に必要な3つの階層(アビリティ・テクニック・スキル)は残しながら、無駄なものを引き算していく。

まさに 「スマートに頑張る」 です。

そうしたら、頑張ることが楽しくなりました。疲労も減り、パフォーマンスは上がり、試合にも出られるようになりました。

言語化することで、無駄がなくなり、再現性が生まれたのです。


「体が重い」「すぐ疲れる」は、歳のせいじゃない

「最近、走るのが遅くなった」「体が重い」「すぐ疲れる」──そう感じたとき、どうしていますか?

  • ❌ 「歳だからしょうがない」

  • ✅ 「どこが変わったか?」を分析する

3つの階層で分解してみましょう:

  1. アビリティ(筋力・持久力)が落ちているのか?
    → トレーニングで改善できる

  2. テクニック(フォーム・姿勢)が崩れているのか?
    → 日常の意識で改善できる

  3. スキル(ペース配分)を間違えているのか?
    → 戦略の見直しで改善できる

3つの階層で分解すれば、改善点が見えてきます。言語化すれば、再現性が生まれます。

「歳だから」で終わらせるのは、もったいない。あなたの体は、まだまだ変えられます。


第9章|大人と子供は、同じ設計図で動いている

あなたの体が変われば、子供の動きも変わる理由

ここで、とても重要なことをお伝えします。

大人と子供は、動きの設計図は同じです。

  • 3つの階層(アビリティ・テクニック・スキル)

  • 3つのフィルター(ライン・ポジション・タイミング)

これは、年齢や経験に関係なく、すべての人に共通する視点 です。

だから、自分の体を見る視点が、子供の動きを見る視点にもなります。

自分自身が「ラインを意識する」ことで、子供に「ラインを意識しよう」と教えることができる。自分自身が「ポジションを整える」ことで、子供に「ポジションを整えよう」と伝えることができる。

これが、「親子で成長する」という意味です。


言葉で教えるな。背中で語れ。

陸上アカデミーで、何度も見てきました。

父親が変わると、子供も変わります。

言葉で教えるより、実践で示す方が、はるかに効果的です。子供は、親の背中を見て育ちます。

親が「勝ちポジション」で日常を過ごせば、子供も自然とそうなります。

虎の子は虎です。

でも、親が虎の姿を見せなければ、子供も虎になることはありません。


【告白】僕は、父の走る姿を一度も見たことがなかった

ここで、僕自身の話をさせてください。

僕は、父の走る姿を見たことがありませんでした。

父は100kgを超える巨漢だったので、走れないことは子供ながらに分かっていました。

そんな走れない父が、怒号をあげて、子供の僕にトレーニングを強要する。

「遅い!」「何やってんだ!」「そんなんじゃダメだ!」

当時は父の恐怖から、「やらされるトレーニング」をこなしていました。でも、本当は違いました。

本当は、父親にも一緒に走ってほしかった。

そんなやるせない気持ちを経験したから、今、僕は子供だけでなく父親にも動けるようになって欲しいと自然と願うようになりました。

父親が変われば、子供も変わる。
父親が動けば、子供も動く。
父親が笑えば、子供も笑う。

これは、僕が心から願っていることです。


あなたが変わった瞬間から、子供の未来も変わり始める

あなたは、すでに「見る基準」を手に入れました。

  • 3つの階層で動きを分解する視点

  • 3つのフィルターで動きを観察する視点

  • グッドワードで伝える技術

  • 言語化で再現性を高める方法

これらは、すべて「一生使える武器」です。

子供のスポーツを見るときに使える。
自分の体を改善するときに使える。
日常生活の姿勢を意識するときに使える。

あなた自身が変わることで、子供の未来も変わります。


まとめ|言葉が変われば、動きが変わる

■ この3部作で、あなたが手に入れた「武器」の全貌

前編・中編・後編の全体構造

前編(理論編)

  • 3つの階層(アビリティ・テクニック・スキル)

  • 「頑張れ」→「ここを鍛えよう」

中編(実践編)

  • 3つのフィルター(ライン・ポジション・タイミング)

  • 「なんか変だ」→「ここを直そう」

  • 日常習慣化と一コマ前設計

後編(統合編)

  • グッドワードでのコミュニケーション

  • 言語化による再現性向上

  • 大人と子供の共通視点


■ 一生使える「3つの視点」を、あなたは今、持っている

この3部作を通して、あなたは一生使える 「動きの視点」 を手に入れました。

  • 「見る基準」:子供の動きを分解して見る視点

  • 「伝える技術」:グッドワードで具体的に伝える方法

  • 「継続する力」:言語化で再現性を高める習慣

そして何より、「子供と自分、両方の成長」 という二重視点を手に入れました。

これは、本当に強力な武器です。


■ 今日から始める、たった3つの習慣

まず今日から、この3つを意識してみてください:

1. グッドワードで声をかける
「できていること」を見つけて、「次にやること」を提案する

2. 言語化を習慣にする
自分の体の変化を言葉にして、修正する

3. 親子で一緒に実践する
言葉で教えるより、自分が実践して示す


見えれば変えられる。
言葉にすれば再現できる。
実践すれば未来が変わる。

これは、僕が何度も経験してきた真実です。


【あとがき】

運動音痴だった自分が、35歳までプロボクサーとして11回も試合に出られたのは、「動きを言語化する」という視点に出会えたからです。

柔道時代、散々「運動音痴」と言われ、悔しい思いをしてきました。
でも、「動きを見る基準」を手に入れてから、世界が変わりました。

そして今、陸上アカデミーで子供たちを指導する中で、この視点を父親たちにも伝えることの重要性を強く感じています。

なぜなら、父親が変われば、子供も変わる からです。

あなたの視点が変わる。
あなたの言葉が変わる。
あなたの体が変わる。
そして、あなたの子供の未来が変わる。

この連鎖の最初の一歩を、今日から一緒に踏み出してみませんか。

この言葉は、大切なお子様を預かる身として、コーチである僕にも共通する言葉です。僕が変わることで、子供たちも変わると信じています。


運動音痴に苦しむすべての人たちへ。

僕は運動音痴で、自己否定と自己嫌悪で、散々苦しみました。

もし、スポーツが下手でいじめられているとか、自分はダメな人間だとか、苦しんでいる人がいたら、そっと手を差し伸べて、この記事を渡してほしい。

「運動オンチ」なんて、存在しない。あるのは、「見る基準を知らないだけ」です。

【参考文献】

本記事は、『身体動作解体新書』(里大輔著)の内容をベースに、陸上アカデミーで指導している経験から 父親と子供、双方の成長 という視点で再構成したものです。

前編はこちら
中編はこちら


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