🧭ハヤトの冒険03|風が動く日、気をつけろ
ハヤトの冒険
01|選んでしまった一歩
02|キキを追ったその先に
03|風が動く日気をつけろ← 今ここ
ハヤトは手のひらを見つめていた。
(今の揺れ……何だ……?)
恐る恐る、もう一度石碑に触れる。
けれど、今度は何も起きなかった。
少し待ってみても、森は静かなまま。
「……あれ?」
ハヤトは眉を寄せる。さっき確かに揺れたはずなのに、今はただ冷たい石がそこにあるだけだった。
今度は両手で模様をなぞってみる。
押してみたり、横から覗き込んでみたり、苔を払って表面を確かめたり。
でも、やっぱり何も起きない。
「なんで……さっき揺れたのに」
最初に感じた怖さは、いつの間にか薄れていた。それよりも、なんで反応しなくなったのかの方がよっぽど気になる。
ハヤトは立ち上がって石碑をペタペタと触り続けた。でも、いくら触ってもただ冷たいだけ。もう単なる石の塊にしか見えなくなっていた。
そうしているうちに、さっきの揺れが現実じゃなかったみたいに思えてくる。
「カサッ……」
ふと、小さな音に気付く。
ハヤトが顔を上げると、キキが少し先の草むらに鼻先を寄せていた。
前足で軽くつつき、何かを気にしている。
ハヤトは立ち上がり、草をかき分ける。
そこには、白い紙切れが落ちていた。
森の奥には似つかわしくない、やけに真っ白な紙。
「それ……なに?」
ひょいと拾い上げると、指先にほんのわずかな温もりが残っている。
まるで──
ついさっき手を離れたみたいに。
「……ねぇキキ、今だれか……いた?」
反射みたいに周囲を見回す。
けれど、人の姿はない。
風も止まっていて、森は妙に静かだった。
折り畳まれた紙をゆっくり開く。
滲んだ黒い文字で、一言だけ書かれていた。
──風の動く日、気をつけろ──
「……風?」
ハヤトは眉を寄せる。
一体誰が書いたものなのか。こんな森の奥まで来る人なんて、滅多にいないはずなのに。
その時。少し離れた茂みが、サワッと揺れた。
ハヤトはパッと顔を上げる。
風かと思った。
でも今は、葉が揺れるほど風は吹いていない。
じっと目を凝らす。
何もいない。
ハヤトはもう一度、手の中の紙を見る。
それから、石碑の方へ視線を戻した。
さっきの揺れと、この紙の言葉。
何だかよくわからない二つの物が、胸の奥から離れない。
「風の動く日……ね」
そう小さく呟いて、ポケットに紙をしまった。
キキだけが、その茂みの奥をいつまでもじっと見ていた。
ハヤトの冒険

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