🏰06.止まっていた部屋に響いた音
部屋は、相変わらず静かだった。
カレンはしばらく、天井を見ていた。
どのくらいそうしていたのか、自分でも分からない。身体は横になっているはずなのに、どこにも力が入らない。
起き上がろうとして、やめる。
また、何もしないまま、時間だけが過ぎていく。
さっきまで泣いていたはずなのに、今はもう涙も出てこない。代わりに、胸の奥が空っぽになったような感覚だけが残っている。
目を、閉じる。
けれど、眠れるわけでもない。
「わたくし……」
声を出そうとして、やめる。
言葉にしたところで、何も変わらない気がした。
「……」
「……帰りたい……」
小さくこぼれた声は、布に吸われて消えた。

──その時。
……コンコン……
遠慮がちな音。
空耳だと思った。
カレンはすぐには動かなかった。
枕に顔を埋めたまま、ぼんやり考える。
この部屋に誰が?
勧誘かもしれないし、風の音かもしれない。
だが、もう一度音がした。
今度は、はっきりと。
コンコン。
「お嬢様、いらっしゃいますか?」
胸の奥が、トクンと鳴る。
カレンは、はっと我に帰った。
立ち上がろうとして少しよろける。
それでも、一歩を踏み出した。
重かったはずの足が、ほんの少しだけ軽い。
扉の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばした。
◆
「お嬢様、お久しぶりです」
聞き慣れた声。
けれど、すぐには意味が結びつかなかった。
目の前の景色を、ただ見ていた。
そして、ふと我に返った。
「……ああ……」
そこにいたのは──
いつも通りに微笑む、テキパキ。そして、
その隣で静かに頭を下げる、シレット。
「ああ……」
声が、うまく出ない。
夢かもしれないと、一瞬だけ思った。
「……テキパキ……?」
名前が、遅れてこぼれる。
シレットの姿がようやく輪郭を持つ。
「……シレット……」
「……会いたかった……」
次の瞬間、堰を切ったように涙があふれた。
テキパキは驚くでもなく、
そっと両腕で包み込み、優しく背中を撫でた。
「はいはい。もう大丈夫ですよ」
シレットは音もなく、ハンカチを差し出した。
カレンは何度も頷きながら、
うまく言葉にならない声をこぼす。
「わたくしもう……
どうすればいいか分からなくて……」
「大丈夫です。
そのままで大丈夫ですよ」
その言葉に、カレンは目を閉じた。
◆
しばらくして、涙は少しずつ落ち着いていく。
指先に、さっきまでなかった感覚が戻ってくる。
カレンは小さく息を吸った。
「……もう」
「さっきよりは……平気ですわ」
テキパキが柔らかくうなずく。
シレットは変わらず静かに立っている。
それだけでよかった。
そこに“誰かがいる”ということが、
何よりも確かなことだった。
誰に見せるでもなく、小さな笑顔がこぼれる。
──扉を叩く音。
その音だけが、止まっていた時間を
ゆっくりと動かした。

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