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🏰06.止まっていた部屋に響いた音

部屋は、相変わらず静かだった。
カレンはしばらく、天井を見ていた。

どのくらいそうしていたのか、自分でも分からない。身体は横になっているはずなのに、どこにも力が入らない。

起き上がろうとして、やめる。
また、何もしないまま、時間だけが過ぎていく。

さっきまで泣いていたはずなのに、今はもう涙も出てこない。代わりに、胸の奥が空っぽになったような感覚だけが残っている。


目を、閉じる。
けれど、眠れるわけでもない。

「わたくし……」

声を出そうとして、やめる。
言葉にしたところで、何も変わらない気がした。

「……」

「……帰りたい……」

小さくこぼれた声は、布に吸われて消えた。





──その時。


……コンコン……

遠慮がちな音。




空耳だと思った。

カレンはすぐには動かなかった。

枕に顔を埋めたまま、ぼんやり考える。
この部屋に誰が?
勧誘かもしれないし、風の音かもしれない。


だが、もう一度音がした。
今度は、はっきりと。

コンコン。

「お嬢様、いらっしゃいますか?」

胸の奥が、トクンと鳴る。

カレンは、はっと我に帰った。
立ち上がろうとして少しよろける。

それでも、一歩を踏み出した。

重かったはずの足が、ほんの少しだけ軽い。
扉の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばした。

「お嬢様、お久しぶりです」

聞き慣れた声。
けれど、すぐには意味が結びつかなかった。

目の前の景色を、ただ見ていた。
そして、ふと我に返った。

「……ああ……」

そこにいたのは──
いつも通りに微笑む、テキパキ。そして、
その隣で静かに頭を下げる、シレット。

「ああ……」

声が、うまく出ない。
夢かもしれないと、一瞬だけ思った。

「……テキパキ……?」

名前が、遅れてこぼれる。
シレットの姿がようやく輪郭を持つ。

「……シレット……」

「……会いたかった……」

次の瞬間、堰を切ったように涙があふれた。

テキパキは驚くでもなく、
そっと両腕で包み込み、優しく背中を撫でた。

「はいはい。もう大丈夫ですよ」

シレットは音もなく、ハンカチを差し出した。

カレンは何度も頷きながら、
うまく言葉にならない声をこぼす。

「わたくしもう……
どうすればいいか分からなくて……」

「大丈夫です。
そのままで大丈夫ですよ」

その言葉に、カレンは目を閉じた。

しばらくして、涙は少しずつ落ち着いていく。
指先に、さっきまでなかった感覚が戻ってくる。

カレンは小さく息を吸った。

「……もう」

「さっきよりは……平気ですわ」

テキパキが柔らかくうなずく。
シレットは変わらず静かに立っている。

それだけでよかった。

そこに“誰かがいる”ということが、
何よりも確かなことだった。

誰に見せるでもなく、小さな笑顔がこぼれる。


──扉を叩く音。

その音だけが、止まっていた時間を
ゆっくりと動かした。




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