Netflix映画「パヴァーヌ」の音楽 | 劇中登場したクラシック曲とミジョンの聴いていたラジオ番組
前回投稿したNetflix映画「パヴァーヌ」の感想&解説を思っていた以上に多くの方に読んでいただき、大変うれしく思っています。
今回は映画の中でラジオDJのコメントとともに紹介されていた印象的なクラシック曲を備忘録的にまとめておきたいと思います。
劇中でラジオを聴くのが好きだというミジョンが、ギョンロクに「CMがないからいい」と勧めていたラジオチャンネル、93.1は、実在するKBSラジオのチャンネルの一つ、KBS Classic FMの周波数。イ・ジョンピル監督は元々、このチャンネルのヘビーリスナーだったそうです。
映画には毎日、午後2時に放送されている(そして深夜にも再放送されている)ミジョンのお気に入りの番組のモデルになった「名演奏 名音盤」のDJを務める音楽コラムニストのチョン・マンソプさんが本人役で出演していました。(ミジョンが「声がいい」と話していた方ですね)
※物語途中の内容のネタバレあり
ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
原作本のタイトルであり、本作のメインテーマとも言えるのがラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。劇中でも「ミジョンの一番好きな曲」として、二人がピアノコンサートを覗き見るシーンやエンディングでも使われていました。
この曲はラヴェルがベラスケスの「ラス・メニーナス(女官たち)」という絵にも登場する、スペインのマルガリータ王女の肖像画にインスピレーションを受けて作ったとされているそうです。タイトルに「亡き王女」とあるものの、「昔、スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」といったニュアンスで、追悼の意味はないそう。ちなみに、パヴァーヌとは16〜17世紀のヨーロッパの宮廷で流行した、くじゃくのように優雅な、ゆっくりとしたテンポの2拍子の舞曲のことだそうです。
なお、本作のイ・ミンヒ音楽監督はラヴェルと同じ(!)パリ音楽院出身。イ・ジョンピル監督によると「大先輩の名声に迷惑を掛けないよう、一生懸命頑張る」と話していたそうです(笑)。
ギョンロク役のムン・サンミンは本作の脚本を最初に読んだ時、チョ・ソンジン演奏のこの曲を聴きながら読んだと話していたので、チョ・ソンジンの動画を貼っておきます。
ワルトトイフェル「スケーターズ・ワルツ」
ミジョンにクラシックチャンネルをおすすめされたギョンロクが、ラジオを初めて聴いたときに流れる曲はワルトトイフェルの「スケーターズ・ワルツ」。翌朝、この曲に合わせて踊り、社員食堂でミジョンに突撃するギョンロク、かわいかったですよね。
ドビュッシー「アラベスク」
ヨハンに誘われ、初めてギョンロクと食事をして家まで送ってもらったミジョンが、帰宅後に聴いていたラジオから流れてきたのはドビュッシーの「アラベスク」。わざわざ曲を演奏会の拍手入りのものにしたのは、監督がミジョンの恋を応援したかったからだそうです。
シューベルト歌曲集「冬の旅」より「菩提樹」
居酒屋の主人に「いつも何を書いてるんだ?」と聞かれたヨハンが「若者たちの青春物語です」と答えた後、ラジオから流れる曲はシューベルトの歌曲「菩提樹」。「冬の旅」というタイトル通り、冬の間にギョンロクがミジョンの応援を受けながら舞踊学科の大学受験に挑戦する様子が駆け足で描かれていました。
この曲自体はドイツの詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩にシューベルトが曲を付けたもの。歌詞の内容は「失恋した若者が旅立つ時に、かつては菩提樹の木陰で甘い夢を見ていたことを懐かしむ」というものでした。
リスト「愛の夢」
リストの「愛の夢」は、居酒屋の主人に「君は恋愛しないのか?」と聞かれたヨハンが、自分の過去やギョンロクが現れる前にあったミジョンとの意外な出来事を語った時に、店内のラジオからさりげなく流れていました。
ショパン「ノクターン第21番ハ短調〈遺作〉」
ギョンロクがクリスマスイブの日、雪の中、バスに乗ってミジョンに会いに行くシーンで流れていたのは、ショパンの「ノクターン第21番ハ短調〈遺作〉」。最初に見た時は全然気づきませんでしたが、この時点で既にギョンロクのあの結末は匂わされていたんですね。
実はこの投稿を書いている3月19日(木)には、冒頭で紹介したKBS Classic FMで放送されている「シン・ユンジュの家庭音楽」(午前9時~)という番組に、イ・ジョンピル監督と、原作小説と映画に感銘を受けたというピアニストのキム・ソンヒョンさんがゲスト出演していました。この番組のDJの方は「パヴァーヌ」が公開されて以降、周りからよく「KBS Classic FMの宣伝映画ができたね」と言われていたそうです(笑)。
番組内では「亡き王女のためのパヴァーヌ」「アラベスク」「ノクターン第21番〈遺作〉」の生演奏も。監督は、映画で挿入したクラシック曲は、どれも脚本執筆段階から自分で選曲していたと明かしていました。
ちなみに、韓国のラジオはどの局でも公式アプリ(KBS Classic FMはKBS KONGアプリ)をダウンロードすれば、日本からでもリアルタイムで聴くことができます。私も今度、ミジョンたちの聴いていた「名演奏」、聴いてみようと思います!
百想芸術大賞でイ・ミンフィ音楽監督が芸術賞を獲得(追記)
2026年5月8日に行われた韓国で最も権威のあるドラマ・映画授賞式の一つ、百想芸術大賞の映画部門の芸術賞にノミネートされていたイ・ミンフィ音楽監督が、見事受賞しました! 芸術賞は演出以外の分野を全てひっくるめた賞で、他には別作品の編集、撮影、美術、VFXのスタッフがノミネートされていましたが、音楽でのノミネートは「パヴァーヌ」のみ。そんな中、「劇中の(音楽の)挿入法から効果音まで音楽全般を担い、繊細なサウンド設計で作品の情緒を拡張した」と高く評価され、受賞が決まったようです。
くしくも芸術賞のプレゼンターを務めたのは、ヨハン役のピョン・ヨハン。受賞の瞬間、客席でギョンロク役のムン・サンミンやイ・ジョンピル監督とハグをして喜びを分かち合ったイ・ミンフィ音楽監督は、壇上に上がる時にピョン・ヨハンの姿を見つけ、不思議な縁と意外な場所で再会できたうれしさから、思わず噴き出してしまったそうです。トロフィーを受け取った後は、そのピョン・ヨハンとも壇上でハグをしていました。
受賞は全くの予想外だったというイ・ミンフィ監督は、準備ゼロの状態でスピーチに臨んだようですが、
「映画音楽というのは、映画にとって友達のような存在だと考えてきました。長い間、仕事をしながら、良い友達に出会えたおかげで、ここに来れたのだと思います。幸運をもたらしてくれた『世界のジュイン』チームと『パヴァーヌ』チーム、どちらも愛しています。(この日は同じく音楽を手掛けた『世界のジュイン』チームも会場にいた)みんなのおかげです。18年前に「映画音楽というのはこういうものだ!」と扉を開けてくれたタルパラン先生にも感謝を申し上げたいです。(中略)この業界で働く女性たち、頑張りましょう。ファイティン!」
と自身が長年携わってきた映画音楽への思いと「パヴァーヌ」チーム、さらには映画音楽の師匠であるタルパラン(「ムービング」「Mine」などの音楽を担当)への感謝を語っていました。
また、自身のインスタグラムでは、今回惜しくもノミネートを逃した監督への感謝も記していました。
「イ・ジョンピル監督、ありがとうございます。作業室で最後に一緒に苦労していた時は、まさかこんな日が来るとは本当に想像もしてなかったのに」
今回、主演女優賞にノミネートされていたコ・アソン(自身の主演舞台の終演後に授賞式に駆け付け、発表にはギリギリ間に合った)、新人男優賞にノミネートされていたムン・サンミンは惜しくも受賞を逃しましたが、それでも「亡き王女のためのパヴァーヌ」というラヴェルの楽曲がモチーフとなっている小説原作の映画としては、“音楽”を評価されての芸術賞というのが、より一層、特別なものに感じられ、チーム全員でこの喜びを分かち合えたのではないかと思うと、ファンとしてはうれしい限りです。
イ・ミンフィ音楽監督が作曲した劇中歌(追記)
最後に、Xのほうにも書いたイ・ミンフィ監督が手掛けた劇中歌「こんな気持ち、知っていますか?」を紹介しておきたいと思います。ギョンロクとミジョンがレコードショップの試聴室で聴いていた懐メロ風の曲は、実在の曲ではなく、「昔の歌謡曲っぽいラブソングを」という監督の要望を受けて映画のためにイ・ミンフィ音楽監督自ら作曲し、歌った(!)曲でした。(作詞は詩人のイム・ユヨンが担当)
後日、ギョンロクが再びレコードショップの試聴室でこの曲を聴くシーンでは、ミジョンが照れながらもこの曲をカラオケで歌っていた時の回想シーンが挟み込まれますよね(その後の展開は皆さんご存じの通りです)。
初めて聴く曲のはずなのに、どこかで聴いたことがあるような懐かしさを感じさせる曲で、まさに純粋で素朴なミジョンやギョンロクの趣味にぴったりな曲だったと思います。
百想で芸術賞を獲った「#パヴァーヌ」のイミンフィ音楽監督。劇中の曲の多くは既存のクラシック曲ですが、二人がレコードショップの試聴室で聴く「こんな気持ち、知ってますか」は、「昔の歌謡曲っぽいラブソングを」という監督のリクエストに応じて作曲し、自ら歌った曲🎧https://t.co/IB24UdR0YE
— Yui | ライター&韓国語翻訳 (@yui1106) May 9, 2026
「パヴァーヌ」公開から約3カ月。初めて迎えた授賞式で監督と音楽監督、さらに主演の3人が候補者、プレゼンターとして一堂に会し、さらに賞までもらえたのは、本当にうれしい出来事でした。この受賞をきっかけに、この映画の良さがさらに多くの人に伝わればいいなと思っています。
