「敵」(備忘録的感想)
原作は筒井康隆で監督、脚本は吉田大八だ。
非常に期待をして観に行ったが、正直ちょっと期待外れの作品であった。
フランス文学の第一人者と言われていた渡辺儀助(長塚京三)は、今は大学も退官し、妻に先立たれ自分の生家で静かに暮らしていた。
時折、雑誌連載の編集者から連絡があったり、かつての教え子が片付けの手伝いにきたりするが、今は特に何かをすることもない。
毎月の出費から年金と少ない収入、そして貯金を差し引き、ゼロになったその日が自分のXデーだと笑って話していた。
ある年、夏から秋に季節が移るとき、儀助は「敵が来る」と言うメールを着信する。
いつも通りの迷惑メールだと思って削除したが、そこから儀助の生活が少しずつ、やがて大きく変わる。
馴染のバーのオーナーの姪と言う歩美(河井優実)にカネをだまし取られ、友人のデザイナー(松尾貴史)がガンで入院する。
教え子だった鷹司(瀧内公美)と男女の関係になりそうになるが、それらは現実なのか儀助の夢なのか、判断ができない。
そして20年前に亡くなったはずの妻信子(黒沢あすか)が、たびたび蘇ってくる。
儀助は困惑するが、その後も時折北からやってくる「敵」に関するメールが着信する。
メディアでは一切「敵」のニュースは取り上げられないが、ついに近隣の住民が敵の噂話をし始めた。
前半、静かに暮らす儀助の日常を描いている。
モノクロの画面で表現される老人の日常だが、慣れた手つきで簡単な料理を次々と作り、観ていて飽きることはない。
ほんとど観たことはないが、小津安二郎の映画を彷彿させる。
この見せ方は吉田大八の手腕であろう。
そして「敵」のメールを受信してから物語が一気に動くのだが、ここからちょっとストーリーが停滞する。
現実と儀助の夢が行き来し、儀助が混乱をしていく様が描かれているが、メインは妻の信子との関係である。
教え子の鷹司に恋心を抱き、その事で死んだ妻に対して罪悪感を感じるという図式で、そこに敵が絡んでくるのだが、信子と敵はまったくリンクしていないため、何が描きたかったのかよくわからなくなっている。
長塚京三をはじめ、役者陣は実力者ぞろいでさすがの演技力である。
特に歩美の河井優実と鷹司の瀧内公美の演技は、老いた儀助が思わず迷ってしまっても仕方ない、と言う説得力があった。
筒井康隆は学生の頃まではよく読んだが、「虚構船団」以降の作品は読んでいない。
この「敵」と同時期に「パプリカ」が発表されており、こちらも精神の内面を描いて難解なアニメ映画だった。
どちらも原作を読んでいないが、この時期の筒井康隆作品は映像化が難しいのかな、とも思った。
6.敵
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