”最後の娼婦”高宮まりはアントラージュを削り取られる
「陣営」を形成するスポーツ界→麻雀界
前記事で、Z世代の到来と共に真価を問われるのは”最年少”の座を退いた中田花奈と、連盟の同世代女性プロが続々とMリーグを去る中でただ一人残された”最後の娼婦”高宮まりであると述べたのだが、高宮に言及するのをすっかり忘れていた。晦渋な記述を加えるが、少しばかりお付き合いいただきたい。
以前、エンデバー号を代表する仲林と、アカシックレコードを代表する太を対照させて論じる際にも引用した、岩波のスポーツ特集からもう一つ論文を参照する。『生身の実戦相手──グローバルサウスからのスポーツ論/石岡丈昇』という論文に、以下のような記述がある。
…近年の先進国のスポーツ界をめぐる大きな変化として、選手のサポート体制が細やかに構築された点があげられる。スポーツ選手の周りには、監督、コーチ、トレーナーに加えて、弁護士、アナリスト、カウンセラー、管理栄養士、メディア対応の専門家、そして家族などが控えている。…最近では、こうした一連の関係者のことをアントラージュと呼ぶ風潮もある。
この「アントラージュ」は「陣営」と表現すると理解しやすいのではないだろうか。近年の創作でも『Fate』シリーズや『ゴールデンカムイ』など、主人公-敵という二項対立ではなく、主人公の属するA陣営、ライバルの属するB陣営、師匠役が属するC陣営、そして公権力や権威もまたD陣営・・・といった複雑な多項関係が闘いの奥行きを演出するような編まれ方が増えてきている。

実際に、25オフシーズンに公開されたドキュメンタリー『熱狂』の赤坂ドリブンズ版において、太がNAGA開発者と並び立ってインタビューを受けるという映像は、パートナーがなぜか日本家屋で和服というキャラを打ち出していることもあって、強烈な迫力でもって「陣営」という絵を我々に植え付けた。いまや麻雀プロにもアントラージュが形成されているのだ。
生身の対戦相手の調達
そして上記論考は、ボクシングというスポーツにおいて「陣営」だけでは調達できない「生身の対戦相手」が、フィリピンというグローバルサウスから経済的非対称性を背景にして動員されている模様を整理して描写している。
こと麻雀・Mリーグ界隈においてはこのような「対戦相手の調達」という構造として、真っ先にEX風林火山が実施している「スパーリングパートナー」という事例が想起されるだろう。
楽屋への登場などを通して知名度向上を果たしつつ、オーディション出場権を言い含められている「スパーリングパートナー」は、上記論考で指摘されているような「自分のキャリアの追求ではなく、他人のキャリアへの貢献のために、…重要な時間を与える」ことになってはいないかと危ぶまれる。

今般のオーディションでは二代目SSPの永井氏がシンデレラボーイとして光の当たる場所へ躍り出たのと裏腹に、初代SSPの一井氏に対しては「飼い殺しにされた挙げ句に放出された」という同情的なコメントも散見された。

SSP就任中に鳳凰位決定戦に食い込むなどの活躍が見られれば他チームからの見え方もまた変わったのかな、と考えると氏自身に全く原因がないというわけでもないのだが、論文の要旨に沿うなら、彼は「スパーリングパートナーの業務に時間を使ったがゆえに、自己研鑽に時間を割けず、リーグ戦で結果を残せなかった」という見方もでき、Mの衛星として使い潰された境遇が気の毒であった、とは少なくとも言えるだろう。
逆に永井の方が「勝又などトッププロと交流できる貴重な機会ととらえ、手弁当で上京を繰り返した」などのエピソードから、SSP就任を自身のキャリアへと生かしきっているしたたかさを感じられ、こうしたキャリア上の危機を乗り越え、むしろハックしているようにも見えた。
”高宮ラボ”へ
いずれにせよ、このような「対戦相手の調達」という構造は、興行的に前面に押し出している風林火山だけでなく、他のMリーガーたちも同様に取り巻いて、スポーツよりは緩やかかもしれないが、アントラージュめいたものを形成してもいるだろう。
そして、グローバルノース/サウスの格差が再生産され、あるいは日本国内においても「政治家の子が政治家になり、医者の子が医者になる」ような二世・三世が重要な地位につく世襲サイクルが形成されるのと同様、「先行者利益」は構造的に温存される。
麻雀界においては、「恩人」藤田晋氏と「たまたま同世代だった者たち」≒「2010年代後半がピークのタイトルホルダーたち」≒筆者はしばしばこれを「RTD老害世代」と敢えて露悪的に表現しているのだが、彼彼女らが「先行者」として獲得したMリーガーという地位を既得権として抱え込む動きを見せた。
これにより20年代以降のプレイヤーたちは、よほどの腕と時の運がなければ「スパーリングパートナー」としておこぼれに与かる位置しか現実的に志向できないという、新陳代謝の面で閉塞した状況が出来上がってしまったことで、日吉が「横ばい」と危惧するような停滞がMリーグ全体に訪れつつある。

とりわけ筆者にとっては、24オフシーズンに公開されたドキュメンタリー『熱狂』のコナミ版において、「高宮ラボ」という勉強会を絵として観た時のインパクトが忘れられない。
そこでは元Mの丸山奏子、M解説で風林火山オーディションにもアサインされた河野直也、そして今やBEAST Xの地位を射止めた25オフシーズンの主人公、下石戟の姿も見える。
彼らは高宮まりというMリーガーにカネで雇われ、高宮をMで活躍できる水準まで強くするという目的を持って集まっている。まさに高宮が形成したアントラージュであり、私設の「スパーリングパートナー」である。
「高宮ラボ」において下石は、ヘッダー画像のように「自分の選択に理由を持って打つようになった」と、あたかも「指導者」然として高宮を評する語りを展開しており、先行者・高宮まりの既得権の周囲に、彼女自身よりも優れた打ち手が纏わりついているという演出が容認されている。
風林火山においては、「スパーリングパートナー」を当然に「選手たちよりも劣位の存在」として布置しているが、これに比べドキュメンタリーは脇が甘く、「高宮ラボ」においては、取り巻きの方が実力において優っているという転倒した構図・不都合な真実を隠しきれていないのだ。
削り取られるアントラージュ
そして、それを裏付けるように、今や下石はBEAST Xのメンバーとして、高宮と対等の地位に立ち、「中田さんはもう週2でセットするんで」「よろしくお願いします」と「自分の所属するチームを強くする」ことでカネを稼ぐ立場になった。「高宮ラボ」に顔を出す必要もメリットも何もなくなったのである。

さらに言えば下石は中田との「週2セット」に、丸山奏子と河野直也をアサインするのではないかと想像できる。下世話な話を続ければ、高宮単独が出す報酬を3人で分割するよりも、下石・中田というふたりが出す報酬を2人で分割する方が大きいだろうし、麻雀教室講師という同業者である下石の方が、丸山・河野にとって同胞意識は強いのではないかとも思われる。
このようにして、高宮は形成したアントラージュを徐々に削り取られていく。下石・中田はZ世代ではないが、おしなべて「Z世代の到来」とは、先行世代のアントラージュを削り取っていく動態に他ならない。
もちろんメンバーを補充してラボを継続することもできるが、そこにアサインされるのは、オリジナルメンバーと比較して一段劣る人々にならざるを得ない。高宮の成績・人気はますます低迷し、既得権を手放さざるを得ない日が早晩訪れる。


高宮は洞窟のカナリヤとしてこのような危機に直面することになるが、同様の状況がオリジナルMリーガー達にこれから次々に到来する。
例を挙げれば、越山監督が社内事情で交代するならば、園田はともかく、監督責任で指名されたたろうは速やかに馘首されるだろうし、連盟の森山会長世代が続々と死を迎えれば、新体制・瀬戸熊会長率いる連盟は、これまで前世代が勧進してきた亜樹よりも、彼らが肝煎りで創設したタイトルである桜蕾を獲った「若い世代にチャンスを!」とテレ朝に働きかけることになるだろう。
既得権者のMリーガーには、すでにアントラージュとして利害関係者が複雑に絡みついているのだが、逆に言えば、そうしたアントラージュの衰弱を経由してしか、彼らの既得権は剥がすことができないとも言える。この点は25-26シーズン単体ではなく、もう少し長い目で見守っていくダイナミズムとなるだろう。(前記事とは別出しにした言い訳・・・)
〈前記事〉
〈仲林のエンデバー号、太のアカシックレコード〉
〈アントラージュ論文収録〉
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