実用新案登録は“机上の空論キラー”。Fitbitと腕時計の併用ベルトを作る|革細工05-3
「実用新案って、新しいものを申請したらサクッと登録されるんでしょ?」
僕の知識はそうだった。そう思っていた自分に猛省を促したい。確かにそうなんだけど、思ってたのと実際はだいぶ違った。
この世になかった腕時計とFitbitの併用ベルトを自作し、「せっかくだし実用新案を取っておこう」と軽い気持ちで始めたら……そこから「地獄のような“実務の壁”が待っていた。
前回までの投稿で、アクティビティトラッカーFitbitと腕時計を両方使うことを愛し、その併用ベルトを思いつき、そしてそれを実現した。今回はそれを実用新案として登録するまでの悲喜こもごもだ。
結論から言えば、机上の空論なんて、実務の前では一瞬で吹き飛ぶ。
それでも“欲しいものを作りたい”という気持ちがあれば、だいたい何とかなる。
今日はその話だ。
実用新案なのか、特許なのか
併用ベルトを作って満足した後、思いついてしまった。
「これ、(たぶん)世界で初めてのアイデアなんだよなあ」「知的財産権、取得できるんじゃない?」
と。そしてさらに考え至ってしまった。
「人生で一度くらい、特許とかとってみたい!!」
大学生のころに法学徒ではあったけれど知財については何も学ばなかった(僕がその講座を取らなかっただけです)。でも、社会人になってから、ビジネス実務法務や中小企業診断士の試験で、著作権と並んでいくつかの知的財産権を学んだ。意匠、商標、そして特許、実用新案……。
なんとなくそのときの記憶を呼び覚ますと、きっと今回の場合は「特許」か「実用新案」が当てはまる(はずだ)。
さっそく特許庁で調べてみる。まず、特許とは…
技術的思想の創作である「発明」が保護の対象。
さっそく雲行きが怪しいぞ。続いて、実用新案とは…
物品の形状、構造又は組み合わせに係る「考案」が保護の対象。
やばい、初手で袋小路だ…。どっちが適切なのかわからん…。
そのあとも色々とデスクトップリサーチを続けて、ざっくりいうと、
特許:技術的思想の高度な発明(こってり)。手続きは超濃厚。
実用新案:物品の形状・構造のアイデア(あっさり)。手続きも超淡泊。
であろうことを理解した。
今回の併用ベルトは、超ハイテクでもなければ、新素材でもない。仕組みも単純で、腕時計とFitbitの位置関係を“ひとつの帯”で再構成しているだけだ。何なら、構造自体はパワポでパッと作れてしまった。
ただ、世の中に同じ物が(たぶん)ないのは事実。形状の工夫で用途を生んでる。
ここまで検討して、ほぼ確信した。
──これは特許じゃなくて実用新案だ。
道が見えた。この時点ではまだ楽観していた。
まずは、先例がないと確認する:悪魔の証明
実用新案に的を絞ると、あとは簡単だ。先例がないアイデアを、申請すればいいだけだ。これ自体は資格試験の勉強で知っていた。そしてここではたと気づく。
…「先例がないこと」って、悪魔の証明だ…
既に同じ発想が出願されていないことを確認しなきゃいけない。先の特許庁HPでも、申請前にやらなければならないことは先行技術調査しか書かれていない。
方法としては、特許情報プラットフォーム(「特許情報」となっているが、実用新案もここに搭載されている)で
調べるだけだ。
これが本当に骨が折れた。
「腕時計」は無限に出てくるし、「スマートウォッチ」と調べれば小型液晶ディスプレイの特許(「スマートウォッチ用途でも使えます!」)などなど、少しでも関連するあらゆるものが出てくるのだ。

しかも、誰か権威者がいて申請の命名や分類を整理しているのではなく、出願者が勝手に名前を付けて勝手に分類をするのだから、どれが関連しているのか全くわからない。
2週間くらい、帰宅中の電車の中で毎晩検索し、関連しそうなものをひとつずつ開いて読んでいった。
2週間たってようやく、(たぶん)同じものは存在しないと少し確度高く思えるようになった。
唯一、これ似てるかもと思ったのは、ソニー株式会社が平成28年5月30日に公開している「バンド型電子機器および基板配置方法(特開2016-099347)」だ。

帰宅中の電車の中で見つけたときは、万事休すかと諦めかけたが、よく読むと「バンド型電子機器」の特許であって、今回僕が作るアクティビティトラッカーのような革細工などは請求範囲外だった。
その事実に勇気づけられたが、同時に震えた。2週間かかって、ちょっと怪しいかも…というものを1つ見つけるのが限界なのだ。先例がないということは、本当に悪魔の証明だった。
「先例がないアイデアを、申請すればいいだけ」。
これが事実であっても、その実現は果てしなく難しい。机上の空論では絶対に味わえない緊張感だ。
とにもかくにも、いったん、(たぶん)先例はないアイデアなので、次に進もう。後は申請するだけだ。
実際に申請するための準備:マイナンバーカード読み取り機を買う
さあ、申請だ!
特許庁のHPには、郵送で申請する方法とインターネット申請の2種類が載っている。
郵送だと余計に電子化手数料がとられる(書類を打ち込んでもらう手数料だ)し、何より、不備があるとその都度郵送で返送→再返送の手間がかかるそうなので、そこまで言われたらネット申請に誘導される。
と意気込んだら、特許庁のそのネット申請にはマイナンバーカードとそれを読み取るICカードリーダーが必須らしい。まあ、たしかにデジタル庁もできたし、いま時分はふるさと納税でも要るし、インドでAadhaarを経験した僕にはそこまで抵抗はない。問題は、ICカードリーダーだけで電子化手数料とそんなに変わらない値段がすることだけだ。
というか、いまどきふるさと納税もマイナポータルもスマホで読み取れんねんけど…と思ったが、まあ必要経費として諦めよう。
これで準備万端!
…のはずだった。
20回くらいエラーに阻まれる
オンライン申請システムを起動した瞬間に悟った。
Windows98を触ったことある僕にはわかる。
これ、Windows98かそれよりも前の時代のインターフェースだ…

いまどき操作マニュアルに16進数文字コードが載ってるのどういうことだよ…

このシステムの中で、あらかじめワードで作った申請ファイルを該当するファイル形式に変換して(この操作手順がマニュアルで推奨されている)、アップロードを試み、エラーが出る。
どこでエラーが出ているかは、いまいち教えてくれない。
申請前の段階で 20回以上エラーに遭遇した。途中で、特許印紙の代わりに電子納付のための納付番号取得など、「え?もっと前に言ってよ…。」プロセスも挟みながら。
もはや実務というより、魔術の儀式だ。「先例がないアイデアを、申請すればいいだけ」なのだけれど、先例がないことを探すのが大変なだけでなく、申請も地獄の道のりなのだ。
毎日、仕事から遅くに帰ってきて、1-2時間は頑張った。それでも1週間程度かかってしまった。
ただ、不思議なことに、「登録したい」思いがあると、諦めきれないのだ。
机上では永遠に理解できない感覚だ。
申請したら、すべてが呆気ない
何とか申請を完了して提出し、数日後。特許庁からハガキが届いた。
「もう、登録されたのか?早くない?そんなに特急で手続きしてもらえるほどアイデア優れてたってこと!?」
当然そんなことはなく、圧着ハガキを開いてみると「納付番号が付与されました」「この納付番号を使って、特許手数料を納付してください」という連絡だった。
…もう電子納付済やん…
ぬか喜びした1.5か月後、ついに特許庁から封筒が届いた。しかも、A4サイズで。待ちきれずに家までのエレベータで開封すると、

登録証だった。
満足感は凄まじかった
実感した。
「この世にないものを作り、そして制度として世の中に認められた」
これは強烈だ。よくやった!と褒められたのではない。市場価値があるわけでもない(いや、もしかしたら、あるかも)。
「先例がないアイデアを、申請すればいいだけ」の苦労を知り、「先例がないアイデアを、申請すれば認められる」と実感した。机上の空論として知っていた「先例がないアイデアを、申請すればいいだけ」のものでも、実際にやってみて初めて手に入る充実感は本当に別格だった。
思いを形にするって、大変で、楽しい
今回わかったことを文字にすると味気ない。
革細工があれば、これを実現できそう。思いがあると、過去にやった経験を勝手に活かせちゃう!思いは勝手にコネクティングザドッツさせちゃう!!
机上の知識と実際は全然違うし、その差が地獄であっても、思いがあるとその壁は乗り越えられちゃう!
結局、机上の空論では何もわからない。でも、自分の欲求が原動力になると過去の経験は勝手に活きるし、全部乗り越えられるのだ。
“欲しいものを作りたい”衝動は、最強のエネルギーだ。今年、心底そう学んだ。
ということで、全3回でした。
第1回:革細工で腕時計ベルト作成に至るまでの長い過程
第2回:併用ベルト完成までの長い長い道のり
第3回:実用新案登録までの長い長い長い道のり(今回)
