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「死んでも死んでも死にきれねぇ」第3話

〇第3話-本文

★=場所や背景の詳細など
「」=セリフ
『』=モノローグ
〝〟=キャラクターの心の声

★穂高 弦の自宅-洋室
ベッドに横たわる私は、初恋の人に首を絞められている。
ただ暗闇に光る怨念のような眼差しが、恐ろしく堪らなかった。

恵麻
「あ……ぅ……げ、げん……」

彼の手首を必死に掴み、私は抵抗する。
すると、私の声が届いたのか弦は手元を緩めた。


「……わ 悪かった 大丈夫か?」

弦は私へ手を伸ばす。
しかし、彼の手を弾くと吐き捨てるように呟いた。

恵麻
「……ッ気にしないで
 嫌われてるのは分かっているから」

恵麻
〝……大丈夫 今だって私は……〟

首元を擦りながら、私は起き上がる。


「違うんだ あの時は……!」

彼の言葉を遮るように、続けて私は言葉を紡いだ。

恵麻
「そういえば お礼まだだったよね
 助けてくれてありがとう」

光のない瞳で、弦に感謝を伝えてしまう。
そんな私を見て、弦は拳を強く握り締めていた。
でも、しょうがないでしょ?

恵麻
『今更 どんな言葉をかけられたって
 過去は変わらない』

私はベッドから降りると、彼を見つめ直す。

恵麻
「あーあ 借りを作っちゃった」

そして、ベッドに腰を掛け、俯く弦へ手を差し出した。

恵麻
「しょうがないから 一度だけ協力してあげる」


「……恵麻?」

恵麻
「……でも 一言いい?
 あなたと違って 私は不幸じゃないから」

その言葉に、弦は弱々しく小声で呟く。


「相変わらずだな」

そして顔を上げると、僅かに笑みを浮かべた。
その表情は、どこか虚しく感じられる。


「約束してくれ これからは俺の言葉だけを信じて欲しい」

恵麻
「……ええ もちろん」

弦は差し出した私の手を握るだろう。
しかし、それと同時に思うのだ。

恵麻
『誰が守るか そんな約束』

**

★歩道、夜道
時刻は22時頃。恵麻と弦はマツリカに向かっている。

以降、恵麻は男装している。
弦のジャケットと白のタートルネック、そして自身のハイウエストジーンズを着用。
上半身は、弦サイズのためかなりオーバーサイズ。
ミディアムかつウルフヘアの彼女は、ハーフアップをしている。中性的に見られるだろう。

弦は、髪型はオールバックだが、僅かに垂れた前髪が色気を醸し出している。
また、厚い胸板が見えるほど着崩した黒いシャツを着用。
・・・

恵麻
「いや あの〜 確かに言ったよ?
 協力するって……」

弦の大きな背中を見つめながら、私は不貞腐れるように呟いた。

恵麻
「でも なんで男装!?!」

私の先を歩いていた弦は、その言葉に振り向くと頭の先からつま先まで、舐めるように見つめた。


「俺の服 よく似合っているじゃないか」

そして、弦はニヤリと笑う。

石椛 恵麻
「いや そうじゃなくて……!」

大股で歩きながら、彼を追いかける。


「マツリカの客は……
 ジャスミンの香水とタトゥーを好む奴ばかりらしい
 もしお前の見た犯人が そこにいるとしたら?」

恵麻
「……!」


「顔がバレているんだ 逃げられても面倒だろう?」

恵麻
「そ そうだけど 落ち着かなくて……」

サラシを巻いた私は、胸元周りを撫でる。
その様子が愉快なのだろう。鼻で笑うと歩を進める。


「心配すんな 元々ないだろ」

恵麻
「はぁ!?このッ…!いっぺん地獄に落ちろ!
 GO!Hell!!」

彼の背中を追いかけながら、叫ぶだろう。
そして、私は懐に隠しているある物を見つめた。

恵麻
〝拝借してしまった……〟

そう、小型ナイフである。
不思議と弦が私の首を絞めたときの光景が浮かび上がる。

恵麻
〝……彼を信用した訳じゃない〟

ナイフを懐に戻しながら、私は弦へ声を掛けた。

恵麻
「そういえば マツリカに行ったことはあるの?」

足を止めず弦は答える。


「……いや 初めてだ 調べたことはあるがな」

その言葉に私の表情は曇るだろう。

恵麻
「ちょ ちょっと! ほんとーに大丈夫でしょうね?
 不正の温床とか嫌だ――」

ボフッ!

急に弦が立ち止まったおかげで、私は彼の背中に突撃した。


「着いたぞ」

ぶつかった鼻を撫でながら、私は彼の背中から顔を出す。
私の瞳には、「クラブ マツリカ(★筆記体)」と書かれたシンプルな看板がひとつ。
字体の周りにはジャスミンの花々が施されている。
恐らく穴場の店なのだろう。
人目につくような豪華な装飾はなく、重厚な扉と店名の看板と至ってシンプルである。

★クラブ マツリカ-店内
時刻は22時頃。店内は若者達で溢れ混沌としている。
・・・

騒がしい店内にクラクラした。
若者達が酒を片手に踊り狂い、淫らに身体を重ね、キスをし、また、酒を飲む。

恵麻
〝……ここに奏汰がいた 知らない男や女と〟


「ッおい!勝手に行くな!」

周囲を見渡しながら、私は不毛な考えをしてしまう。
弦の声も届かないほど、私はこの場に飲み込まれるように足を進めていた。
すると誰かが、私の肩にぶつかったようだ。


「あ…… ごめんなさい♡」

愛くるしい瞳に、守りたくなるほど小さな身体。
そんな彼女は、ふらつく足取りでどこかへと消えてしまうだろう。

恵麻
「あの顔って確か……」

私は口元に手を添え、頭を巡らせる。
そう、どこかで見た覚えがあるのだ。
考え込んでいると、前方から声が聞こえた。

男1
「おにーさん!ひとり?
 いや おねーさんかな?」

男2
「可愛いから どっちでもいーしょ」

複数人の男達が私を囲う。
しかし、そんな彼らの言葉を聞いている余裕は無い。
私は呪文のように、ブツブツと思考を巡らせているのだから。

恵麻
「……確かに見た 見たはず」

「水舞大学に通う 消息不明の学生だ」との弦の言葉と同時に、彼の自宅で見た若い男女達の写真を思い出す。
そう、そこに彼女の姿があったのだ。

恵麻
「ッ邪魔!どいて!」

私は弦が提示した写真を思い出した。
すぐさま彼女を追いかけるべく、男達から逃れようとするだろう。

男1
「おい〜 無視すんなよ あっちで遊ぼ?」

男は腕を無理やり掴むが、私は振り払った。
そしてため息をつくと、蛇のような表情で男達を睨み付ける。

恵麻
「猿に構ってる暇ないんだけど」

男2
「あ?言葉に気をつけろ!!」

激昂した男達は、私の顔を目掛けて拳を振るう。
しかし、次の瞬間――。
気付けば誰かに抱き締められていた。
この瞬間がスローモーションのように感じられる。
壊れ物を扱うように私の頭に触れながら、厚い胸板に抱き寄せる彼に、思わず私は頬を赤らめた。

恵麻
「ッ!」

そう、弦が男の拳を受け止めていたのだ。


「俺の恵麻に触るんじゃねぇ」

獣のような瞳で、弦は男達に殴り掛かる。
たった数分の出来事だろう。
躊躇なく殴られた彼らは、弦の足元で伸びているはずだ。


「恵麻!無事か……ッ?!」

しかし、彼が周囲を見渡しても私はいないだろう。


「ックソ」

なぜならこの隙に、私は彼女を追いかけたのだから。

**

★クラブ マツリカ-廊下
時刻は24時頃。恵麻は琴を追いかけ廊下へ。
店内と比べて廊下は人が少ないようだ。
・・・

私は写真で見た彼女を探して、店内を走り回っていた。

恵麻
「弦には悪いけど あの子を探さなきゃ!」

しかし、すぐさま足を止める。
なぜなら脳裏に弦の姿が浮かぶからだ。
私を抱き寄せたあの穢れのない瞳に、思わず頬が赤く染まる。

恵麻
「あああ!! なんなのあの男!!」

恵麻
〝もう 勘違いはしたくないのに……〟

すると、御手洗へ向かう廊下から呻き声が聞こえた。


「おぇぇ……」

どうやら、1人の女の子が吐いているようだ。
便器まで間に合わなかったのだろう。
私は彼女に近付き、背中に触れながら声をかける。

恵麻
「ねぇ大丈夫?わたし……じゃない
 俺で良かったら介抱するけど?」

ハンカチを差し出し、様子を伺う。
すると、その声に反応し彼女は私の瞳を見つめた。
そして無邪気ににへらと笑うだろう。


「おにぃさん優しぃ〜♡」

恵麻
〝写真の子だ……!〟

その笑顔に私は確信した。奏汰と共に写っていた女だと。
彼女は渡したハンカチで口元を拭いながら、私の顔を覗き込むと口を開く。


「初めて見る顔だねぇ〜あたし 三上 琴みかみ こと
 水舞大学の2年生♡」

恵麻
「あー俺は……3年生
 琴ちゃんと同じ大学だよ」

そして、彼女の顎を掴みながら唇が近付くほど、顔を近付ける。

恵麻
「これも何かの縁だし 君のこともっと知りたいな」

すると、彼女の頬が赤く染まった。


「……えへへ 嬉しぃ〜♡」

恵麻
〝女ってバレてないみたい
 ひとまず奏汰のことを 聞き出さないと……〟

琴は私の腕に擦り寄ると、弾力のある胸を押し付けた。
そして、上目遣いで見つめる。


「ねぇ……お話も素敵だけど もっと楽しいことしない?」

恵麻
「あー えっとぉ……」

恵麻
〝チッ この巨乳め……ッ!〟

私のウブな反応が面白いのだろう。
彼女は頬を緩めるとまた口を開いた。


「おにぃさんは カッコイイから特別♡
 ほら!こっちこっち〜!」

彼女は突如立ち上がると、私の腕を引っ張りどこかへと歩みを進めた。
「staff only」と書かれた扉を彼女は勝手に開くと、地下へと続く階段を降り始める。

恵麻
「琴ちゃん? ここ入っちゃいけないんじゃ……」

しかし、何故か彼女は楽しそうだ。
全く気にも留めていない。


「気に入ってくれるかな〜
 み〜んな 躾られていい子なんだよ?」

その言葉と同時に、地下へ辿り着いた私達は、ある扉の前で立ち止まった。

恵麻
『私は思い知ることになる』

古びた鉄の扉を、彼女はゆっくり開いた。

恵麻
『つくづく無知な人間なのだと』

檻の中の人間達
「かなたぁ…かなたぁ!!」

恵麻
「え」

視界に映るのは、左右に広がる牢獄のような檻。
そこから男女問わず、若者達が愛する人の名を呼んでいる。
柵から腕を伸ばし、ヨダレを垂らし、まるで狂った獣のように本能のまま彼を求めていた。


「ようこそ 奏汰の秘密の花園へ」

第1話

第2話


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