「死んでも死んでも死にきれねぇ」第2話
〇第2話-本文
★=場所や背景の詳細など
「」=セリフ
『』=モノローグ
〝〟=キャラクターの心の声
愛する恋人、奏汰の前では私は素直に甘えられる。
いや、甘えすぎだろう。
過去の私は、試験やバイト、何かと理由をつけて「甘やかして 動けない」とわがままな態度を見せていた。
恵麻
『どれだけわがままでも 絶対に怒ることは無い』
そう、不機嫌になることも声を荒らげたことも一度もない。
ただ頭を撫でながら『恵麻』と名前を呼ぶ。
そして「おいで」と呟きながら私を抱き締めた。
これが彼と私の日常だった。
恵麻
『でも 昨夜は――』
★恵麻の回想-事件当日-恵麻と奏汰の自宅-リビング
間取りは1LDK。時刻は20時頃。
リビングのダイニングテーブルには、恵麻お手製のハンバーグが並んでいる。
恵麻の服装は現在と同様である。
奏汰は顔を隠すように、前髪を下ろしている。
また、タートルネックのトップスを着用している。
・・・
扉が開く音がする。
テーブルに本日の夕食であるハンバーグを置く私は、愛する彼の帰りに気付いた。
恵麻
「奏汰!おかえりーっ!」
振り返ると、目を細めて私は笑う。
奏汰
「……」
しかし、彼はどこか元気がないようだ。
俯いているため、表情がよく見えない。
恵麻
「……?どうしたの 元気ない?」
奏汰
「い いや 大丈夫だよ
ただいま」
顔を上げず、彼はテーブルの椅子へと座るだろう。
私は切り替えるように彼へ声を掛けた。
恵麻
「今日は奏汰の大好物だよ 頑張ったんだから〜」
奏汰
「う うん……」
ハンバーグをひと口サイズに切り分けると、奏汰へ差し出した。
恵麻
「ほら あーん……って 前髪どうしたの?
いつもと違うねぇ」
奏汰
「き 気にしないで」
私の言葉に、彼は更に俯いてしまった。
恵麻
「……でも邪魔じゃない?」
私はフォークを置くと、奏汰の前髪に優しく触れる。
しかし、その瞬間――。
奏汰
「ッ触るな!!!」
奏汰は、勢いよく私の手を弾いた。
恵麻
「ッ!」
その衝撃で、私の手にぶつかったグラスが横に倒れた。
注がれた飲み物が床に垂れ、ポタポタと音を立てる。
奏汰
「ご ご ごめん……ッ!」
慌てた彼は、布巾でテーブルを拭くだろう。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
すると、チャイム音が鳴り響く。
奏汰
「……僕が行くよ」
彼は相変わらず俯いたまま、玄関先へ向かった。
恵麻
〝……どうしたんだろう
こんな奏汰 見たことない……〟
ガタッ。
玄関から不審な物音がする。
恵麻
「……奏汰?」
私は恐る恐る玄関へ繋がる扉を開けた。
すると、そこには両膝を着きながら廊下に倒れ込む、奏汰の姿があったのだ。
腹部から大量の血を流し、彼は私へ手を伸ばす。
そして、玄関には黒い服を身に纏う誰かが立っていた。
その人物は、フード付きの黒いスウェットに短いプリーツスカートを着用している。
私は顔立ちすら思い出すことは出来なかった。
----------回想終了----------
恵麻
「それ以降のことは 覚えていない
……思い出せないの」
弦は私の肩を掴むと、顔を覗き込んだ。
弦
「ま 待て 刺された……!?」
恵麻
「……家が燃えたのも きっと犯人のせい」
弦
「おい 思い出せないのかッ!
奏汰の存在が 旭の手掛かりになる」
緊迫した面持ちで、私を問い詰めるように睨む。
恵麻
「あの時ッ 奏汰は血まみれで……
それで……私は……ッ」
閉ざされ記憶が、無理やりこじ開けられると同時に、自然と私の呼吸も荒くなる。
すると、ある記憶が瞬間的に呼び起こされる。
それは、犯人が私に覆いかぶさり、包丁を振り上げる瞬間だった。
その際一瞬だけ手首に花のタトゥーが見える。
そして、私の鼻を擽るのはジャスミンの香りだった。
恵麻
「……花のタトゥーと……ジャスミンの香りがした」
弦
「……まじかよ」
私の言葉に弦は顔を顰める。
そして、切り傷を隠したガーゼを撫でながら、小声で呟いた。
恵麻
「あの夜 私も襲われたんだ……」
脱力するように弦は肩から手を離すと、目を伏せる。
弦
「ジャスミンの和名を知っているか」
弦
「茉莉花だ」
恵麻
「……!」
弦
「今夜 クラブに行くぞ」
奏汰が刺された事実、放火した犯人の行方――。
私の呼吸は徐々に荒くなる。
恵麻
「はぁ はぁ……」
弦
「……恵麻?」
気付けば、弦の胸元に私は倒れ込んでいた。
恵麻
「奏汰は……死んでないよね」
神に祈るように、ただ言葉を紡いだ。
そこで私の意識は途切れるだろう。
弦
「……」
弦は倒れた恵麻を抱き上げると、洋室のベッドまで運ぶだろう。
前髪を撫で彼女を見守りながらベッドに腰掛ける。
そしてスマホを取り出すと、病院で撮った写真を見つめる。
弦
「ほんと 可愛い顔」
頬を緩ませ画面に映る恵麻の頬を撫でる。
そして、眠る恵麻へ愛おしい眼差しを送ると、彼女に覆い被さった。
弦
「恵麻 ずっと前からお前のことが……」
そして唇へ顔を近付けるが――。
弦
「……あぁッくそ!」
彼は髪を掻きむしると、頬を赤く染めた。
弦
「何やってんだが……」
そう言葉を紡ぎながらも、弦は恵麻の額にキスを落とすだろう。
★恵麻の回想-高校2年生-2年3組-教室
時刻は夕方頃。
放課後であり、教室や廊下は生徒達で溢れている。
恵麻と弦は高校2年生であり、制服を着用している。
・・・
女友達
「……恵麻!恵麻ッ!」
恵麻
「ッ!」
その声に私は我に返った。
声のする方へ顔を向けると、私の腕に絡みつく1人の女の子が。
そう、そうだ、彼女は私のクラスメイトだ。
女友達
「ちょっと〜?緊張しすぎじゃない〜?
もっと力抜きなって!」
恵麻
「……う うん!」
その言葉に私は背中を押された気がした。
自然と表情が穏やかになる。
男友達1
「おっ なんだなんだ〜?」
すると、クラスメイトの男子達が私を囲む。
女友達
「ついに恵麻が告るんだってー!」
男友達1
「まじか〜?! こりゃ見届けねーと」
男友達2
「相手は……って 分かりきってるかそんなこと!」
悪ノリをする男子生徒達はゲラゲラと笑う。
恵麻
「ちょ ちょっと!野次馬はやめてよね!」
女友達
「あ!来た!」
彼女の言葉に私は廊下を見る。
廊下から現れた弦は、扉に寄りかかり笑顔を見せた。
恵麻
「……弦」
その姿に、私の頬は赤く染った。
弦
「よぉ どうした? 早く帰ろうぜ」
一歩、一歩近付き、大きな弦を見上げる。
恵麻
「……私 ずっと前から弦が好きなの
付き合ってほしくて……」
弦
「……ッ」
しかし、弦は表情を強ばらせる。
そして俯くと小さく呟いた。
弦
「……よく 告白できたよな」
恵麻
「え?」
彼が顔を上げた瞬間、鬼のような形相で私を睨みつけた。
弦
「……母さんを殺したくせに!!
お前と付き合うぐらいなら 死んだ方がマシだ!!
……人殺しがッ!!」
凍てつく矢のような、その鋭利な言葉は私の心を酷く傷付けた。そして、その矢はクラスメイトの心さえも射抜いてしまった。
恵麻の友人達
「……ねぇ どういうこと?」
「なんか……聞いたことあるかも」
「恵麻のお父さん 殺したんだって」
「よくそれで仲良くしてたよねー」
周囲を見渡すと、卑しい視線が私を刺す。
震えた手で頭を抱えながら、思わず私はその場にうずくまった。
恵麻の友人達
「弦くんが可哀想〜」
「犯罪者の娘とかヤバすぎ」
「もう友達やめよ」
恵麻
「やめて やめて やめて!!」
泣き叫ぶことしか出来ない私は、ただの無力な人間だった。
----------回想終了----------
**
★穂高 弦の自宅-洋室
時刻は21時頃。
恵麻と弦は狭いベッドで身を寄せあっている。
恵麻の服装は現在と同様である。
弦はパーカー脱ぎ、インナー1枚で過ごしている。
肌に密着するタイプのタートルネックを着用。
そのため、筋肉の線が垣間見え体格の良さが浮き彫りになるだろう。
・・・
1粒の涙が、私の目元を伝った。
その冷たさに薄らと目を覚ますと、涙を拭う。
恵麻
「……重い」
横を見ると弦が私を抱き締めて、寝ていると分かる。
その様子に軽くため息をつくと、彼を起こさないように腕を退かす。
恵麻
「ぬいぐるみ代わりにするのは 昔のままね」
恵麻
『あの言葉で 私の人生は狂ってしまった』
弦の子供のような寝顔を見つめる。
彼の前髪を撫でながら、私は呟いた。
恵麻
「父が人殺しでも そばに居てくれたよね
……好きだったんだよ 本当に」
すると、弦は寝返りをうつ。
それと同時に私の瞳は、あるものを捉えた。
彼の項に模様が見えるのだ。
私は興味本位で、彼の項に触れるだろう。
恵麻
「……花?」
★弦の情報
項から背中にかけてジャスミンのタトゥーがある。
・・・
しかし、その瞬間――。
恵麻
「……ッ!?」
気付けば弦に押さえ付けられ、私は首を絞められていた。
穂高 弦
「見るな」
私の瞳に、彼の表情は映らない。
ただ獲物を捕らえた肉食動物のように、弦は私を睨むだろう。
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