辛い面会に行く背中を押してくれた歌
去年、母が緩和ケア病棟で亡くなりました。
母の面会に行くのは、大抵、午後1時少し前でした。再放送のNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』を見てから出発するのが習慣になっていたからです。
だからでしょう。病院に向かって車を走らせる私の頭の中では、いつもその主題歌「花束を君に」が流れていました。
この歌に強く惹きつけられるのは、母を失う悲しみに寄り添ってくれる気がするからです。
自分や父のことを分かっているのかも定かではない母に会いに行くのは、とても辛いことでした。
でも、この歌が背中を押してくれたおかげで、毎日通えたのだと思います。
「花束を君に」を歌っているのは、宇多田ヒカルさん。
宇多田さんのお母さんは、1970年頃に歌手として活躍した藤圭子さんですが、この曲は亡くなられたお母さんを追悼するために作られたそうです。
藤圭子さんの死は、自死でした。
宇多田さんのショックは、計り知れないものだったでしょう。その辛さは、私の悲しみをはるかに超えるものだったと想像します。
宇多田さんは当時、歌うことや曲を作ることもできないほど落ち込んでいたそうです。
しかし3年後、「花束を君に」が発表され、『とと姉ちゃん』を通じて多くの人のもとに届くことになったのでした。
宇多田さんが活動を再開する気持ちになれたのは、第一子の誕生を機に「この子のためにも仕事をしなければ」と思えたからだといいます。
また、この楽曲を制作したことで、少しずつ立ち直ることができたとも語っています。
楽曲制作に「治療薬」のような効果があると気づいたのは、自死遺族会の会合で「亡くなった人に手紙を書くと、気持ちが整理できる」という話を聞いたからでした。
確かにこの曲は、お母様へ向けた手紙のようです。
歌詞には、薄化粧をした愛しい亡き母に花束を贈る気持ちが見事に表現されています。
絶望的な苦しみを抱えながらも、そこにあるのは母への感謝と賛美、そして強い愛情です。
もちろん、「なぜ自ら命を絶ってしまったの」という悔しい気持ちもあったでしょう。
「(その問いかけに対する)言いたいこと、きっと山ほどある」というフレーズには、やりきれない思いが余さず込められています。
けれど、続くフレーズでは「(その答えは)神様しか知らないまま、今日は送ろう」と、神様のいる天国へ無事に旅立ってほしいと願う、悔しさを超えた深い愛情が示されています。
また、母へ捧げる花束が「涙色」だという表現にも、胸が締め付けられます。
かけがえのない母を失った悲しみがあまりに大きくて、色鮮やかな花さえも、あふれる涙でかすんでしまった。そんな情景が伝わってくるからです。

「母は、わたしにとって音楽そのものだった」というほどお母様を愛していた宇多田さん。それならば、「音楽はもう無理」と思うほど落ち込むのも無理はないでしょう。
宇多田さんは、この曲を「すごく勇気をもって、何も隠さず、強がらず」書いたそうです。
だからこそ、その素直なメッセージは、同じように喪失感を抱える遺族の心に染み入り、深く寄り添ってくれるのだと思います。
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認知症の父を介護しながら、再起をかけて執筆を続けています。
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自己紹介
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この小説の主人公も子供の頃に母を亡くしています。彼も、その悲しみを乗り越えるために頑張っているので、ぜひ応援してやってください。
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