銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(1話)
成婚率No.1の誤算
ボクの名前はユウ。24歳。独身。職業は宇宙飛行士。
幼い頃からの夢を叶えて宇宙に飛び出したが、その動機は、口にするのが少し気恥ずかしい。

宇宙飛行士になりたかった理由?
……それは、モテるからだ。
宇宙飛行士がモテる。それを確信したのは、小学校低学年の頃だった。
隣の席になった初恋の女の子の気を引きたくて、どんな人がタイプなのか尋ねたとき、彼女は迷わずこう答えたのだ。
「あたし、宇宙飛行士のお嫁さんになりたいの」

宇宙飛行士って、そんなに魅力的なのか……。
半信半疑のまま他の女の子たちにもリサーチを重ねたが、実に9割が「結婚相手は宇宙飛行士がいい」と回答した。
おそらく、映画やドラマの影響だろう。
銀幕の中の宇宙飛行士は常に人類を救うヒーローとして描かれ、端正な顔立ちのスターがその役を演じる。
その刷り込みが、この職業を「モテの頂点」へと押し上げたのだ。
さらに現実的な要因として、この星が深刻な環境危機に直面していることも、宇宙飛行士への期待をいっそう高めていた。
しかし当時のボクは、未来の自分がそんな重たい看板を背負わされることになるとは露知らず、ただプロポーズの成功率を上げることしか頭になかった。
ボクがそこまで「モテ」に執着し、早く結婚したいと願ったのには理由がある。
それは、母がいない寂しさを、一刻も早く埋めたかったのだ。
母はボクが小学校に上がる直前に亡くなった。
優しくて美しかった母を失った絶望は深く、幼いボクは後を追いたいと願うほどに打ちひしがれた。
毎日、どうすればこの喪失感を消せるか考え抜き、導き出した答えが「母によく似た女性と結婚すること」だった。

だが、理想の女性に出会えたとしても、相手に振り向いてもらえなければ意味がない。
だからこそ、ボクは「成婚率No.1」の肩書きを手に入れるため、死に物狂いで勉強と訓練に励んだ。
不純だと言う人がいるかもしれないが、その執念があったからこそ、ボクは最年少で難関の選抜試験を突破できたのだ。
それなのに今、ボクは宇宙飛行士になったことを猛烈に後悔している。
人生最大の目的である「結婚」の夢が、今まさに潰えようとしているからだ。
ピンチは2度あった。
最初のピンチは、3時間前に訪れた。
宇宙船が深刻なメカトラブルに見舞われ、漂流の危機に直面したのだ。
通信とナビゲーションの双方がダウンし、ボクらは漆黒の宇宙で、自分たちの立ち位置すら見失った。
母星に助けを呼ぶ術も、帰るべき道標もない。
燃料は底をつきかけ、宇宙食も残りわずか。
このままでは、この最新鋭の宇宙船がボクらの「鉄の棺桶」になってしまう。
絶望が船内を支配しかけたその時、奇跡が起きた。
モニターの端に、母星によく似た惑星が映し出されたのだ。
その星は、母星よりも若々しく、生命力に満ちていた。
陸地は深い緑に覆われ、砂漠はなく、海の色は吸い込まれるような鮮やかなブルーだ。

不思議なことに、その星を見た瞬間、夜道で自宅の明かりを見つけた時のような安堵感が胸に広がった。
クルー全員が同じ引力を感じていた。
ボクらは導かれるように、その瑞々しい平原へと着陸した。
しかし、着陸はゴールではなかった。
未知の惑星が、人間にとって安全かどうかを確認しなければならない。
酸素濃度は十分か、有害なガスはないか、未知の細菌はいないか……。 「外」へ出るのは、死に直結するリスクを伴う。
犠牲を最小限に抑えるため、偵察に向かうのは一人だけと決まった。
「……誰か、立候補する者は?」
リーダーの問いかけに、重苦しい沈黙が続く。

誰も死にたくはない。
誰もが、母星で帰りを待つ大切な誰かの顔を思い浮かべていたに違いない。もちろんボクも、まだ見ぬ「未来の妻」の顔を必死に探していた。
沈黙を破ったのは、サブリーダーだった。
「じゃあ、ジャンケンで決めるしかないな。もちろんリーダーも、オレも加わる。……それなら文句はないだろ」
有無を言わさぬ口調。彼はそう言い切ると、決断を促すようにリーダーの目を見据えた。

リーダーは苦渋を滲ませた表情を浮かべ、「……そうね。それしかないわね」と消え入りそうな声で言い、渋々頷いた。
ボクは一番の下っ端だ。異論を言えるはずもなく、ただ震える拳を握りしめた。
しかし、この「公平すぎる提案」こそが、ボクにとっての決定的な第二のピンチを招き寄せることになったのだ。
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