銀河漂流記 ーー遥かなる再会の空(2話)
英雄を決める偽りの勝負
宇宙船の狭いキャビンで、ボクらは円陣を組んだ。
それは結束を固めるためではなく、誰を「生贄」にするかをじゃんけんで決めるための儀式だった。
「ふ~っ」
隣にいる4歳上のタクさんが、大きく息を吸い込んだ。
肉付きの良い頬に空気を溜め、祈るように拳を見つめる姿は、まるで膨らんだフグだ。
その滑稽さに、張り詰めていた緊張が一瞬だけ緩んだ。

対照的に、リーダーの赤い縁の眼鏡の奥は、獲物を狙う猛禽類のように鋭く光っている。
40歳を超えても結婚せず、仕事に人生を捧げた「鉄の女」の威圧感に、ボクは圧倒されそうになった。

一方で、サブリーダーはどこか上の空だ。
危険な任務をジャンケンで決める提案をしておきながら、ふざけているのか。
しかし何かを思いついたのか、不敵な笑みを浮かべて顎髭をなでると、ようやく勝負のための拳をつくった。

ボクの右隣にいるリョウさんだけは、この淀んだ空気の中でも、ドラマから抜け出したような端正な顔立ちを崩さず凛としていた。
タクさんと同い年だが、サブリーダーのコバンザメの彼とは大違いだ。いつも親切で、弱音も吐かない。ボクの憧れだ。

リョウさんとだけは戦いたくない。でも、結婚という夢を叶えるために、死ぬわけにはいかない。
今は、負けられないライバルだ。
「ジャンケン、ポン!」
勢いよく、円陣に拳が振り下ろされた。
ボクの「チョキ」が、四つの「パー」を切り裂いた。
「やったー!」
生き残れる。母さんに似た運命の女に、いつか出会える。感情が溢れ、つい、歓喜の絶叫をあげてしまった。

「くそ〜っ!」と血管が浮き出るほど拳を握りしめるタクさんを横目に、サブリーダーが意外にも明るい声で拍手をした。
「よかったな。おめでとう、ユウ」
「へっ……」
人の幸福を喜ぶような男ではない。その違和感が、泥のように喉元へせり上がってきた。
しかし、一応は上司だ。ボクは戸惑いながらも頭を下げた。
「じゃあ、外へ出て安全確認をしてもらおうか」
サブリーダーは、笑顔でハッチを指さした。
「えっ……」
意味が分からず、絶句した。
間違いを正さなければ大変なことになる。慌てて「チョキ」をつくり、サブリーダーの目の高さに突き出した。
「ボク、ジャンケンに勝ちましたけど!」
「そうだよ」サブリーダーは、子供を諭すような冷徹な声で言った。「だから、その『特権』をやるんだよ」
「そ、そんな……、おかしいですよ」
「おかしいって、なんだよ」サブリーダーが口を尖らせて詰め寄る。「ジャンケンで決めるとは言ったが、『勝った者が免除される』なんて一言も言っていないぞ」
「あっ、そうだ! そうですよねぇ」
タクさんは指を鳴らして喜んだ。
はめられた。どっちに転んでも自分に有利な展開になるよう、わざとルールを伏せていたんだ。
ボクは必死に正論をぶつけた。
「でも、勝者が貧乏くじを引くなんてルール、普通ありませんよ!」

「貧乏くじ?」サブリーダーはとぼけた顔で首を傾げた。「なんでそう決めつけるかなぁ。よく考えろよ。もしこの星が移住に適していたら、お前は歴史に名を刻む偉大な勇者になれるんだぞ」
「うっ……。でも……」
言い返せない。さすがは口先だけで出世した男だ。
「もう、さっさと行きなさい。あなた、男でしょ!」
リーダーがボクの尻を叩くようにピシャリと言った。
『男女同権』が口癖のくせに、なんて理屈だ。
嫌な役を押しつけて安心したいだけじゃないか。
ボクが怒りを込めて睨み返すと、彼女は怯むことなく言い放った。
「何よ、リーダーの命令に従えないの?」
「いいですよ。自分が行きます」
遮るように声を上げたのは、リョウさんだった。
驚いて顔を向けると、「後輩にやらせる仕事じゃないからな」とボクの肩をポンと叩いた。
「えっ、いいんですか……」
リョウさんは返事の代わりに、優しく頷いた。
困惑した。けれど、それ以上に「死の恐怖」から逃れられた安堵が勝ってしまった。
「本当に……すみません」
頭を下げた瞬間、嘘のように気が楽になった。
しかしそれも一瞬であった。
なんて最低な男なんだ、俺ってやつは…。
深い罪悪感に襲われるボクに、リョウさんは笑顔でグッドサインを掲げた。
そしてヘルメットを被り、音声通信での報告を約束して、エアロックの向こう側へと消えていった。

「よかったな、いい先輩を持って」
サブリーダーの蔑むような視線が刺さる。
言い返したかったが、憧れの先輩を死地に追いやって安堵しているボクに、その資格はどこにもなかった。
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