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諦念:諦めは前向きに② | 思い出の味【解決編】※ネタバレあり

本文 約1,100字

この記事は「思い出の味」の解決編を分割した、2/2にあたります

最初から楽しむには1/2諦念:諦めは前向きに①から読んでね



事件編


探究編


解決編

諦念:諦めは前向きに①


諦念:諦めは前向きに②

​「何かウイスキーをソーダ割りで」
スガイさんはグラスに瓶からソーダを注ぎながら言った。
「トオルさん、そういえばこの前のオールドパーの話ですけど、別の可能性もあるんですよ」

アルコール度数の高いウイスキーは、開栓後に緩やかな酸化が進むことで、好ましい風味の変化が起こることがあるらしい。時間が経ちすぎると平坦な味わいになってしまうが、飲み慣れていない高校生の私たちには、それがちょうど良かったのかもしれない。

父のウイスキーを友達とこっそり飲んでしまった後、同じ銘柄をコンビニで見つけて買ってきた奴がいた。みんなで開封の儀を執り行い、厳かな雰囲気で飲んだのに、「味が違う」「偽物だ」と、結局は悪ノリで盛り上がり、後片付けが大変だった。

あっ

ふいに別の記憶が蘇ってきた。実家の食卓の上に広がった黒い水たまり。倒れたガラス製の醤油差しと、その真っ赤なフタ。子どもの頃、私が倒してしまったとき、母は大慌てで拭いていた。しかし今日、家で倒れた真空ボトルは、ほとんどこぼれなかった。

「そうか…」

実家では醤油を、流し台の下に一升瓶で保管していた。使うときは醤油差しに移し替えて、そのまま食卓に出しっぱなしになる。記憶の中の醤油の味は、一升瓶と醤油差しの中で、常に空気に触れ続けることで変化したものだったのだ。

「酸化も含めて、思い出の味だったのか」

私は小さく呟いた。スガイさんが微笑んで、グラスに水を注いでくれる。

帰宅すると、まだ起きていたミサキに、私は少し興奮気味に話した。ウイスキーと醤油の味が記憶と違っていた謎が、ついに解けたのだと。ミサキは楽しそうに聞いていたが、途中で表情を変えた。
「へえ、良かったじゃない。……まさか一升瓶で買うなんて言い出すんじゃないでしょうね?」
視線が、あの時の検事のように鋭くなる。
「うっ……」

思い出の味は懐かしい。だが、それにこだわりたいわけじゃない。子ども達にとっては今のありのままの我が家の味が、思い出になっていくのだから。

「あら、これ汚れてるわね」

食卓に置いてあった紙に、ボトルが倒れたときの醤油の雫が飛んでしまったようだ。ミサキが紙を手に取って汚れた場所を確認する。

「ねえトオル、尿酸値の横の印って何?」

血液検査の結果、味覚は正常でも別の異常が見つかっていたようだ。​すかさずミサキからの小言が飛んでくる。私も下調べしておいた情報で応戦する。

「卵と醤油はプリン体少ないんだよ」

「卵と醤油が合う料理は、逆にプリン体が多そうですけどねぇ」

ミサキは私の苦しい言い訳に呆れながらも、楽しそうに笑っていた。

真空ボトルが当たり前になった我が家では、思い出の味を再現することはできそうにない。それでもいい。次の連休あたりに、みんなで実家へ行こう。酸化した醤油を味わうためではなく、母と子どもたちを久しぶりに会わせるために。


オマケ

もとになったXポスト

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