#11 | カリフォルニア州立大学

短大での修行と、受動的に身についた英語

「どのタイミングで英語ができるようになったのか」とよく聞かれることがある。

私の5年半の留学を振り返ってみると、それは決してある日突然開眼したようなものではなく、きわめて段階的だった。

短大での一般教養課程は、まさにその第一段階としての「修行」の連続だった。

政治学の講義では専門用語の応酬についていけず、英語がただのノイズに聞こえて「そもそも宿題が出たかさえわからない」という絶望を味わった。

第二言語として選択したドイツ語の授業では、ドイツ人の教授から「あなたは今、英語を話しているのかしら? それともドイツ語?」と冷ややかに揶揄されたこともある。

ディベートの授業にいたっては、圧倒的な英語力の無さの前に、自分の意見をまともに主張すらできない無念さを何度も噛み締めた。

けれど、あの暗闇のような日々は、確実に私の基礎体力を底上げしていた。

英語がわからなくてもとにかく大学の授業を履修し、席に座って教授の講義を聞き続けることで耳が慣れ、リスニング能力が上がっていった。

課題をこなすために膨大な教科書を読まなくてはならない環境がリーディング力をつけ、現地の国語(ライティング)の授業で徹底的に論文を書くことで、ロジカルなライティングができるようになる。

ここまでの「聞く・読む・書く」というスキルは、過酷な大学生活にしがみつくことで、ある意味では「受動的」に身についていった気がする。

この頃には、日常生活には困らない程度のスピーキングもできるようになっていた。

しかし、どうしても最後まで越えられない高い壁が残っていた。

それは、数人が会話する中に入り込み、自然に発言することだった。

州立大学3年次編入

短大で2年半を過ごしたのち、その成績と論文を持って幾つかの公立大学への3年次編入の願書を提出した。

何校か願書を出したものの、実際に行きたい場所は1つしかなかった。
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校 余暇学部。
この頃には最初の留学の理由である映画を学びたいという考えから、映画はツールの1つであり、根本はことやものを通して人との共感を作るという本質的なことが学べる余暇学部へ思考が定まっていた。

在籍人数が4万人を超えるマンモス校であるカリフォルニア州立大学ロングビーチ校は、当時、全米の公立大学の中で最も倍率の高い大学だった。
費用に対して高い質の教育が得られるベストコストパフォーマンスでは全米一位だそうだ。

こればかりは合否の連絡が来るまで、どう転ぶかわからなかった。

少し分厚めの封筒に、大学のロゴが刻印された手紙が届いた。
中を開けると、数枚の書類が入っていた。

一枚めの中央に大きく「Accepted(合格)」の文字。

よかった。
とてつもない安堵感を感じたことを覚えている。

グループワークの嵐と、学長賞

受動的に得たリスニング・リーディング・ライティングのスキルだったが、最後の壁であるスピーキングが身についたのは、大学への編入を果たし、自らの専攻である「余暇学(Recreation and Leisure Studies)」に没頭し始めてからだった。

私の進んだ余暇学は、学内でもグループワークが非常に多いことで有名な学部だった。何かといえばすぐに数人のグループが組まれ、共同でのプレゼンテーションを求められる。

さらに、その先に控えているインターンシップでは、複数人の会話に自分から割って入れなければ、そもそも仕事にすらならないという現実が待っていた。

「会話に入れなければ、ここでは生き残れない」

その切迫感が、私を突き動かした。かつて政治学の講義ではただのノイズに聞こえていた英語が、余暇学の教室では、私がかつてディズニーの現場で肌で感じていた「人が熱狂する正体」を解き明かすための、面白いヒントへと変わっていった。

「なぜ人は、この瞬間に喜びを感じるのか」

「その心理的な仕組みは、ビジネスとしてどう成立しているのか」

「グループの心理や、リーダーシップ論」

「社会における生活の中の余暇環境の整備」

「イベント企画やリスク管理に関わる法律」

自分が学びたかったことや、やらなければその先は無いという環境になったとき、私は英語をツールとして能動的に取り組むようになっていった。

気づけば私は講義の最前列に座り、教授や現地の学生たちの議論の輪に割って入り、自ら問いを発するようになっていた。

その結果は、数字となって現れた。

ある学期、私の成績表に「学長賞」という最高の名誉が刻まれた。

スタバで「店内か、持ち帰りか」すら聞き取れず、引きつった笑顔で「Yes」としか言えなかったあの日の無力な青年が、現地の学生たちを抜き去って、ひとつの「証明」を掴み取った瞬間だった。

留学生活の後半戦、ここから私はさらなる泥臭い現場である1500時間におよぶインターンシップの混沌へと突き動かされていく。


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