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シン・京都市長 信長 第二話

第一話

実家の西陣へ戻った。自転車旅に出てから1年経っていた。

木下をはじめ、昔出会ったこと事のある人物は誰一人、過去の記憶が無い。木下をぶん殴りたい気持ちをぐっと抑えた。そもそも殴った程度で気の済むものではない。ただ、アイツは気転がきくし要領も良い、そばに置いておく事にした。

信長自身、全ての記憶が蘇ったわけではないが「天下統一」という大いなる野望は明確に思い出した。

「俺は織田信長の生まれ変わりだ」といっても誰も信じないだろう。戦国時代と令和では何もかも違いすぎる。今の世で「天下」を獲るとは何か、大企業の社長になることか、世界的アーティストになることか、オリンピックで金メダルを獲ることか、総理大臣になることか‥‥。

ベンチャー企業を立ち上げるにしても何から始めるのか、バンドは組んでいたが趣味程度、得意のダンスでオリンピックを目指すにしても相当量の練習が必要だ。総理大臣を目指し国会議員になるとしても、衆議院議員は満25歳以上、参議院議員は満30歳以上でなければならない。この時の信長はまだ19才。考えがまとまらない。

信長は、1年間バイトでお金を貯め、20歳でバックパッカーとなり世界へ旅に出かけようと決意した。単なる旅行ではなく、世界を見て目指すべき目的(天下)のヒントを得るためでもあった。

バイト先は、WEB制作会社だったのでPCとネット環境があれば仕事が出来る。沢木耕太郎の深夜特急にならい香港・マカオからアジアを横断しロンドンを目指した。

シンガポールは、多文化でありながら治安も良く清潔で整然としていた。インドでは、強烈な経済発展と貧富の差を目の当たりにした。イランの古都イスファハンのイマーム広場に感銘。トルコからギリシャにかけては歴史の古さ厚みに圧倒された。フランスのルーヴル美術館は、10回も訪れ隈なく見学した。しかし、どの国も目的(天下)のヒントを得る事は出来なかった。

この旅で最も長く滞在したのがイタリアのローマだった。ローマは京都と同じ古都だが、歴史の長さは比較にならない。弥生時代、日本で水稲耕作をしている頃、古代ローマではすでに水道をふくめインフラが充実していた。水道のバルブは、銅と錫の合金ブロンズで出来ていた。有名な観光地、コロッセオ・スペイン広場・トレヴィの泉などメジャーな観光名所は一通りまわった。

ローマで最も印象的だったのは、ガイウス・ユリウス・カエサルを知った事だった。カエサルは、古代ローマの政治家であり天才的な軍人で、世界史上最高の指導者と称される歴史上の人物。志半ばで暗殺される「ブルータス、お前もか」というセリフはあまりにも有名。信長は、2000年以上昔のカエサルに親近感を持った。

イタリアを離れる時、お土産に小さなドクロの絵を購入した。有名なテーブル天板の絵で、死を示すドクロの左側には富と権力の表象が、右側には貧困の表象が配される。通称メメント・モリ、どの社会階級の者にも死が平等に訪れる、「死を忘れるな」という意味。ドクロの下に蝶と車輪、人生は「富と権力」「貧困」どちら側にも簡単に転ぶと示唆している。

メメント・モリ
メメント・モリ

信長は、カエサルに思いをはせながら絵を眺めた。能力があっても目的を達成できるとは限らない、若いからといって時間がたっぷりあるとは限らない、人はいつ死ぬか解らない、早く目的(天下)を見つけねばと。

ロンドンから日本に帰るつもりだったが、チュニジアに古代ローマ時代の遺跡があると聞き立ち寄ることにした。

北アフリカのチュニジアにカルタゴ遺跡がある。古代カルタゴは地中海の権益で栄えた北アフリカの大国だった。紀元前3世紀、カルタゴに稀代の名将ハンニバルが誕生する。このカルタゴ人は、古代ローマに戦いを挑みあと一歩まで追い詰めるが、ローマの智将スキピオ・アフリカヌスに敗れる。繁栄していたカルタゴは徹底的に破壊され塩まで撒かれ不毛の地となった。カルタゴの住民は殺されるか奴隷として連れて行かれた。現在の遺跡は、破壊された100年後に再建されたものだ。

カルタゴ遺跡ごしに青く美しい地中海が広がる。海から吹く清々しい風が頬をかすめた。

古代カルタゴ人は大繁栄していた祖国の滅亡をどう見たのだろうか。カルタゴを滅ぼしたローマ帝国も滅んだ、国家も人間も永遠は無い。信長は、諸行無常を感じずにはいられなかった。

天下布武は、織田信長が掲げた理想、武力で天下を統一し、その先どうするつもりだったのか。いくさをなくし平和で繁栄した世を創ることではなかったのか。今の日本に戦はない、統一する必要もない、なら「平和」と「繁栄」が目的(天下)の続きではないだろうか。目的を達成するには、やはり政治家になることか‥‥‥。

目的を決めきれないまま日本に帰ることにした。5年ぶりに。


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りょうたろう 京都生まれ・京都育ちの京都人。 2005年から「京都観光研究所」を運営しています。 https://www.kyotokk.com/ https://blog.kyotokk.com/