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シン・京都市長 信長 第三話

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帰国後、すぐに連絡をくれた木下が馴染みの中華屋で慰労会を開いてくれた。京都の町中華はレベルが高い。名物のカラシソバを食べながら見たのが京都市長引退のニュースだった。

信長はこのタイミングに運命を感じた。政治家になり総理大臣まで登りつめると決意した。

木下はスマホで調べ続けていた。
「学歴は関係無し、年齢も満25才からで問題なし、ただ供託金っていうのがいるみたいっす」
「いくらだ」
「240万円だそうです」

供託金とは、売名行為や選挙妨害などで立候補者が乱立するのを防ぐためのもので、当選もしくは一定以上の結果を残せば全て返還される。

供託金は、選挙の種類によって金額が変わる、衆議院小選挙区300万円・都道府県知事選挙300万円・政令指定都市長240万円・市議会議員選挙(政令指定都市)50万円。最も高額なのは衆議院比例代表名簿単独者600万円、最も安いのは町村議会15万円。

当選もしくは一定以上の結果を残せば返金されるとはいえ、選挙に立候補するだけでそれなりのお金が必要になる。さらに、立候補してから人件費・家賃・広告費など様々なお金がかかる。一般人が選挙に挑戦するにはハードルが高い。

「貯金ってあるんすか」
「ほぼ0だな」
告示日まで約5ヶ月、バイト代を全額貯めても届かない金額。

中華屋を出て、カドを曲がった先にバイト代が振り込まれている銀行がある事を思い出し、木下と歩いて向かった。

240万円の借り入れを申し込んだが、目的が選挙の供託金と聞くと、銀行員は会社の正社員になって1年ほど勤めてからあらためて来てくださいと言った。もしかして、貯金が0と知っているからかもと、近所の大手信用金庫に行ったが、答えは同じだった。この日はあきらめ、資金調達は後日考える事にした。

信長の実家は、西陣で小さな西陣織工房を営んでいたが、需要の急減と職人さんの大病で開店休業状態だった。実家からの援助は期待できない。

西陣織の機械を下取り査定に出したが0円であきらめた。査定業者は、運び出すのにお金がかかる、お金をもらいたいぐらいだと言った。

西陣織はピークの1/10まで落ち込んでいる。西陣織に限らず、京都の伝統産業は苦境に立たされているのが現状だ。伝統産業の振興も大きな課題となっている。

クラウドファンディングなんてどうです?木下がひらめいた。信長は選挙公約をまだ公表したくなかった。共感を得て資金調達するのは難しそうだ、それに返礼品も無い。

「240万かぁ‥‥24万ぐらいならなんとかなりそうっすけどねぇ~」木下は阿闍梨餅あじゃりもちを食べながら天井を見上げた。
阿闍梨餅は、丹波大納言小豆のアンコをもっちりしっとり柔らかい皮で包んだ半生菓子。その形は、比叡山千日回峰行の阿闍梨の網代笠から着想を得たといわれる。

「そうだ、アイツに借りよう」
「アイツ?」
「松波景子の親父だ」
「えっ!松波ですか‥やめといたほうが‥‥うっ」阿闍梨餅が喉に詰まった。

直接会ったこと事がなく面識も無かったが貸してくれそうな気がした。

松波景子まつなみけいこは、信長の同級生、芸能プロダクションから誘いをうけるほどの美人で学校中から注目を集めていた。が、信長は景子より父親の利政としまさの方に興味があった。

松波利政は、京都市内を中心に関西一円のビルを数々所有する不動産会社の社長。20代前半で従業員5人ほどの小さな不動産会社に入社、3年後にはその会社を乗っ取っり、事業を急拡大させてきた。「毒ヘビ」とのあだ名がある黒い噂が絶えない人物だ。関われば、じっくりと締め上げられ毒を盛られると恐れられていた。

信長は松波利政に直筆の手紙を送った。数日後、1人で来い面会時間は5分との返事が来た。

京都市内の一等地に建つ「松波ビル」へ向かうと、すでに利政は椅子に座り待っていた。ギョロリとした大きな目、還暦だが10才は若く見える。利政は、お金にすごい執着心があったが、健康にも並々ならぬ関心があった。食事を節制し、よく運動をし、気力体力満ち溢れていた。「200才まで生き、日本中の不動産を買い占める、そのためには健康でなくてはならない」が口ぐせだ。

利政は、開口一番「俺に金を借りに来るヤツはたくさんいるが、あんな変な手紙をよこしたのはお前が初めてだ」と言った。顔は笑っているが、目は笑っていない。その目は、用心深く心の奥底まで見透かそうしていた。

信長は、部屋に入った瞬間確信した。

(やはり、斎藤道三さいとうどうさんだ)

斎藤道三は、京の油商人から知略謀略で土岐氏の美濃の国を奪い取った人物。戦国三大悪人の一人で「美濃の蝮」と恐れられていた。娘の帰蝶(濃姫)を織田信長に嫁がせ、義理の父となる。

帰蝶が嫁いだ後、織田信長と斎藤道三は、尾張と美濃の中間地「聖徳寺」で会っている。お互いに挨拶程度でほとんど会話はしなかった。分かれた後、道三の家来が信長について「うわさ通りのたわけ者でしたな」と言うと、道三は「俺の子らは、たわけ殿の軍門にくだり家来になるだろう」と予言した。

あの時以来、再会は聖徳寺ではなく松波ビルだった。

「240万貸せと」
「供託金なので当選して返す」
「返さなければ、倍の金額分、俺の会社で働いてもらうぞ」
「わかった」
即答した信長の目を、じっと見た、10秒ほど、お互い目はそらさない。利政は、信長に心のゆらぎが無いか見極ていた。

金庫から現金を持ってくるよう部下に命じた。現金500万円、契約書は書かない。信長は礼も言わず、500万円を手にサッと帰った。上下関係を作りたくなかった。利政も別に不快には思わなかった。

「何処の馬の骨かわからないヤツに大丈夫ですか」心配そうに部下が尋ねた。
「選挙に勝っても負けても損はせぬ、それに貸した金を回収出来なかった事など今まで一度も無い」

利政には、信長が市長になってもらったほうが何倍にもなるという打算があったが、それ以上に信長に感じるものがあった。ただ、それが何かは解らない。


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りょうたろう 京都生まれ・京都育ちの京都人。 2005年から「京都観光研究所」を運営しています。 https://www.kyotokk.com/ https://blog.kyotokk.com/