シン・京都市長 信長 第四話
信長は、大徳寺近くの木下の実家へ行った。昔やっていた駄菓子屋のスペースを選挙事務所として貸してもらうつもりだ。
ドン!帯封の札束を5つ机の上に置いた。
「へぇ~、よく借りれましたね」木下は出町ふたばの豆餅を食べながら言った。
「返さなければ、松波の会社でこき使われそうだ」
「おぉ怖わ」
大徳寺は、後醍醐天皇により「本朝無双の禅苑」とし南禅寺と共に五山の上座とされた。応仁の乱で衰退したが、中興の祖一休禅師(一休さん)が住持の時期に堺の商人の支援で再興された。大徳寺は、織田信長にも豊臣秀吉にも縁がある巨刹である。
1583年(天正11年)、羽柴秀吉(豊臣秀吉)は大徳寺で信長の追善供養を執り行った。信長の遺骸が無かったため、姿をうつした木像を二体造り、一体を火葬した。焼けた香木の匂いが京の都にただよった事から「大徳寺焼香」といわれた。残った信長の木像は、大徳寺塔頭の総見院で特別公開の時に拝見できる。
木下は選挙について調べていた。
「どうやら、供託金は来年1月の告示日でいいみたいっすよ。あっ食べます豆餅」
上品なこしあんを柔らかいお餅で包み込むふたばの豆餅。軽く塩味の付いた北海道産赤えんどうがちょうどよいアクセントとなっている。出町柳の本店はいつも行列だ。
「政治活動はいつしていいけど、選挙運動は選挙運動期間中にしかできないみたいっす」
「政治活動と選挙運動はどう違うんだ」口の周りに白い粉を付けながら信長は聞いた。
「政治活動は政治上の目的をもって行われる行為、選挙運動は当選を目的とした行為って書いてあります」
「‥‥よくわからんな」
「ところで、公約ってあるんすか」
「ある!‥‥が、まだ言わぬ」
9月9日、古来より陽数の「九」が重なる9月9日の事を重陽と呼び災厄払いの日とされていた。上賀茂神社では、八咫烏が神武天皇を先導した故事と信仰行事の相撲が結びついた烏相撲が行われていた。
信長と木下は、オーバーツーリズムの現状を知るため、上賀茂神社から京都市内の観光スポットを2週間かけて見て周った。清水寺や嵐山は、半分どろこか7~8割は外国人観光客だった。一方で混雑していない観光スポットもあった。上賀茂神社は世界遺産ではあるが、同じ世界遺産の清水寺に比べると観光客はずいぶん少ない。京都駅から遠くアクセスに時間がかかるからだ。
伏見稲荷大社は、ほとんどが外国人観光客だった。
「日本人見つけるのが難しいぐらいっすね」千本鳥居に押しかける外国人観光客を見て木下は驚いた。
「京都一周トレイルって知ってるか」突然、信長が聞いた。
「トレイル?さぁ‥‥」首をかしげた。
千本鳥居の先に京都一周トレイルの東山コースがある。
京都市内は、南以外、山々に囲まれた盆地。東から北を経由し西にかけて、山の中を中心にトレイルコースが整備されている。東山コース・北山東部コース・北山西部コース・西山コース・京北コースと5つのコースがあり、京北コース以外、4つのコースをつなぎ合わせ一周(全長約84km)する事が出来る。
「来週の日曜日、東山コースに挑戦するから準備しておけ」
「えっ!木登りは得意だけど、山登りはちょっと‥‥」木下は困惑した。
「山登りではない、トレイルだ」
東山コースは、伏見稲荷大社から比叡山のケーブル比叡駅までのハイキングコース(全長約24.6km)。上ったり下ったり想像以上に大変な道のりだった。
「はぁはぁはぁ、こ、これって選挙に関係あるんすか」フラフラの木下が後ろから聞いてきた。
「ある」
「はぁはぁはぁ、トレイルコースを外国人観光客にPRしてオーバーツーリズムの解消につなげるとか‥」
「違うな。ところでお前運動不足だぞ」木下は最近、和菓子にハマりやや太り気味だった。
信長は、時々立ち止まっては地図に何かを書き込んでいた。
トレイルコースは途中、開けた所があり京都市内が一望できる。

「こうやって見ると京都は高い建物が無いのがいいっすね~」木下は虎屋の小形羊羹を口に入れた。
結局、東山コースは10時間以上かかった。ゴールのケーブル比叡駅からは京都市内の夜景が広がっていた。
「やっぱり山登りじゃないっすか」木下は恨みっぽく言った。
「来週は、北山東部コースに行くぞ」
木下は倒れた。
4週に分けて京都一周トレイルを成し遂げた。信長は、自らの足で京都市全体を感じれたようで満足だった。手元の地図には、記号や文字がぎっしり書き込まれていた。
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京都生まれ・京都育ちの京都人。
2005年から「京都観光研究所」を運営しています。
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