#33, ガンジス産スライムで足を清めた話🦵
※この日記は、42歳アラフォー女が「で、私の人生、これでよかったんだっけ?」と首をかしげて、とりあえずインドへ飛び出した旅の記録。今回は#32の続きです↓
10月16日
◇ドロ沼サバイバル
アッスィ・ガートに向かって、ガンジス川沿いをテクテク歩いてると、前方から元気な男女がニコニコ近づいてきた。
聞けば18歳と16歳の兄妹で、兄はカナン、妹はナナンダという。
「私たち、日本人と話すの初めてなんです!」とテンション爆上がりで全力で絡んでくる。

このヤングでかわいい二人が、「アッスィ・ガートまで連れて行ってあげるよ!」と言ってくれたので、即席3人旅スタート。
…が、歩き出して数分で大事件発生。
ズボッ!!!!!!!!
え、足が、消えた!?!?!?
気づけば、足がガンジス川沿いのぬかるみに埋没。
どうやら話に夢中になってるうちに、川ギリギリの危険な沼ゾーンに足を踏み入れてしまったらしい。
しかも想像以上に深くて、グイグイ沈む。
「え、ちょっ、待って、これヤバいヤツ!!!」
パニックになり足を引き抜こうとするけど、泥がびっちり絡みついて離してくれない。
バタバタ足を動かすほど、さらに沈むという悪循環。
完全に海で溺れる人のテンプレートを、身をもって再現する私。
頭をよぎるのは、最悪のニュース見出し。
「日本人女性 ガンジスに吸引される」
いやいや、こんなところで死ねるかい!
もう、本能で足をぶん回す。
たぶんこの瞬間のキック力、横に馬がいたら拍手してくれてたと思う。
その本気の脱出キックにより、なんとか足が地表に戻ってきた──!
ホッとして横を見ると、ナナンダも豪快にズブズブいってる。
しかもビーサンを、沼に献上中。
でもニコニコ笑って、「やっちゃった~♪」みたいなテンションで。
インドの若者、メンタル強すぎる。
◇サンダルwith高濃度スライム
必死の形相で沼から脱出したのはいいが…。
なぜか周囲にいるインド人たちの視線が、一斉に私の足に集中してる。
なになに?と思って足元を見てみたら…
サンダルの周りが、ガンジス産の超高濃度スライムでぐるりと包囲されていたのだ。


それを見たナナンダが「あそこで洗ってもらおう!」と指差した先に現れたのが──
ガンジスのシャワーマスター。

ボロボロの白?いや、茶色のタンクトップに赤いターバンを巻き、黙々とホースで放水中。
…てかちょっと待って。
そのシャワーって、どう見てもガンジスの原液100%だよね?
実は私、この旅では「ガンジスの水には触れない」って決めていた。
聖なる水…なのは、わかる。わかった。
だけど、私のか弱い胃腸と無事の帰国ためには、なるべく距離を保ちたい存在。
でも…何を隠そう、すでに足はガンジス直送ドロスライムまみれ。
観念して、静かにシャワーマスターの前に仁王立ちになる私。
すると、ブッシャアアアア!!!と全力の放水が。
水圧が想像の10倍!!
気を抜いたら顔面にガンジス水がぶっかかりそうで、必死で口をフルクローズ。
飲み込みNG、明日帰国、命のライン。
でも…洗い上がった足を見て、私は思った。

「うん、すごい清まった気がする」
インド最終日に、まさかの足だけ沐浴。
絶対に触れたくなかったはずのガンジスに、結局こうして助けられた。
それも、想定外の角度から。
人生ってそんなもんだよね。
避けてたものの中にこそ、思い込みが外れるリセットボタンが転がってたりして。
そして、その多くは「失敗っぽいものの中」に、さりげなく混ざってる気がする。
ありがとうシャワーマスター。
そして、私の足よ、お疲れ様。

◇チーズケーキ
ドロ沼事件から生還し、兄妹の案内で無事アッスィ・ガートにたどり着いた。
けれど正直なところ、もう体も心も完全にヘトヘト。
足は洗えてても、体力の消耗までは洗い流せなかった。
若い兄妹はまだ元気で「もっと遊ぼうよ!」と無邪に誘うのだが、オバサンもう限界。
「ごめん…もう帰りたい」と正直に伝えると、兄カナンが「じゃあ僕のバイクで送るよ!」と即答。
3人乗りになるやん…と断ったのだが、「絶対送るから!」の熱意に負けて、兄・私・妹の順で三ケツ爆走スタート。
ガンジスの風をバイクでビュンビュンと切りながら、彼らの青春のワンシーンに混ぜてもらったことに、感慨を覚えた。
宿近くまで送ってもらい、そのまま部屋に戻れば良かったのに…。
私はこういう時、絶対に真っ直ぐ帰らない。
そう!人間はツライことがあると、糖分を求める生き物なのです!!
向かったのは、欧米人がオーナーの、オーガニックカフェ。

席につくやいなや、自家製チーズケーキをオーダー。
しばらくして運ばれてきたのは、想像の1.5倍サイズの立派なチーズケーキ。
「よしよし自分、今日よくがんばった♡」と、フォークを手にしたその時。
強い視線を感じた。
顔を上げると、カフェの入口に立つ、赤ちゃんを抱えた少女。

お店のスタッフに見られないよう、扉の影に身を隠し、お金をねだるような仕草をしながら、こちらを見つめている。
痩せてて小柄で、あどけない顔は疲れきってるけど、たぶん15歳くらいだろうか。
……あの赤ちゃん、彼女の子供だったりするのかな。
胸が、きゅっと締めつけられる。
思わず視線をそらし、ごめんねと思いながら、私はチーズケーキを口に運んだ。
美味しい。
確かに美味しいのだが、心の奥からこんな声が聞こえてくる。
──お前さ、好きでインドに来て、沼にハマって、落ち込んで、ちゃっかりカフェでお疲れさん会?世界には、もっと深刻な現実が山ほどあるんだぞ。。
そんな問いが、チーズケーキの甘さに乗って、喉の奥にぬるりと残る。
たしかに私は、旅先で勝手に悟ったつもりになり、勝手に浄化された気分になり、今はクーラーの効いたカフェで甘いものを食べて、辛い現実から目をそらしている。
それでも──思ってしまう。
これこそが「旅」ってやつなんじゃないか、と。
旅なんて、全部が全部「美しい物語」にする必要なんてない。
葛藤とか失敗とか、チーズケーキ越しの自己嫌悪とか。
むしろ「ああ、それ見たくない」と思ってしまう瞬間こそが、本当にリアルな旅の断片で、あとからジワジワ効いてくる。
その全部を抱えたまま、帰るのだ。
そしていつか、その断片が思わぬ瞬間に顔を出し、思いもよらないかたちで浄化されるかもしれないし、しないかもしれない。
それでもいい。
それが、「旅」という名前の人生の一部なのだ。
さて──。
チーズケーキは最後まで、ちゃんと美味しかった。
インドのラストデザート。
甘くて、ちょっとだけしょっぱい。
まるで、この旅そのもの。
続く…
ラエコ
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嬉しくて眠れないと思います。