【第十四章】 油断、焦り、決闘 連載小説 『華恋、海へ還る 〜穂高を愛したマーメイドストーリー〜』
飛騨乗越からの撤退を決断した僕と華恋。
霧の中、新穂高温泉へ向かって長い下山を開始する。
最初のうちは足取りも軽く・・・。
大「これなら予定より早く下山できそうやな。」
と僕は余裕を見せる。

ヤマケイのタイムレコード上は6時間20分で下れるルートとなっていたので、僕の中では休憩なしで4時間半もあれば下れるという算段があった。
これまでどのルートも標準コースレコードの65%以下のタイムで歩いてきた経験からの確信めいた予測だった。
ところが、今回はその考えが自分の首を絞めることになるなどとは、まだ夢にも思っていなかった。
標高2900mまで下ってきたら霧も晴れてきた。

見上げたら稜線と槍ヶ岳本体だけ、雨雲に覆われたようになっていた。
『これなら大キレットは、視界不良に襲われることもなく歩けたかも知れない。』
山というものは下山を始めると、急に未練で後ろ髪を引かれるような想いになるものなのだ。
『もっと満喫したかった。』
ちなみに飛騨乗越から千丈沢乗越分岐(標高約2500m地点)まで本来なら55分で歩けるところなので、休憩することもなく行けるはずだった。
ところが標高2600mの看板のある岩場でいきなり脚にダメージが出る。

下りは膝への負担が尋常じゃないので、これまでのペース配分が、今の自分にはオーバーペースだったという証拠だろう。
ついでに体温も上がってきたので、レインジャケットを脱いで薄手のフリースに着替えた。
15分の休憩を入れたとはいえ、分岐まで1時間12分もかかるとか・・・。


今後もこの調子でマメに休憩を入れないと最後までペースを維持できないって考えると、新穂高温泉まで下山するのに何時間かかるのやら。


ちなみに分岐から少し下ったあたりから飛騨沢という川の起点がある。

この川が新穂高温泉で左俣谷の川と合流して蒲田川となり、上宝町〜神岡町にかけては高原川と名を変えて、最後は神通川として富山湾に流れ込む河川となるのである。
華「神通川!わかります。富山湾ですよね?」
大「そう!富山と言えば黒部川が有名だけど、富山の街を流れる川と言えば神通川!他にも剣岳に源流のある早月川とか、富山はアルプスの清流に恵まれているから米も美味しかったりするよね。」
華「富山湾のお魚も美味しいですよ!アカムツ大好きです!あと白エビとホタルイカも・・・。」
大「アカムツってノドグロの事ね。しかし、こうして山を一緒に歩いたせいでスッカリ忘れとったけど、あんた海の人やもんな?」
華「はい、私も忘れそうになっていました。(笑)神通川の名前を聞いて、思わず富山湾の味を思い出しました。」
大「富山湾にも出入りしていたなら、能登半島の七尾って場所もわかるかい?」
華「わかりますよ!能登島とか和倉温泉の近くですよね。」
大「俺と先代もそこがルーツでな。」
華「出身地ですか?」
大「いや、出身は二人とも神戸生まれ神戸育ち。先代は父親までが小樽出身って言ってたかな。」
華「小樽も行ったことありますよ!八角って意外と美味しい魚なんです。あとキンキも大好き。」
大「でさ、俺も先代も曾祖父の世代まで遡ると、七尾出身って話でお互い驚いた事がある。しかもそれぞれ漁師だったってね。」
華「それ、ものすごく運命を感じるお話です。私小樽にも行ったことがあるのですが、いつも七尾から出る北前船に便乗して、寝る時は船の舵にしがみついて寝たりして。」
大「人魚もそんな裏ワザみたいな事するんやねぇ〜。親近感湧くわ〜。」
華「一度網にかかって逃げれなくなった時に、助けてくれたのは七尾の漁師さんでした。それもあって店長とその先代社長にはご縁を感じてしまいます。」
大「不思議な話やなぁ〜。どこでどんな縁があるかわからんよね。ちなみに先代のおばあちゃんの家系は北前船貿易で財を成して小樽へ移住した家系らしくて、そのルーツは福井県らしいわ。」
華「それで先代社長は福井県の観光地を第二の拠点としたんですね?」
大「そうやなぁ、彼が旅行会社時代にお世話になった人の人数が圧倒的に多かったのが福井県でもあるし、一番世話になった若狭のドライブインの社長から、助けてくれって言われたのが最終的なキッカケやな。だから今は俺がその意思を引き継いでいる。」
華「そうだ!今回の旅から帰ったら、先代社長のルーツを調べてみたいんですけど、色々と教えて頂けませんか?」
大「そういえば彼岸の墓参り、まだ行ってなかったし、一緒に行ってみるかい?その時に先代のおばあちゃんも紹介するよ。」
華「先代社長のおばあちゃん?」
大「そう、先代が一番恩返ししたかった人を残して、この世からいなくなるとか、それが一番納得のいかない謎や。だから今回の山行では何かしら彼の手がかりを掴みたかったんやけどな・・・。」
途中、大喰沢の伏流水を汲める場所で、華恋のハイドレーションにだけ1.5リットルの水を汲む。

『下りだから2リットルも要らないだろう。』
そんな甘い見積もりだった。
僕自身はマグカップに2杯程度の水を飲んで出発。
ハイドレーションには汲まなかった。

脚の調子を考えたら汲むべきだったのに、楽しく会話をしていたら、肝心な事がスッカリ抜けていた。
更に、地震の影響による落石箇所が点在していて、倒木やら何やらで槍平小屋に到着したのは10時54分だった。


槍平小屋で何か食べようかと思っていたが、休憩しながらとはいえ、標準コースレコードに対して13分しかアドバンテージがない状態で、道も狭く、これから向かう岩だらけの急勾配を、他の登山客に邪魔されながら歩くのは無理と判断。
何人かの登山客が食事をしているのを見てお腹は空いてきたけど、ここはウサギが休憩しているうちに先を急ぐカメの戦法で行くしかない!
しかし槍平小屋を過ぎてから、僕の算段は狂う。

滝谷まで下りさえすれば、そこから白出沢出合までは林道だと思っていたのだ。
整備された林道ならば、少々脚が痛かろうが55〜65%程度のタイムで歩ける。
そう、右俣谷ルートを槍ヶ岳から全て歩くのは今回が初めてなのだ。
いつもは白出沢から奥穂高岳を目指して登っている。
その時は新穂高温泉〜白出沢出合までの道程を標準コースレコード2時間の所を65〜70分程度で登り、下山の時は1時間半かかる所を45〜50分程度で歩いて来たので、滝谷から新穂高温泉まで1時間半以内で帰れる計算だった。
だから滝谷までさえ下ったら勝ったも同然くらいに考えていたのである。
そして滝谷までの下り!

地震の影響による落石や崩落箇所があって、より一段とルートが荒れていた。
南岳新道から下山するルートに行かなかったのはある意味正解だった。
それにしても巨大な岩を飛び降り続ける急下降。

着地のたびに膝へ衝撃が蓄積していく。
大「華恋は膝のダメージ溜まってないか?俺はもうガタガタや〜!」
華「私もガタガタです〜。」
途中で大学生風の3人組に追いついたが、中途半端に遅いためリズムよく歩けなくて、よりダメージが増していく。
だが一気に抜き去るには道は狭く、そして抜き去った後は邪魔にならないペースで歩かないと失礼な訳で、結果的に相当スピードを上げなくてはならず、そうすると膝へのダメージは倍以上に強烈なものとなる。
だから抜きたくても抜けない・・・。
我慢のタイミング。
少し休憩をして、その間に彼らを先に進ませる。
やっと滝谷に着いた。
左手の岩壁には、甲子園アルプススタンドの生みの親にして、芦屋ロックガーデンの生みの親でもある、藤木九三氏のレリーフが掲げられている。

随分と寂しい場所ではあるが、これには意味がある。
華「これはなんですか?」
大「藤木九三さん。」
華「すごい人なんですか?」
大「この沢の向こうを見上げてみ?いくつかの滝を登った先にあるあの絶壁をさ。」

華「ものすごい岩の壁ですね。」
大「左から北穂高岳北峰、南峰、そしてあのゴツい岩の塊みたいなのが滝谷ドーム。その右奥壁バンドから亀岩、涸沢槍、涸沢岳へとつながる。本来なら今頃俺たちは、あの稜線のどこかに立っていたはず。」
華「そういえば雨雲の動きが早くなって、少しずつですが山の全景が見えてきましたね。」
大「つまり大キレットを飛騨泣きまで行った頃には、既に天気は回復に向かっていたって訳よ。なぜなら槍平小屋に着いた頃には、南岳の山頂付近は既に見え隠れしていたからな。悔しいやろ、こういうの?これが登山ってやつの、ムカつくところであり、面白いところや。」
華「悔しいですけど、そこの予測とか賭けみたいなものですもんね!」
大「あぁ、それでよ、その藤木九三さんってのは、飛ぶ鳥も通わぬと謳われた、この滝谷を最初に登ったロッククライミングの神様みたいな人なんよ。一応、命綱のザイルは持って行ったそうやけど、30mを一本だけで、ほとんど使わなかったそうや。狂気の沙汰やと思わん?」
華「でも店長もそういうの好きそうですよね?」
大「先代になん度か誘われたけど怖くて辞退した。」
華「えっ、そうだったんですか?」
大「俺もそういうチャレンジは大好きよ?でもここの落差1300mもあるのよ?高所恐怖症の俺が下を振り向かずに無心で登り続けるには標高差が高すぎると思わんか?」
華「考えただけで足が竦みます。」
大「そうやろ?しかもその前哨戦で、あの笠ヶ岳の西隣にある錫杖(しゃくじょう)岳へ登ろうって言われて行ったんよ!どうなったと思う?」
華「・・・ど、どうなったんですか?」
大「雷雨と落石のオンパレードよ!隠れる場所もないからホンマに命懸けやったし、ザイルも持たずに行ったもんやから、アイツのこと一瞬本気で恨んだもんな。」
華「アハハハ・・・そ、それは恐ろしい経験をしたんですね。」
大「お陰様でな。しかし、そう考えても俺はアイツがジャンダルムで滑落したなんて、未だに信じられないんよ。アイツはフリーで滝谷を登れと言ったら登れるくらいの技術と集中力とスタミナがあったから。」
そして落ち着いたところで再スタートを切る。

バキッ!
大「嘘やろ?マジか〜!」
華「どうされたんですか?」
大「岩に挟まってカーボンストックが折れてしまった。」
ガレ場の罠というべきか、お気に入りのストックを折ってしまうなんて。
『悪いことの起きる予兆じゃなければよいのだが。』
滝谷の緊急避難小屋を過ぎてからもガレ場が続いた。
これまでも所々は歩きやすい箇所もあったが、ガレ場はガレ場でも平べったい岩ではなく、ゴロゴロした石が転がっているガレ場なので、足をひねって痛いのなんの。
だからこそのストックのありがたみ。
それが1本折れたとなったら、途端に歩きにくくなってしまう。





13時06分。
白出沢に着いた頃には精も根も尽きていた。


大「華恋ちゃん、水は残ってる?」
華「半分は切りましたが、まだ何とか。店長、水は必要ですか?」
大「いや、華恋ちゃんの分だけでもあるならそれでいい。俺はここまで来たら新穂高ロープウェイの自販機まで我慢できるから。でも本音は腹減ったし、喉渇いた〜っ!」
華「店長、無理しないで下さいね!」
大「ありがとう!もう残り1時間足らずだと思ったら底力が湧いてきたよ。」

ところが間もなく穂高平小屋に差し掛かる辺りで、登山道に大量のドングリの殻と食べ散らかした残骸。

そしてまだ新しい足跡。
僕はしゃがみ込み、静かに観察する。
大「30分以内や。華恋ちゃん、俺の左側を歩き!」
華「えっ?30分以内?」
大「クマや、まだ近くにいる。しかも大きいぞ。体長は150センチ前後はあると見ていい。」
華「人を襲うんですか?」
大「それはわからん、これだけ栗やらドングリを食べ散らかしながら移動しているって事は、ある程度登山者の存在には慣れているって証拠だから、ちょっと脅したくらいでは逃げたりしないタイプだね。でも肉はそんなに食べた経験がないのかも知れない。だからバッタリ出くわしても、変に刺激しなければ襲っては来ないと思いたい。」
華「30分以内の痕跡なんですか?」
大「足跡は薄いけど、食べ散らかしたドングリや栗の残骸の噛み砕いた痕を見る限りでは、まだ唾液が乾いていないので、最長で30分・・・最悪を言うと10分以内の痕跡である可能性が高い。」
華「じゃあまだその辺の茂みにいるかも知れない訳ですね?」
大「ああ、喉を潤すために沢に向かって、ここから藪に侵入している。」
熊鈴は今更無意味。
大「フォオオオ〜オ!」
大声で一度だけ雄叫びを上げる。
山々に反響して一面にこだました。
臆病なクマなら、今の声から距離を感じ取って離れるに違いない。
だが、油断は禁物だ。
その後は極力足音を立てないように静かに歩く。
右ポケットにはメリケンサック。
左ポケットには催涙スプレーを装備した。
華恋には催涙スプレーのロックの解除方法と、使い方を教える。
「自分の顔からできるだけ離して、今風は山の上から吹き下ろして来ているから、クマが来たら山側へ回り込んで、顔を狙ってスプレーをしろ。最悪俺のことは気にするな。躊躇したら、死あるのみやからな?」
華恋は緊張した表情で頷く。
穂高平小屋で大きく右にヘアピンカーブ。
その先で更に左にヘアピンカーブ。
ここまで来たら下山したも同然。
しかし、またしてもクマの痕跡が。
更に新しい。
次の瞬間、ガサッと音がする。
2つ目のヘアピンカーブの辺りから我々の背後に向かって奴は現れた。
大「これじゃあ、アイツの風上には回り込めんな。華恋、アイツを睨みつけながら、ゆっくり後退りしながら下山を続けるんだ。躓いて転ばないように落ち着いて、絶対にアイツから目を逸らすなよ。」
華「はい!店長は?」
大「俺は時間を稼ぎつつ、可能なら撃退する。」
巨大なツキノワグマだった。
二本足で立ち上がれば、間違いなく僕より大きい。
一直線に接近してくる。
華恋は後ろ向きに歩いて、100mは進んだだろうか?
僕はメリケンサックを握り締めて覚悟を決めた。
大「オラァ〜!かかってこいや〜!」
クマは突進してきた。
僕はギリギリまで引き付ける。
タイミングを焦って踏み込んだら、クマの中にはフェイントをかまして左右どちらかに飛び退いて、クリーンヒットを決めれなくなる。
クマの間合いから考えて、確実にこちらの一撃を、避けられることなくぶち込める距離に、前脚が着地する瞬間、絶対に決める確信のできるタイミングを見つけた。
大「砕けろ〜!」
僕は右足で下顎を蹴り上げる。
クマの頭が跳ね上がる。
クマが怯んだところで、僕は左足で前に踏み込んでから、クマの鼻先目掛けて右ストレートをぶち込む。
クマの頭蓋骨を完全に打ち砕くくらいの気持ちで、目一杯腰をひねってスナップを利かせて打ち込んだ。
しかしクマは両前脚で顔を守る。
拳はクマの前脚に命中。
ガードされ、致命打にはならない。
それでも人間が怯むことなく、明確な攻撃の意思を見せて向かってきた事にクマは驚き、沢の方の茂みに逃げ込む。
このまま撃退できたならいいが、たまにしつこい個体がいるので油断はできない。
僕は藪の方を向いたまま華恋に追いつき、彼女を守るように歩く。
大「華恋、もう前を向いてええぞ!ただし、右側の茂みの動きと音には注意しろ!」
すると間もなく・・・
笹薮が激しく揺れる。
大「来るぞ!」
2度目の突進!
今度はフェイントも警戒して、飛び出す瞬間に狙いを定める。
そして、クマが飛び出したと同時に踏み込む。
渾身の右ストレート!
しかし熊は向かって右手へ飛び退いた!
こっちの一撃を警戒している。
僕はパンチを振り切る前に飛び退かれたので、とっさに寸止めからの反動を利用して、左足を軸に90度、向きを右に切り替える。
だが同時にクマは反撃のモーションに入っていた。
僕は本能的に左腕一本くれてやる覚悟で、目一杯引きつけて、ガードの体勢に入ろうとした。
その瞬間、山側から黒い影。
「おらぁっ!」

如月氏の後ろ回し蹴りが熊の鼻先へ炸裂。
熊が大きく怯んだ次の瞬間。
僕も間髪入れずに追撃の蹴りを下顎へぶち込む。
熊は悲鳴を上げ、そのまま森へ消えていった。
静寂。
しばらく周囲の気配と音に全神経を集中させる。
やがて如月氏が山へ向かって大きく雄叫びを上げた。
それは勝利を誇るためではない。
クマに対して、二度と人の前に出てくるんじゃねぇ!という警告の意思と、自然への畏怖と敬意が混ざった渾身の雄叫びだった。
如「旦那、危なかったっすね。」
大「ああ、もう無傷では帰れないと覚悟していたよ。本当に助かった。」
如「丁度さ、穂高平小屋からショートカットルートを歩いていて、そこから出てきた瞬間の出来事だったから、僕も驚きましたよ。」


大「しかし、よくもまあ、クマ相手に後ろ回しなんて決めようと思ったもんやな?」
如「クマが反撃に入るタイミングに、絶妙な勝ち筋が見えてしまったんです!今なら決めれる!ってね。」
大「ええ蹴りやったわ。」
華「私、本当に怖かったです。何もできなくて申し訳ありません。」
大「謝らんでいいよ!むしろ怖い思いさせてごめんな。」
その後は3人で周囲に注意しつつも、慎重に歩き続ける。
やがて新穂高ロープウェイ駅が見えた。
舗装路へ足を踏み入れた瞬間、ようやく全員の肩から力が抜ける。
大地は登山道へ向き直る。

帽子を脱ぎ、
深く一礼。
大「無事に下山させて頂き、誠にありがとうございました!これに懲りずに、また登りに来ますので、その時はまたよろしくお願い致します!」
他の2人も深々と一礼し「ありがとうございました〜!」
毎回この謙虚さがあるからこそ、山の神様は我々を守ってくれるのだ。

自販機で買った冷えたコーラ。
三人で乾杯する。
命があったからこそ味わえる、人生最高の1杯だった。
如「旦那、改めまして、如月大介といいます。」
大「じゃあ、あだ名は大ちゃんか?俺は東堂大地。同じくあだ名は大ちゃんだ。よろしく!」
如「あぁ、僕のことは如月と呼んでくれてもいいですし、介(すけ)さんでも構いません!」
大「すけさんって、そうなったら角さんもいるやないか。」
華「えっ?水戸黄門ですか?」
大「時代劇まで観せてもらってるんか?」
如「あれ?お二人って父娘(おやこ)ですよね?」
大「う〜ん、いちいち言うことではないけど、親子ではなく、職場の上司と部下の関係だ。」
如「えっ?禁断の?」
大「おい!そんなんちゃうわ!あと、俺を旦那って呼ぶのはやめろ!」
如「じゃあ東堂さん!今後もまたお会いした時にはよろしくお願いします!実は僕も神戸なんで、またお会いする機会もあるかも知れませんね。」
そして如月氏もとい、介さんは、ロープウェイで鍋平の駐車場に向かった。
我々はバスで平湯温泉に向かい、岡田旅館で温泉に浸かり、堂々と宿泊料も支払ったところで帰路につく。
ちなみに、ようやくご飯にありつけたのは、高速道路に乗ってからの事であった。
華恋には途中で僕のカロリーメイトを食べさせたが、自分は結局、下山するまで何も口にしなかった。
高速道路のサービスエリアで、ようやく食事を口にした瞬間、生きてて良かったと、改めて思えたのだった。
(第十四章 了)
(第十五章へ続く)
(第一章から読み直す)
