【第十五章】 ENISHIは時を駆け巡る① 連載小説 『華恋、海へ還る 〜穂高を愛したマーメイドストーリー〜』
ア「店長、おはようございま〜す。先日は残念でしたね。あの後調べたんですけど、南岳小屋って槍ヶ岳山荘グループなので、まだ小屋じまいしてなかったみたいですよ〜。」
大「はぁ?マジか?」
ア「多分、誰かの噂話を確認もせずにベラベラ喋ってた奴のガセネタってやつですね。いや〜残念でしたね〜。」
沙「オイ〜!あんた、ホンマにウザい言い方するよな?」
大「いやな、華恋ちゃんは南岳小屋まで行って確認してからでも良くないですか?って言ってくれたんよ?全て俺の判断やから、今更どうしようも無いというか。でもやっぱムカつくよな?アキラ・・・てめぇ〜!」
ア「ギャ〜!ごめんなさい!ごめんなさい!」
大「そもそも、あの時縦走を決行していたら、クマと遭遇する事も無かった訳でやな。」
華「先代社長の手掛かりを探しに行けなかったのは残念でしたが、私は今回槍ヶ岳に行けてとても良かったです。」
大「訳あって残り15mって所で山頂にも登れず、霧と雨で星空も観れずと散々やったけどな。」
結局、華恋が登山者Aに襲われかけていた事は、本人にもちゃんと話していない。
ここでみんなに土産話として話したところで、不幸話のはずなのに、絶対アキラくんだけは目を輝かせながら「それで?それで?どうなったんですか〜?」って食い付いてきて、女性陣全員がシラケるという、お決まりの絵面が予測できてしまうので、いずれにしてもその話は僕の胸にしまっておいた方が良い。
華「ところで店長!お墓参りはいつ行きますか?」
大「次の月曜日にでもしようか?」
沙「次の月曜日なら私も行けますよ、美里も誘いましょうか?あとなっちゃんはどうしましょう?」
華「あっ!それでは私が美里さんと一緒に、なっちゃんさんのご自宅に伺ってみます!」
沙「じゃあ私から美里に、その件も伝えてみるね。」
ア「あ、あの〜、僕も一緒にお墓参り行ったらダメですか?」
沙「ダメですかじゃなくて、僕も行きます!って何で言えんのアンタ!」
ア「はい!当然、僕も行きます。でも午前中は抜けれない講義があるので、午後からでもいいですか?」
留「そっか、じゃあ高校生の美里となっちゃんも無理なんじゃない?」
沙「確かに。でもまあ、一応みんなで行くことになった事と、華恋ちゃんとなっちゃん家に行く話はしてみます。」
ア「あ、あの〜、お昼からでも・・・。」
沙「うっさいな、アンタは!店長、午後からでも大丈夫ですか?」
大「俺は良いよ!華恋を先代のばあちゃんに会わせる予定があるので、午後にどこかで合流しよか?」
沙「じゃあ私は実家から車を借りて、一度HAT神戸へオイを迎えに行って、美里やなっちゃんも行けるようなら4人で、友が丘のマクドナルドに14時半くらいにしましょうか?」
大「そうやな、霊園までは布施畑経由で行くから、そこのマクドナルドで合流の方が動きやすいな!さすがやね。」
ア「よくそんな道のことが判りますね。僕はどこの事を言っているのかサッパリ解りましぇん!」
留「アキラくんは、本当に神戸生まれ神戸育ちとは思えないくらい、神戸の地名とか道に疎いよね?」
沙「アンタ、どんだけ箱入り息子なんよ!私、高校と大学の時に、名谷や妙法寺界隈が通学路でよく利用していた寄り道コースやから、その辺は庭みたいな感じ。」
大「それは頼もしい。じゃあその段取りで、また美里と連絡取れたら華恋ちゃんに教えてあげて!」
そんな約束で月曜日を迎える事になった。
結局、美里は半休が取れないので、また別日で一緒に行く約束をした。
なっちゃんの件も改めて華恋と予定を調整するそうだ。
10月12日(月)午前
留美さんと華恋の2人と合流して、兵庫区の先代の実家に向かった。
先代は2歳の頃に母親が失踪し、31歳の頃、父親はインドで亡くなっている。他殺なのは間違いないと言っていたが、状況証拠以上に決定力のある証拠がないとの事だ。
自分の息子がそんな亡くなり方をした上に、最愛の孫が行方不明で遺体も見つからず。
最初はおばあちゃんが、自殺でもするんじゃないかと心配していたけど、同じく孫の留美さんもいるし、もうすぐ94歳になるおじいさん(義祖父)も心臓にペースメーカーを入れていて、その世話もしないとならないって話で、満91歳になっても買い物だの介護だの、まだまだ元気で頑張っている。
でも先代が行方不明になってから、軽い痴呆も入ってきたらしく、調子の悪い時はまともに会話が成立しない時もある。
留美さんが玄関を開けて声をかけるなり、嬉しそうに立ち上がって出迎えてくれた。
ば「留美!たまには顔見せてくれんと、寂しいやないの。」
留「ゴメンね、おばあちゃん!最近忙しくて。」
ば「で、その綺麗な子は誰やの?」
留「この子が新しく家族になった華恋ちゃんだよ。」
華「はじめまして、お祖母様。星海華恋と申します。」
ば「はい、よろしくね華恋ちゃん。あっそうそう、こないだ、大が来てったよ?」
留「えっ?」
大「はぁ?大ちゃんが来たってこと?それ、いつ?」
ば「いつやったかな?でも割と最近やったよ。」
留「おばあちゃん、今日の体調はどう?」
ば「えっ?今日?今日はばあちゃん・・・絶好調よ。何でやの?」
僕と留美さんは顔を見合わせて、どう反応すべきかアイコンタクトで話題を逸らせることにした。
留「ううん、絶好調なら良かった。おばあちゃんもお墓参りに一緒に行く?」
ば「あんた、彼岸の中日には行ってなかったんかいな?」
留「休みの日にも色々と銀行回りだったり、東堂さんと若狹に行ったり。なかなか時間が作れなくて。」
ば「そう、それなら、ばあちゃんも行っていいんだったら一緒について行きたい!」
大「じゃあ一緒に行きましょうよ!その前にばあちゃん!ちょっと大ちゃんの昔のアルバムを見せてくれんかな?」
ば「アルバムかい?押し入れの下の段ボール箱に、ようさん入っとるよ。」
大「ありがとうございます!」


写真は赤ん坊の頃から中学生くらいまでのが中心で、あとは自転車レースを始めてからの、チームメイトとの写真がほとんど。











大「やはり黒歴史時代の写真は残してないな、流石に。」
華「黒歴史時代?」
大「先代な、小5か小6の頃に水木通に住んでたヤクザの息子を怒らせてな、中学時代はここらの不良グループから狙われて賞金首にされとったんや。ほとんど毎日、ここのマンションの下で8人〜30人くらいのグループに待ち伏せされて。」
留「それって本当の話だったの?」
大「留美さんは知らんやろうけど、毎日大変やったらしいで?刃物で刺されたことも2度あったり。」
華「そんなに危険な街なんですかこの辺って。」
大「昔はな。刺された話とは別に、夏場に玄関を開けて昼寝をしとったら、この家に包丁を握って金をせびりにオッサンが侵入してきた事も2度あったらしい。それでも当時の兵庫区って、今より人情があってええ街やったけどな。ただ大ちゃんは自分の身を守る為に暴走族をしていた時期もある。辞める時に揉めたって言ってた。」
華「カメレオンとか、ろくでなしBLUESのような世界ですか?」
大「えっ、そこ?東京リベンジャーズとかでなく、まさかのそこ?」
留「ろくでなしBLUESは私が全巻持っていて、カメレオンは大ちゃんが、本屋で立ち読みしてて思わず噴き出して大爆笑して、店員や他のお客様から睨まれた経験を何度か味わった漫画だって教えたら早速、近くの快活クラブへ探しに行きましょう!って。」
華「ちなみに先代社長さんは有名人だったんですか?」
大「いや、中学時代は問題を起こしたら、強制的に転校と教育委員会から脅されつつ、何とか電車通いを許されていた背景があるから、刃物で刺されたことも、毎日のように待ち伏せや闇討ちに遭った事も、学校の先生はおろか、警察にも届けてなかったはずよ。」
華「じゃあ誰も知らないところで、一人で抱え込んでいたんですか?」
大「多分、友達の中でもこの話を知ってるのは数人程度やで。俺は小中高と親の転勤で神戸市内を転々としていたから、正直に話しても自分の生活に支障が無いと感じて教えてくれたんやと思う。それでも必ず誰にも言うなよ!って口止めされていたけどな。だから暴走族に入ったんも、有名になりたいとか名前を売りたくてなったんじゃなくて、余計なトラブルから身を守る為やったと聞いているよ。総長とは銭湯仲間やったらしいから、色々助けてもらったと聞いてるしな。」
華「裸の付き合いってやつですね!」
大「幼馴染みの河合くんとか、たまにお店に来るやろ?彼も3歳からの付き合いでもあるし、銭湯仲間やから、絆が深いのはやっぱりそういう理由からやろうね。」
華「下町情緒・・・素敵ですね。」
大「どう?こんなアルバムで、人物像とかイメージできるもんなん?」
華「幼稚園の頃の写真とか、小学生なりたての頃の写真が表情豊かで面白いです。」
留「面白い?」
華「そう、幼稚園児ってもっとあどけない感じの子が多いじゃないですか?小学生でもそう感じる子が多いんですけど、この写真を見たら、既に自我が出来上がってますよね?」
大「そりゃな、親から散々、お前は俺の子じゃない!って言い続けられて来た奴やから、誰よりも優秀な子供にならないと捨てられる。って危機感を常に持っていたよな。」
華「でも確かにプライドも高そうです。」
大「そうそう、子供の頃はエリート意識の塊みたいな奴だった。全てにおいてNo.1じゃないと気が済まないって性格だった。だから海で溺れて泳げなくなったのが唯一の弱点みたいになって。プールの授業になると、いつもの覇気が消えている!みたいな。」
華「エリート意識?」
大「まあそれは俺とか周りの連中から見たらそう思えただけで、実際には偉そうに振る舞っていた訳じゃなく、単純に彼は自分の居場所を確立する為に必死だった。それに対して周りが能天気過ぎて必死さが足りないと感じていた。だから先日、華恋が俺に話してきた内容と完全に一致すると思わない?」
華「私もエリート意識が強そうですか?」
大「いや、華恋ちゃんは周りへの気遣いを持ちつつ、周りの意識に対して違和感を感じてるって話だったでしょ?」
華「そうです。私は誰もが譲り合ったり助け合ったりする事が、信頼関係を強くするものだと感じました。だから誰かがやってくれるとか、指示されないと仕事ができないなんて言うのは、人として間違っていると感じました。」
大「そういう事やんな?華恋ちゃんは当然の義務とか使命として頑張ろうとしてくれている。先代も同じ考えだよ。でもアイツは気が短いから、その考え方ができない奴に対して当たりが強くなる。だから傲慢だと敵視される。本当は思いやりのある考え方なのに、何か損してるよな?」
華「店長もその苛立ちが出てると思います。」(笑)
大「アイツに任されたんじゃなかったら、経営なんてやってられないよ。」
留「そこは責任持って頑張ってよね!」
大「お、おう。心得ております。」

華「あの〜。実は私、この水着の子に見覚えがあります。」

大「えっ?その写真?場所に見覚えは?」
華「恐らくですけど、白浜ではないでしょうか?」
大「そうや。それは白良浜やねん。アイツが浮き輪のまま波に流されて、離岸流に乗ってしまったらしいんや。岸に戻れないって自覚して、必死にもがいたけど、もがいてももがいても岸に戻れなくて、泳ごうと決意して浮き輪を外したけど、いきなり泳げる訳もなく溺れた。」
留「その話は私も詳しくは聞いた事がないの。」
大「遠くにばあちゃんがいたのは確認できたけど、こっちに気付いたのは、溺れて意識を失う寸前だったって。」
留「でもおばあちゃんに助けてもらったんだよね?」
大「そこが不思議だったらしいんよ。介抱してくれたのはばあちゃんだったらしいねんけど、感覚が違っていたらしい。6歳か7歳の頃に有馬の兵衛向陽閣のプールで、足が届かなくて、油断して水を飲んで再び溺れたらしいねん。その時は、ばあちゃんが飛び込んで助けに来てくれるのが見えて、間違いなくばあちゃんに助けられた!って感触はあったらしい。」
華「あの〜、それ私なんです。」
大「・・・出たで、年齢不詳発言!」(笑)
華「それって40年以上前の話ですよね?」
大「そうや、まだ3歳か4歳の頃やったと聞いてる。これがキッカケで小学6年生まで金づちやったんやで。」
華「本当に離岸流に乗ってしまっていたので、思わず助けに行ったのですが、恐らくお祖母様には私の姿を見られたと思います。」
大「そりゃ誰にも目撃されずに助けるなんて難しいよな?でも、俺も先代もばあちゃんからそんな話は聞いていないから、見たとしても黙っている可能性はあるかもな。」
ば「その時は危なかったんよ。でもどうやって大は助かったんやったかな?私の前に誰かが助けてくれたんは確かやけど、ばあちゃん、もう忘れたわ。アホやから。」
大「それだけ思い出せただけでもすごいよ。華恋ちゃんもよく思い出したな?」
華「水着に見覚えがあって。しかも髪の毛の色が明るくて光沢のある男の子だったから。」
おばあちゃんは不思議そうに話を聞いていた。
大「でも、すごいな。何か縁(えにし)というものを感じずにはいられない話になってきたな。」
華「はい、何となくお話を聞いているだけで、不思議と親近感は感じていたのですが、私も正直、驚いています。」
留「そろそろ出発しないと、沙耶さんは時間をピッタリ守る人だから!」
大「おう、そうやな!じゃあ、そろそろ行こか!」
華恋は最後にもう一度、白良浜の写真へ目を落とした。
あの日、幼い少年を助けた事など、長い年月の中で忘れかけていた。
しかし、その小さな出来事は、四十年以上の刻を越え、縁として再び自分たちを結び付けた。
その時の僕たちは、まだ知らなかった。
この墓参りが、さらに大きなENISHIへと繋がっていることを。
(第十五章 了)
(第十六章へ続く)
(第一章から読み直す)
