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【第十六章】 ENISHIは時を駆け巡る②   連載小説 『華恋、海へ還る 〜穂高を愛したマーメイドストーリー〜』

兵庫区にある先代の実家を後にした僕たちは、西神墓園へ向かう前に少しだけ寄り道をすることにした。

大「まだ13時やからな、須磨駅前で軽く何か食べてから行こか。もしも沙耶さんたちが何も食べてなかったら、どこかでまた軽食を食べに入ればいいし。」

留「そうだよね。須磨駅から友が丘のマクドナルドまでって何分くらいで行けるの?」

大「信号によく捕まる道だけど、須磨寺の離宮坂で混雑さえしてなかったら、10分から余裕を見て20分くらいかな?」

留「そんなに早く行けちゃうの?」

大「自転車でも約20分の距離やで?坂はキツイけど。」

華「今から須磨に行くんですか?」

大「華恋ちゃん、須磨には馴染みでもあるんか?せっかくやし、海でも眺めながらホットドッグでも食べようよ。」

13時25分。

車はJR須磨駅前へ到着した。

駅前に車を停め、デンマークホットドッグの店『コペンハーゲン』へ入る。

大「ここのホットドッグ、美味しいねん。」

留「私、何だかんだでこのお店、初めてかも。」

ハ「ヘ〜イ!イラッシャ〜イ!」

華「わっ!ビックリした!」

大「ハンセンさん、こんにちは!イナバドッグを4つお願いします!」

ハ「OK!ショーショーオマチクダサイネ。」

ば「あら〜。日本語、上手!」

華「イナバ・・・ドッグ?」

大「そう、ハンセンさんは以前、岡山県の津山って所でデンマーク料理のレストランをしていてね、B'zの稲葉さんの実家からも近かった関係で、今でも交流が続いているって話なんだよ。」

華「名探偵コナンの曲でしたよね?価格にチョップ!」

大「違〜う!ギリギリチョップや〜!」

留「価格にチョップはコブラ会ネタ!」

大「ダニエルさんのCMとごちゃまぜにすな!」

華「あっ!なんで混ざっちゃったんだろ?」

留「華恋ちゃん、コブラ会4周目に入りました!最新の第3シーズンはかなりカオスになって。」

大「見事にハマったな。」

華「私ジョニーとミゲルの師弟関係が大好きです。あと闇堕ちするトリーが可哀想で、彼女を応援したいです。」

留「最初はサムの応援していたんだけど、2周目辺りからサムには自分を正しいと思い込んでいる傲慢さがある事に気付いてしまって。」

大「ウン、ウン、解るよ!誰かの感想とよく似てる。」

ハ「ハ〜イ!ミナサン、オマタセシマシタヨ〜。」

大「あの〜、ハンセンさん!恐縮なんですけど、一緒に撮影してもらってもいいですか?」

ハ「OK!モチロン、イイデスヨ!」

ハンセンさんと華恋

華恋にとってハンセンさんは神戸で会話をした二人目の外国人。

初めての外国人はフランス人のクリスチアーノさん。

自転車好房ラルプデュエズのお客様の一人で、彼女と華恋は地中海の話で盛り上がっていた。

大「そういえば華恋ちゃん、以前地中海に住んでいたんだよね?」

華「はい!記憶がまだハッキリと戻った訳ではありませんが、ティラ島という島の周辺を拠点として長らく生活していました。」

留「ティラ島?それってどこ?」

大「ギリシャ。エーゲ海はサントリーニ島の本島だよ。」

留「それ大地さんと大ちゃんが、ずっと行きたい!行きたい!って言ってる場所じゃない!」

大「ああ。みんなで会社を成功させたら、長野県の安曇野と、スイスのミューレン村、そしてサントリーニ島に別荘兼セミナーハウスを作って、社員たちが家族サービスの為に、自由に使えるようにすんるだ!って夢見てたなぁ。」

華「素敵ですねぇ〜。サントリーニ島の夕日は絶景なんてレベルではないですよ!」

世界一の夕日スポット、サントリーニ島の夕焼け

大「そうだな。感動で涙が止まらなくなるくらいの美しい夕日だよ。」

須磨駅前でホットドッグを頬張る華恋

4人でホットドッグを頬張りながらJR須磨駅の駅舎に登り、ビーチの方へ降りる。

華「あれ?須磨海岸ってこんな景色だったでしょうか?」

留「どういう意味?」

華「向こうに、赤い鉄骨の大きな建物がなかったでしょうか?」

大「あぁ、一ノ谷町のベルトコンベアーの事か?それって何年くらい前の話よ?」

昭和55年(40年前)の須磨海岸とベルトコンベアー

華「確か前に来たのは、30年ほど前だったと思います。」

大「確かにその頃ならまだ普通に残っていたな。阪神・淡路大震災になるよりも前だから、本当に神戸が世界の最先端を走る、夢の都市やった頃や。」

留「そのベルトコンベアーって何に使われていたの?」

大「ポートアイランドや六甲アイランドといった人工島を作る為の、土砂を運搬していた施設だよ。昭和56年にはポートピア博が開催されて、世界初、世界最大の人工島に独特な形状のポートピアホテルがランドマークとなって、無人の鉄道が走る未来の島って感じでね。鉄腕アトムやドラえもんの世界が、すぐそこまで近付いた気がしたよ。」

華「鉄腕アトムはロボットランドの話とプルートの話が悲しかったです。」

大「何、華恋ちゃん、アトムも観たの?」

留「大ちゃんの本の中に、カラーになったばかりのアトムのアニメを冊子にしたような本があって。」

大「昔はそういうの多かったからな。うる星やつらとかもなかった?」

華「それも観ましたよ!諸星あたるさんって面白くて好きです。」

大「華恋ちゃん、睡眠、ちゃんと取ってるか?」(笑)

留「おばあちゃん、須磨に来るの久しぶりじゃない?」

ば「うん。久しぶり!昔は、よく大を連れてここを歩いたものよ。須磨水族館から、ずぅ〜っと歩いて、あの鉢伏山まで登ってた。」

大「六甲〜有馬のロープウェイでアスレチックに行くか、須磨海岸を端から端まで歩くのが休日のルーティンだったよね?」

ば「そうやったかな?確かに六甲山にもよく行ったかも知れないね〜。」

大「俺も何度か一緒に連れてきてもらったよ。ばあちゃん覚えてる?」

ば「うん、うん、覚えてるよ〜。」

華「私もとても懐かしいです。昔は仲間たちと、紀伊水道からタコを追って、この辺りまで来ることが多かったんです。神戸や明石は食べ物も豊富でしたから。」

大「なるほど。人魚も食べる物を探して移動するんやな。」

華「はい!でも、その30年ほど前に、この須磨でイタチザメに襲われました。」

大「須磨で?」

華「はい。そのサメがしつこくて、とうとう東シナ海まで追ってこられたんです。それ以来、この海が怖くなってしまって。」

華恋は遠くの水平線を見つめながら、小さく微笑んだ。

大「それ30年くらい前って言ったよな?」

華「はい。」

大「確かな、大ちゃんも中2か中3の時に、須磨で防護ネットが破られているのを見つけて、その際に何かに襲われてなのか、溺れそうになっている女の人がいたから、助ける為に泳いでそっちに行ったらしいねん。そしたらいつの間にか水面からいなくなっていて、慌てて潜って水中の様子を探ったんよ。」

留「それって、もう何となく展開が判るから嫌。」

大「須磨の海ってそんなに透明度高くないから5m〜10mより向こうは魚影も見えないんよ。潜って周りの水中を見渡して沈んだ人がいないかを確認していたら、突如正面からサメが突進してきた。」

華「キャ〜!」

大「で、サメになんて噛まれたくないやん?咄嗟に両手でサメの鼻頭を掴んで、両足は噛まれないように膝を曲げ、姿勢が崩れないように腹筋で堪えたって。」

留「それでどうなったの?クマにバッタリ出会った話は聞いた事があるけど、サメの話は初耳!」

大「その時もクマ同様に鼻頭を殴りつけたら、ビックリしたように尋常じゃないスピードで逃げていったって。」

留「そういうものなの?」

大「サメも鼻先にセンサーとなる神経が集約してるらしいから殴られたら相当痛いらしいよ。」

留「そんなの中学生で知ってたりする?」

大「みんなジョーズを観て育った世代やから、万が一を考えた時に対策法は知っておきたいと考えるやろ?大ちゃんのじいちゃんは海軍の生き残りでな。東シナ海で艦が沈められて、そこからフィリピンの無人島まで何十kmも生き残った仲間と一緒に泳ぎながら、サメの群れと闘ったサバイバル経験があるらしいよ。」

留「その頃ってホホジロザメは群れで来るほど多かったの?」

大「ちゃうちゃう!群れで人を襲いに来る可能性があるのはシュモクザメやイタチザメや。」

留「イタチザメってどんなサメ?イメージが湧かない。」

大「別名タイガーシャーク。背中に虎のような模様があるから付いた名前で、好奇心が強く何にでも食らいつく獰猛なサメなんだよ。カリフォルニア州で水揚げされた巨大なイタチザメの腹から車のバンパーが出てきたこともあったとか。大ちゃんのじいちゃんを襲ったのもタイガーシャークやって言ってたわ。」

留「こ、怖〜っ!」

大「ちなみにここの海で大ちゃんを襲った奴もタイガーシャーク!つまりイタチザメだったって。大きさも2〜3mくらいって言ってたかな。」

留「大地さんは一緒じゃなかったの?」

大「その時アイツはかなり泳げるようになっていたから、将来海洋生物学者になった時に備えて、海へのトラウマを克服しに行くんや!って一人で行った記憶やな。なんか気が向いたら和田岬まで泳いで帰るとか言っていたから。潮の流れに逆らってどうすんねん!って突っ込んだ覚えもあるわ。」

華「ううぅ・・・あ、あの〜。」

ば「華恋ちゃん、大丈夫?どうしたの?」

なぜか華恋が号泣している。

留「華恋ちゃん、急にどうしたの?」

華「あの〜、その時・・・うぐっ、助けてもらったのって私なんです。ううぅ・・・うわぁぁぁ〜ん!」

ば「よしよし・・・怖い思い出でも思い出したんかい?」

大「大ちゃんの話と照合したら、時期的にも理屈は合うよな。」

華「先代さんが私の恩人だったなんて・・・こないだジャンダルムに行けなかったの悔しいです。ううぅ・・・。」

大「大ちゃんは結局、助けようと思った女の人が見つからなくて、サメがいたことを知らせに浜に戻り、溺れた人がいなくなった事もライフセーバーに伝えたけど、その後もそれらしい人が見つからなかったと言っていたよ。だからそれが華恋ちゃんだったなら合点はいくよね。」

留「しかしすごいね。助けた命に今度は助けられるなんて。良い意味で因縁が深いというか。不思議なご縁だよね〜。」

華「はい、今ものすごく運命的なご縁を感じています。」

ば「そう、アンタまだ若いのに、大の知り合いやったんかいな。」

大「でも、その後が大変やったんやな?」

華「はい、瀬戸内海は潮の流れが複雑で迷路みたいなところがあるので、時々潮の流れに逆らったりしながら必死に逃げ続けました。豊後水道まで逃げれば安心だと思ったのですが。」

大「そこまで追い掛けてきたん?」

華「はい。しつこいサメでした。」

留「怖すぎ!」

華「それから東シナ海へ出て、フィリピンやインドネシアは島も多く、海底も複雑な地形なのでそこでサメを撒こうとしたのですが、しばらくしたら見つけられて。インド洋へ抜ける為に、マラッカ海峡に入ったところでようやく逃げ切りました。」

無数のタンカーや商船、海賊が行き交うマラッカ海峡

大「良かったやん!何でそんなにしつこいイタチザメが急に諦めたの?」

華「実はすごいタイミングで、ワニさんがこっちに向かってくるのが見えたので、それを利用させて頂きました。ワニさんは全長8mくらいの大きな個体でしたので、さすがのイタチザメさんも勝ち目はなかったかと。」

留「ワニって海にいるものなの?」

大「イリエワニはインドネシア〜オーストラリア、ニュージーランドまで、あの海域の海を単独で堂々と泳いでいたりするんよ。ゴールドコーストのサーファーが地味にサメよりも怖いと言ってるのがイリエワニ。ビーチでのんびり日光浴なんてしていたら、噛みつかれて海に引きずり込まれるなんて事件もある。」

留「世界の海、怖〜っ!」

大「しかしまあ、話のスケールが一気に世界地図クラスになったな。」

留「ホントそれ!」(笑)

大「インド洋もワニやらサメはいなかったか?モルディブまで行ったら複雑な地形で隠れ場所もあるだろうけど。」

華「よくご存知で!私たち人魚は複雑な岩礁帯を隠れながら移動します。深い海は逃げ場がないので、できるだけ浅瀬を泳ぎ、やむを得ず深海を通る時は、慎重に複雑な地形を選んで、海底洞窟等を頼りに進みます。」

大「まさかとは思うけど、ケープタウン経由じゃないよな?」

華「はい!アフリカ大陸を回るのはリスクが高いので紅海に入ります。紅海にも大型のサメは入ってきますが、隠れやすい場所も多いし、マナティさんとかが一緒に泳いでくれるので、迂闊に襲って来るようなサメはいませんでした。」

留「アフリカ大陸のリスクって?」

大「南アフリカ沖のホホジロザメは全体的に凶暴なんだよ。海域によってサメも性格が違うって研究者が発表していたよ。それに南アフリカ沖の海流はかなり激しくて、海底に引き込まれるような海洋大循環と呼ばれる立体的な潮の流れがあるんだ。」

留「恐ろしい〜。」

大「しかし紅海って、スエズ運河はどうやって抜けたんだ?」

華「夜中に大型船の底にしがみついて抜けます。」

留「なるほど、そこは現実的なんだ。」

華「でも東地中海は海が深く、大型回遊魚が多いのでサメも多く、キプロス島経由は隠れる場所も少ない分リスクが高いんです。なのでエジプトからリビアに沿って浅瀬の岩礁帯を進みます。」

大「地中海にもホホジロザメやアオザメはいるらしいし、そう思うと怖いよな。」

華「シチリア島周辺は怖いですね。チュニジア沖は漁も盛んで魚影が濃いので網に掛かるリスクもあるし、ホホジロザメだけではなくオオメジロザメなんかもいます。かといって、メッシーナ海峡は絶対に通りたくない。」

大「狭い海峡を抜けた瞬間、待ってました!って現れるパターンか?」

華「はい、ですからエーゲ海に逃げ込んで、その後はティラ島を拠点に、徐々にエリアを拡大しながら地中海で暮らしていたといったところです。」

大「ティラ島は海底活火山だから、サメも近寄りにくいということかな?」

この島に囲まれた海の底は火口でもある

華「そうです!さすがですね。私たちにとっては、とても安全な場所でした。」

大「なるほど。人魚にも避難場所がある訳や。」

華「エーゲ海の海底は迷路みたいで逃げ隠れがしやすかったんです。美味しい魚も多かったし。」

大「それで30年ぶりに日本に帰ってきたら、何の因果か俺と出会ったっていう訳やな。」

華「感慨深いです。」

大「もう、泣くなって!俺が泣かしてるみたいやろ!」

14時を回ったところで、須磨駅前を出発。

須磨寺の交差点を抜ける時。

ば「ここもよく、須磨寺の帰りに大と2人で水を汲みに来たなぁ、18リットルのポリタンクに汲んだ水を、俺が一人で持って帰るんや!って意地になって頑張っていたわ。」


かつて、おばあちゃんと大作少年が水を汲みに通った須磨霊泉

留「それ何歳の話なの?」

ば「5歳頃からやったんちゃうかな?」

大「ちなみにアイツ、7歳の時の体重が18kgやからな、参考までに。」

留「須磨寺の駅まで一人で?」

ば「それと大開駅からばあちゃんの家までもよ。代わってあげようか?って聞いても、こんなに重たいものをばあちゃんに持たせられん!最後まで俺が運ぶ!って意地でも離さなかったよ。」

華「素敵な思い出ですね。」

留「華恋ちゃんがまた泣き始めたよ〜。」

そして14時20分、マクドナルド到着。

大「おう、待たせたな!」

沙「いえ、全然!まだ10分前じゃないですか!」

ア「沙耶さんと少し早く着きそうやから、軽く何か食べよか?って話で、ダブルチーズバーガーセットを食べてました。」

留「私たちも軽くホットドッグを食べてきたからちょうど良かった。」

沙「そうなんですね!えっ、ホットドッグってコペンハーゲンですか?」

大「さすが!正解!」

沙「いいじゃないですか!うちも食べたかったな。」

ア「そこのお店って美味しいんですか?」

沙「じゃあうちらも食べ終わったので、お墓参りに行きましょか!」

大「おっ!もう動けるんか?」

ア「あ、あの〜。」

大「論より証拠や。人に聞く前に食べに行け!若いねんから、機動力でカバーしろ。」

ア「ひゃい・・・。」

かくして合流した一行は、2台の車で神戸市西区の西神墓園を目指す。

朝から次々と明るみになる、先代と華恋の奇妙なつながりに不思議ながらも、どこか嬉しくてたまらない僕だった。

(第十六章 了)


(第十七章へ続く)

(第一章から読み直す)


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