渇きの果てに…禁断のコンダクター 第15話
まゆはネットで「大阪 鹿児島 日帰り」「最短ルート」「デイユース ホテル」・・・必死に検索していた。
飛行機の時刻、乗り継ぎ、滞在可能時間。
何度も計算し直し、ようやく一日の流れが形になった。
胸が震えた。
まゆは、スマホの画面を何度も見返していた。
《8:30 関空発 → 9:45 鹿児島着》
《ホテル京セラ デイユース利用》
《18:50 鹿児島発 → 20:10 伊丹着》
ホテルには、7時間いられる。
数字を確認するたび、胸の内側が落ち着かなくなる。
大阪から鹿児島へ。
‥‥‥しかも、日帰り。
こんな大胆なことを、自分がするなんて‥‥‥
以前のまゆなら想像もできなかった。
でも、今回は違った。
ただ会いたいだけじゃない。
自分の意思で会いに行きたい。
アダムスに導かれるのはなく、自分で流れを変えたい。
まゆはスケジュールをまとめ、アダムスへLINEを送った。
『この便なら、日帰りできます』
しばらくして、返信が届く。
『本当に来るんですね』
その一文に、まゆはクスっと笑った。
『……はい』
送信したあと、指先がじんわり熱くなる。
1週間後の木曜日に、二人ともなんとか休みを合わせることができた。
それからの日々、まゆは不思議なくらい穏やかだった。
健一にも、以前より優しく接してしまう。
「今日、帰り遅いの?」
「ワイシャツ、アイロンかけておくね」
そんな言葉が自然に出てくる。
罪悪感があるからなのかもしれない。
裏切っている自覚があるからこそ、せめて日常だけは壊したくなかった。
そして、その変化は健一にも伝わっているようだった。
「最近、なんか機嫌いいな」
夕食のあと、ビールを飲みながら健一がぽつりと言う。
まゆは一瞬だけ呼吸が止まる。
「……そう?」
「うん。なんか、最近優しい」
その言葉に、胸が痛んだ。
健一は悪い人じゃない。
ただ、長い結婚生活の中で、お互いを“役割”として扱うことに慣れてしまっただけだ。
……なのに自分は、別の男に会いに行こうとしている。
夜、ベッドに入ったあとも、罪悪感が波のように押し寄せる。
けれど同時に、アダムスに会いたい気持ちは、日ごとに強くなっていった。
問題は、その先だった。
前回の自分は、ほとんど“受け取るだけ”だった。
触れられ、導かれ、気づけば流れに飲まれていた。
気持ちよかった。
身体は満たされた。
でも――どこか、心が置き去りだった。
今度は変えたい。
自分の意思で動きたい。
けれど、どうすれば“リードする”ことになるのか、自分でもわからない。
積極的に誘惑すればいいのか。
大胆なことを言えばいいのか。
‥‥‥違う気がした。
まゆが欲しいのは、ただ強くなることじゃない。
自分で選んでいる”実感だった。
逢瀬が近づくにつれ、不安と期待が入り混じっていく。
前夜、まゆはクローゼットの前で長い時間立ち尽くしていた。
白のブラウス。
淡いベージュの下着。
……これは、いつもの自分。
…………自分を変えたい……
……その横に置かれた、ブラックのサテンを手に取った。
派手すぎるかもしれない。
でも、自分の意志で会いに行く女として、身につけたい。
そう思った。
