渇きの果てに…禁断のコンダクター 第10話
シーツへ沈み込む身体。
隣に横たわるアダムスが、指先でそっと肌をなぞる。
まゆの身体は熱を帯びていく。
アダムスは急がない。
息遣い
肌の温度
ひとつひとつ、丁寧に反応を確かめるように触れてくる。
まるで、“感じさせること”より、“安心させること”を優先しているみたいに。
その穏やかなタッチに包まれるたび、まゆの心の底に沈んでいた孤独が、少しずつほどけていく。
波間に身を預けているような心地よさだった。
アダムスは呼吸を合わせるタイミング、触れ方、言葉を挟む間さえ完璧に整えていく。
まゆは求められている。
大切に扱われている。
その実感が、まゆの身体をゆっくりと開かせていった。
やがて、快楽の波が押し寄せる。
まゆは背を弓なりに反らせた。
そして、頂へと導かれていった。
――それで終わらない。
アダムスは体位を変え、熱を帯びた身体をゆっくりと重ねてくる。
「・あ・・・あん・」
身体の芯まで満たされる感覚に、まゆの喉の奥が鳴る。
アダムスの動きは深い。
乱れがない。
角度を変えるたび、甘い痺れが全身へ広がっていく。
二度、三度、・・・まゆは波に攫われるように頂点へ達した。
身体は、溶けるような愉悦に満たされていた。
こんなにも丁寧に、優しく扱われたのは初めてかもしれない。
けれど、その心地よさの奥で、胸の底にぽつんと小さな空白が残っていた。
穏やかで美しい海を漂っているようなのに、心のどこかでは、もっと荒々しい波に呑み込まれるような熱を求めているのかもしれない。
……満たされているはずなのに、なお疼き続ける渇き。
あの低く湿ったテナーサックスの音色は、まだ鳴らない。
(気持ちいい……でも、何か違う……)
アダムスの導きは完璧だった。
触れ方も、呼吸を重ねる間合いも、すべてが麗しく整っている。
それなのに、まゆはずっと「受け取る側」のままだった。
自分が本当に欲しいものを、まだ言葉にできない。
どんなふうに求められたいのか。
どんな熱に溺れたいのか。
その輪郭さえ、掴めていなかった。
ただ、アダムスの完璧なリードに身を委ね、与えられる快楽に溺れている――。
すべてが終わったあと、アダムスはまゆの額へそっとキスした。
「……気持ちよかったです」
まゆは思わずそう口にしていた。
それは嘘ではない。
身体は確かに満たされていた。
けれど、胸の奥に残る小さな違和感だけが、輪郭を深めていく。
アダムスは、まゆの表情に浮かんだわずかな揺らぎを察したようだ。
「……大丈夫ですか?」
「……はい」
まゆは微笑む。
不満があるわけではない。
技術も、気遣いも、空気の作り方も、あまりに完璧すぎた。
だからこそ、その完璧さの中で気づいてしまった。
(私は、ただ、抱かれるだけの女だった)
