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【あの頃の誰か】東野圭吾|読了

ショートショートを含む、全8編を収録した短編集。

あとがきによると、どの作品にもそれぞれ事情があり、これまで単行本に収録されてこなかったという。その経緯が一編ごとに語られているところも面白かった。

完成された代表作を集めた短編集というより、東野圭吾さんが過去に生み出した発想や、別の形で残されていた物語を拾い集めたような一冊。

短編ごとの読み味の違いも含めて、個人的には満足だった。


“訳あり”だから見えてくるもの

本作は、収録された短編だけでなく、あとがきまで含めて楽しめる。

なぜ、この作品は長い間単行本に入らなかったのか。どのような経緯で書かれ、作家自身はどのように捉えているのか。

そうした背景を知ることで、読み終えた短編の印象も少し変わっていく。

代表作として整えられた作品を読むのとは違い、東野圭吾さんが作家として歩んできた途中にあった発想や、別の作品へ形を変えていった物語に触れているような感覚があった。

作品同士に強い統一感があるわけではない。けれど、そのばらつきこそが、“訳あり”短編集としての面白さになっていたと思う。


短い物語にのぞく人の暗さ

「シャレードがいっぱい」は、遺言状をめぐる事件を描いた、ミステリらしい一編。短い中で事件がまとまり、素直に読みやすかった。

「レイコと玲子」では、事件に関わる女性の存在が印象に残った。人間関係の見え方が少しずつ変わり、それまで抱いていた人物の印象も揺らいでいく。

養子縁組をめぐる「再生魔術の女」も、分かりやすい設定から事件へつながっていく流れに、引っかかるものがあった。

東野圭吾作品には、読みやすく進んでいる物語の中へ、人の暗い部分が自然に入り込んでくることがある。

大きく感情を煽らなくても、人物の選択や関係の奥にあるものが、読後にわずかな苦さを残す。この短編集にも、そうした魅力が感じられた。


『秘密』の原型「さよなら『お父さん』」

特に印象に残ったのは、長編『秘密』の原型となった「さよなら『お父さん』」だった。

設定を知った時点から、登場人物の感情をどこへ置けばよいのか分からなくなる。

家族として、目の前の存在をどう受け止めるのか。どのように接し、どこまでを以前と同じ人として見ればよいのか。

頭では状況を理解しようとしても、感情は簡単には追いつかない。短編でありながら、家族の形が揺らいでいく複雑さがしっかり残った。

この発想が長編『秘密』へどのように広がっていったのかを考える面白さもある。それと同時に、一つの短編として読んでも、十分に印象深い作品だった。


長い時間が残す「二十年目の約束」

「二十年目の約束」も心に残った。

夫婦の間にある約束と、その背景に隠されていたものが少しずつ見えてくる。

なぜ、その約束が交わされたのか。長い時間が過ぎた今になって、なぜ気持ちが揺れているのか。

過去の出来事が消えることなく、二人の現在にも影を落としている。短い物語の中に、二十年という時間の重さが感じられた。

単なる夫婦の秘密として終わらず、約束を抱えながら生きてきた人の思いまで残る一編だった。


読後に残ったもの

『あの頃の誰か』は、“訳あり”という背景も含めて味わう短編集だった。

なかでも「さよなら『お父さん』」に残る、簡単には整理できない家族の感情が強く印象に残った。

代表作とは違う角度から、東野圭吾さんの過去の発想や物語に触れられる。

一編ごとの違いを楽しみながら読める、満足度の高い一冊だった。

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