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【犯人のいない殺人の夜 新装版】東野圭吾|読了

人の小さな故意や、その場で選んだ行動が、思いがけない事件や悲劇へつながっていく全7編の短編集。

どの作品にも、事件の奥には人の感情や過去がある。

真相が明らかになったときに残るのも、謎が解けた驚きだけではない。取り返せない選択や、知ってしまったことで生まれる苦さが、短編ごとに異なる形で残っていく。

どの作品も安定して面白く、東野圭吾作品らしい読みやすさと、ビターな余韻を楽しめる一冊だった。


小さな選択が変えてしまうもの

本作で印象に残ったのは、大きな悪意だけが事件を生むわけではないところだった。

「小さな故意の物語」では、恋心と故意が重なり、ほんのわずかな行動が取り返しのつかない結果へつながっていく。

最初から誰かを破滅させようとしていたわけではない。だからこそ、その小さな選択が悲劇へ変わってしまうことに、やりきれなさがあった。

「闇の中の二人」は、真相そのものは予想したとおりだった。それでも、限られた長さの中で人物の感情まで描き、読み終えたあとに重さを残す。

意外性だけに頼らず、そこへ至る流れと読後感で読ませるところに、短編としての切れ味を感じた。


悪意のない悲劇と、人を見る温度

全7編の中でも、特に印象に残ったのは「踊り子」と「エンドレス・ナイト」だった。

「踊り子」で描かれるのは、少年の恋心から生まれた、悪意のない悲劇。

誰かを傷つけようとしたわけではないのに、まっすぐな思いが悲しい結果を引き起こしてしまう。登場人物の気持ちを考えるほど、読者まで暗い感情を抱えるような余韻が残った。

一方の「エンドレス・ナイト」では、金銭の絡んだ事件と、過去のつらい経験が重なっていく。

暗さのある物語の中で印象的だったのは、人情味を持って事件に向き合う刑事の存在だった。

真相を暴くだけではなく、そこにいる人を見ようとする温度がある。その温かさが、ほかの作品とは少し違う読後感を残していた。


真相によって言葉の意味が変わる

「白い凶器」では、同じ職場で事件や事故が相次いでいく。

被害者たちには分かりやすい共通点がなく、疑われる女性とのつながりも、同じ部署で働いていることくらいしか見えてこない。

なぜ、彼らが狙われるのか。

何が事件を結びつけているのか。

その動機が見えないからこそ、最後まで真相が気になった。

答えを知った瞬間、それまで意味のつかめなかった「白い凶器」というタイトルが、事件の背景と結びつく。その言葉が示すものまで含めて、一編の中にきれいに収まっていた。

「さよならコーチ」では、彼女の気持ちを考えると、やりきれないものが残る。

それでも最後には、暗さの中で少しだけニヤリとしてしまった。読者の感情をわずかに反転させる着地も面白かった。


段階的に姿を変える表題作

表題作「犯人のいない殺人の夜」は、収録作の中でも特に読み応えがあった。

ある夜に何が行われたのか。

その後、岸田家の人々と二人の家庭教師は、事件を抱えたまま、どのように過ごしていたのか。

すでに起きた出来事と、その後の時間をたどることで、事件の全体像が少しずつ見えてくる。

誰が何をしたのかを一度に明かすのではなく、新しい事実が示されるたびに、夜の出来事の見え方が変わっていく。その段階的な真相の明かし方が良かった。

最後まで読むことで、「犯人のいない殺人の夜」というタイトルも別の重さを持ち始める。

短編ながら構成に厚みがあり、表題作としての満足感があった。


読後に残ったもの

人が何気なく選んだことや、わずかな感情の動きによって、その後の人生が変わってしまう。

『犯人のいない殺人の夜 新装版』には、そんな取り返しのつかなさが、短編ごとに異なる形で描かれていた。

特に「踊り子」と「エンドレス・ナイト」が印象に残った。

真相を知ったあとにも、人の感情や選択について考えてしまう。

読みやすさの中に、苦さの残る物語が詰まった短編集だった。



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