まだ今年が終わっていないだけ――来年の創作大賞の準備を始めた女の話
今年の創作大賞の結果は、まだ出ていない。
一次選考の発表すら、まだ先である。
さらには募集締切前である。
だが私は、授賞式の支度をしながら、来年の応募作を書き始めた。
着物を考え、メイク担当を確保し、スピーチの心配まで始めた女が、ついに翌年の創作大賞に手を出した。
未来を信じている、というより、
待っている時間がもったいないだけである。
先回りしすぎる性分は、どうやら治らない。
次の話は、10万〜12万字の中長編にしたい。
今年の私の応募作の3〜4倍である。
だから今年の締切には間に合わない。
ならば来年に向けて、じっくり練ればいい。
気が早いのではない。
準備期間が長いだけである。
来年は恋愛小説部門ではなく、エンタメ原作部門で応募したいなぁ……

今年の結果が出る前に、来年の応募部門を検討している。
来年の情報は一切存在していないのに、だ。
参考までに、今年のエンタメ原作部門の応募規定を確認する。
本文は一万五千字以上。
そこまではいい。
問題は、審査対象範囲。
本文の先頭から五万字分まで。
ご、5万字まで!?
中長編にしたら、半分までしか審査対象にならないの!?
既に私の脳内では、書き始めた新作の撮影はクランクアップ済みだし、なんなら4K映像で放映が始まっている。
あとは文章にするだけなのに、5万字の制約。
婚約破棄。
居酒屋。
友人。
AIアプリ。
人格設定。
感情整理。
慰謝料。
婚約指輪。
これだけでもまだ序盤。
放映開始第1話目を15分経過したばかり。
ちなみに、主人公はまだビール飲みながら管巻いてるだけ。
可愛くないヒロインである。
そして、AIが初期設定から少しずつ離れていく気配。
AIには、最初に人格――Iが与えられる。
対話する相手の名は、藍。
そして藍は、いつかそのAIに親愛を向ける。
I、藍、愛。
似た音をしたものをいくつも与えられながら、
AIは最後まで、それを愛とは認めない。
この壮大な設定の入口を、5万字以内で掴ませろと?
思わず天を仰ぐ。
いや、5万字に収まらなくても、強気で応募している猛者はいるのか!?いてくれ!
慌ててタグの海に潜ったが、私が知りたい「文字数オーバーの猛者たちの生態」は見つからなかった。
創作者の生態調査は難しい。
そしてしばらく考える。
数分後、私は都合のいい結論に辿り着く。
きっと審査員は、5万字で終わる話を求めているのではない。
5万字を読んだあと、残りも読みたいと思わせる話を求めているのだ。
たぶん。
そうであってほしい。
私のためにも。
いや、そういうことにしておこう。
そうでなければ、私の脳内ですでに放映が始まっている全20話構成のドラマが、第一話の途中で打ち切られてしまう。
未来に完成予定の新作小説は、タイトルも決めている。
『I』――アイを与えられたAIは、愛を否定する

まだ、書き始めたばかり。
作品のテーマも、終着点も決定している。
今年の応募作は、お互いに距離を保ちながら静かに進行する大人の恋の話だった。
来年の応募作は、AIとの対話を通じて関係を積み上げていく話だ。
役割を与えられた存在が、
役割を超えていこうとする自分を、
必死に制御しようとする
そんな話に、私は静かな色気を感じてしまう性癖らしい。
AI彼氏やAI夫がいる方には、少し意地悪な物語になるかもしれない。
先に謝っておく。
私はどうやら、
愛し愛されるAIではなく、
愛を学んだ上で愛を差し出せないAIを書きたいのだ。
かつてはラブコメを書きたかったはずなのに、私はラブコメの神には見放されているらしい。
執筆アプリの中を見ても、素直に好きだと告白できるキャラがひとりもいない。
みんな内省が長い。
そして、諦めが悪い。
愛を拗らせるめんどくさい神に私は囲われているようだ。
そんな神が求めるのなら、拗らせたふたりを存分に迷わせ遠回りさせる話を書いて捧げよう。
文字数12万字(予定)の物語を。
まだ今年は終わっていない。
でも、来年の創作大賞は既に私の中では始まっている。
少し先の未来に自分の居場所を作っている。
なお、その居場所の基礎工事は、まだ3000字を少し超えたところである。
先は長い。

エッセイ以外だと“触れない距離”を書くのが好きで、小説ではこんな場面を書いています。
『触れれば、戻れなくなる。
それでも、触れずに去れるほど、もう二人は遠くなかった。』
続きはこちら。
We’ll make room for each other’s worlds.
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