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『SLAM DUNK』『ONE PIECE』感動するシーンは読者へ向いていない|キャラクターは作品世界だけを見る|失敗から学ぶ名作の作り方 第44回

〜「語りの向き」第3回〜

今回登場する作品
・『SLAMDUNK
・『鬼滅の刃
・『ONE PIECE

SLAM DUNK 6 (ジャンプコミックスDIGITAL) 井上雄彦


人物
・三井寿
・安西光義
・竈門炭治郎
・モンキー・D・ルフィ
・ニコ・ロビン

■これまでの「語りの向き」について

第1回では、
『鬼滅の刃』のモノローグを扱いました。

炭治郎の心の声は、
説明ではなく
“生存反応”として読者へ届いていました。

『鬼滅の刃』が“心の声だらけ”でも読める理由|説明ではなく“生存反応”として読者へ届く構造|失敗から学ぶ名作の作り方 第42回

第2回では、
その奥にある2つの
“語りの向き”
を扱いました。

『鬼滅の刃』はなぜ“作者の説明”に見えないのか|語りは読者へ向いた瞬間に説明になる|失敗から学ぶ名作の作り方 第43回

読者へ向いた語りは、
作者の口から出た言葉に見えやすい。

作品世界へ向いた語りは、
キャラクター自身の口から出た言葉に見えやすい。

では、
これはモノローグだけの話なのでしょうか。

もちろん違います。

キャラクターが実際に口に出すセリフでも、
そしてキャラクターの行動でも
同じことが起きています。

■「バスケがしたいです」は、読者へ向いていない

分かりやすい例が、
『SLAM DUNK』の三井寿です。

「バスケがしたいです」

このセリフは、
あまりにも有名です。

でも、
この言葉は読者へ向いていません。

三井は、
読者を泣かせようとして言っているわけではありません。

名言を言おうとしているわけでもない。

自分を格好よく見せようとしているわけでもない。

見ているのは、
安西先生です。

そして、
自分の後悔です。

失った時間です。

壊してしまった自分です。

捨てきれなかったバスケです。

だから刺さります。

もしこのセリフが、
読者へ向いていたらどうでしょうか。

「俺は本当はバスケを愛していたんです」

「自分の過去を後悔しています」

「もう一度やり直したいんです」

内容としては近いかもしれません。

でも、
刺さり方はまったく変わります。

それは説明だからです。

三井の内側から絞り出された言葉ではなく、
作者が三井の感情を整理して、
読者に渡しているように見える。

「バスケがしたいです」は違います。

整理されていない。

飾られていない。

自分を良く見せていない。

ただ、
どうしようもなくそこへ戻ってしまった人間の言葉です。

だから、
読者へ向いていないのに、
逆に読者へ届きます。

■感動するセリフは、“世界”へ向いている

心に残るセリフは、
読者に届けようとしていません。

そのキャラクターが、
その世界の中で、
その相手へ向かって、
その瞬間に言わずにはいられない言葉になっている。

だから刺さります。

読者へ向いた言葉ではない。

作品世界へ向いた言葉です。

相手へ向いている。
自分の後悔へ向いている。
失った時間へ向いている。
叶わなかった願いへ向いている。
今いる場所へ向いている。

その言葉が、
作品世界の内部から出ている。

だから、
作者の意図より先に、
キャラクターの切実さが届きます。

読者は、
作者に感動させられるのではありません。

キャラクターがその世界の中で出した言葉を、
見てしまう。

聞いてしまう。

だから感動する。

■行動も、読者へ向いた瞬間に弱くなる

そしてこれはセリフだけの話ではありません。

行動でも同じことが起きます。

分かりやすいのは、
『ONE PIECE』のエニエス・ロビーです。

ロビンを取り戻すために、
ルフィたちは世界政府に喧嘩を売ります。

あの行動は、
読者に友情を説明するための行動ではありません。

読者に、
「仲間って大事ですよ」
と伝えるための行動ではありません。

読者を熱くさせるためのポーズでもない。

ルフィたちが見ているのは、
読者ではありません。

ロビンです。

仲間です。

目の前の敵です。

取り戻さなければならない人です。

だから熱い。

もしあの行動が、
読者へ向いていたらどうでしょうか。

「ここで仲間の絆を見せます」

「ここで友情の強さを表現します」

「ここで読者を感動させます」

そういう意図が先に見えた瞬間、
行動は弱くなります。

キャラクターが動いているのではなく、
作者に動かされているように見えるからです。

でも、
ルフィたちは違います。

ただ、
ロビンを取り戻すために動いている。

その世界の中で、
その行動が必要だから動いている。

だから、
読者へ向いていないのに、
読者の心を動かす。



■セリフも行動も、読者へ向いてはいけない

第1回では、
モノローグを見ました。

第2回では、
語りの向きを見ました。

そして今回、
セリフと行動を見ています。

ここまで来ると、
同じ構造が見えてきます。

モノローグが読者へ向けば、
説明になります。

セリフが読者へ向けば、
演説になります。

行動が読者へ向けば、
作者が動かした感じになります。

逆に、
モノローグが作品世界へ向けば、
身体反応になります。

セリフが作品世界へ向けば、
キャラクターの言葉になります。

行動が作品世界へ向けば、
キャラクターが生きて見えます。

つまり、
問題は表現形式ではありません。

心の声なのか。

口に出したセリフなのか。

実際の行動なのか。

そこではない。

その表現が、
どこへ向いているかです。

読者へ向いているのか。

作品世界へ向いているのか。

ここで、
言葉も行動も変わります。

■作者は読者体験を設計する

ここで再度確認です。
誤解してはいけません。

読者を無視すればいい、
という話ではありません。

作者は、
読者体験を設計します。

どの順で見せるか。

どこで止めるか。

どこで感情を動かすか。

どこで回収するか。

そこは作者の仕事です。

『SLAM DUNK』の三井の場面も、
『ONE PIECE』のロビンの場面も、
作者の設計なしには成立しません。

場面を作る。

関係を積み上げる。

逃げ道を塞ぐ。

選択肢を絞る。

そこまで来た時、
キャラクターに渡す。

この状況で、
お前なら何を見るのか。

この相手に、
お前なら何を言うのか。

この世界の中で、
お前ならどう動くのか。

作者は読者体験を設計する。

でも、
キャラクターは読者を見ない。

キャラクターは、
作品世界だけを見る。

創作者には、
この分離が大事です。

■第3回の結論

人の心に残るキャラクターの言葉は、
読者へ向いていません。

読者に届けようとしていない。

読者を感動させようとしていない。

読者に分かりやすく説明しようとしていない。

そのキャラクターが、
その世界の中で、
その相手に、
その瞬間、
言わずにはいられなかった言葉です。

だから残る。

行動も同じです。

読者へ見せるために動くのではありません。

その世界の中で、
そのキャラクターが、
そうするしかないから動く。

だから熱が生まれる。

作者は、
読者・視聴者体験が最高になることに努める。

そのために逆説的ではありますが、
キャラクターは読者の方を向いてはいけない。

作者は読者体験を設計する。

キャラクターは作品世界を見る。

そこに、
読者の心に残る言葉と行動が生まれます。

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■今回の失敗の教訓
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読者へ向いたセリフは、状況は伝える。
しかし、感動は生みにくい。
感動する言葉と行動は、作品世界の中で必要だから生まれる。

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■創作でどう使うか
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セリフや行動を書く時は、
読者へ届けようとしていないかを疑おう。

キャラクターが読者ではなく、
相手・願い・後悔・作品世界を見ているかを確認しよう。


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