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【第十一話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第十話(前回)
あらすじ:先輩が怪異に会いたがる理由が判明しました。

第二章:のろわれた定期の怪 第十二話(次回)


「どうし……っ」

 たんですか、と尋ねる後半の言葉は喉の奥に消えていく。峰城は手首に異様な冷たい感触がして、ゆっくり視線を落とすと隣から伸びてきた手が手首を掴んでいた。

 エアコンで涼しい車内が別の意味で涼しく感じる。息を飲んで手首を掴む手に視線を移すと、隣に座っていたのは紺のジーンズを履いていた人だったはずだが、グレーのスラックスとジャケットの裾と袖が視界に入る。

 こっそり周囲を見ると、通常なら未だ沢山の乗客が乗っているはずの車両から人が忽然と消えている。いるのは腕を掴まれている峰城と隣に座る仲條だけで、その異様な光景を見た彼女は更に動揺した。先日、二人を置いて駆け出した高木が見たのも同じ光景だったのだろうか。

 見たくない、と頭ではわかっていても数%の好奇心が目線を上へと上げていく。くたびれたネクタイに白髪の交じった生えかけの髭、皺のある口元。目元まで目線がいったとき、思わず峰城は男の反対側に座る仲條に体重を傾けた。

 男の瞼の中には眼球がなかった。そもそも、瞼がある辺りから丸く黒い闇に覆われている。だが、その闇の向こうから峰城を見つめている視線を感じる。闇から透明な雫が頬に流れ、それが涙だと気づくのに少し時間がかかった。

 早くなる鼓動と浅くなる息を落ち着かせようと視界を閉ざしても、重みを感じる冷えた手が逃げ道を塞ぐ。まるで氷の腕輪をしているようだ。助けを求めて仲條に視線を向けると据わった目で男を見つめていた。

「僕にも見えてるよ、峰城クン」

 この間見えなかったものが見えて興奮しているらしい。嬉々とした声が聞こえる。恐怖で声が出せない峰城はそれどころではなく、そんなことはどうでもいいから早く助けてくれ、と祈るしかなかった。

「お探しの物は、これですか?」

 仲條が鞄から例の定期入れを出して、男に差し出す。声をかけられた男はゆっくりと定期入れに顔を向け、差し出した仲條に視線を合わせる。しばらく二人は睨み合い、峰城の自宅最寄り駅に着くアナウンスが聞こえると男は掴んでいた手を緩めた。そして、今まで固く結ばれていた口元が動く。

「……写真」

 それだけ呟くと男は霧のように消えて行った。同時に電車が駅に到着し、電車の扉が開かれる。

 笑う膝を宥めながら、仲條とともにホームへ降り立つと、ねっとりとした外気が体に纏わりついた。

 生まれたての子鹿のように歩を進めてベンチに座り、掴まれた手首を反対側の手で擦る。未だに男が掴んだ感触が残っていた。

 ホームにいると音楽が鳴って電車の扉が閉まる。徐々に動き出す車両の窓には人の後ろ姿が見えて、さきほど誰もいなかったのが嘘のようだ。

「大丈夫?」

「まだ、手の感触が……」

 かけられた声に反応して視線を向けると、仲條が水のペットボトルを差し出していた。いつの間にか買ってきたらしい。遠慮なく受け取って掠れた声を出した喉を潤すと、体全体に心地よい冷気と安心感が染み渡る。

「高木さんの話では、例の男は二週間で現れたって話でしたよね」

「そのことだけど」

 自分の元に現れるのも同時期だろう、と高を括っていた峰城の詰めの甘さもあるが、仲條も何か思うところがあるらしい。気まずそうに席を一つ開けて座ると、仲條が定期入れを拾った際に、念のため駅員に定期入れが届けられる間隔を確認した内容を説明した。

 記録では約一年前から落とし物として届けられるようになってから、半年、三ヶ月と届けられる度に頻度は約半分の日数に縮まっていた。高木の時点で約二週間、であれば峰城は一週間で現れるはずだったのは仲條も想定していた。

「僕も拾って、君と一緒にいたから繰り上がりで現れたのかもね」

 順当にいけば仲條は三日〜四日、土曜日に拾ったとすれば三日目の今日に現れたのも筋が通っている。
 部室にいる時点で知っていたはずなのに、また黙っていたのかと峰城は眦を上げた。

「そういうことは――」

「早く言えばよかったね」

 峰城が今まで耳にタコができそうなほど伝えた文句の後半を引き継いで、申し訳無さそうに仲條が続ける。

「それより『写真』って、何のことなんでしょう」

 峰城の問いに、仲條は定期入れを観察し始める。二つ折りのケースを開き、一つ空けた二人の間の席に中身を取り出し始めた。

 ICカードに免許証、数枚の名刺。内側のポケットには小さく折り畳まれた一昔前の千円札、その反対側の内側のポケットを覗いた仲條は一瞬動きを止める。瞬いたのち、丁寧に取り出されたのは小さく印刷された白黒写真だった。

 こちらも家の前で撮影された家族写真のようだ。若い男性と赤子を抱いた女性が表札を挟んで佇んでいる。小さくて表札の字は潰れているが、写真の裏を見ると、年月日と家族らしき名前、撮影された地名に「新居祝い」の言葉が綺麗な字で書かれていた。

「怪異の元凶は、きっとこれだ」

 写真を見つけた仲條がひとりごちて、そっと峰城の様子を伺う。峰城は落ち着いてきた気分を奮い立たせて、彼に向き直った。

「行きましょう。『対処法』を実践しに――」


第二章:のろわれた定期の怪 第十二話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/naea22c2fc30d

第一章 第一話はこちらから↓



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