【第十話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】
第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第九話(前回)
あらすじ:先輩が例の定期入れを拾いました。
第二章:のろわれた定期の怪 第十一話(次回)
峰城が聞くと、一瞬ひるんだ表情をして仲條は口を噤む。質問した内容はそんなに意外だっただろうか。それとも、よく彼の話を聞き流している峰城が質問したこと自体にか。
「きっかけ、きっかけかぁ」
車両の天井を見上げて腕を組む仲條を見るに、つい最近からの趣味ではないらしい。少しして、ふと思いついたように組んでいた腕を解く。
「きっかけはやっぱり、祖父かな」
「お祖父さんですか?」
「うん。実家のマンション近くに祖父母の家があって、遊びに行く度に共働きの両親が帰ってくるまで怖い話を聞かされて育ったから、その影響はあるかも」
はい、と仲條は自分の定期入れ――改札を通るときはスマホの電子カードを使っていたので、今はカードケースと化している――から小さく印刷された写真を出すと峰城に手渡す。家の前で撮った家族写真だった。
「祖父は僕以上に怪異マニアで、いつもニコニコしながら怖い話をしてたよ。僕と妹があまりにも怖がるから『怖くならないおまじない』といって、怪異に対する対処法をよく教えてくれたよ」
仲條が語る祖父のイメージは今の彼と重なり、祖父の影響を強く受けていることがよく分かる。懐かしそうに話す仲條の知識は祖父譲りだが、彼自身の興味関心にマッチしたのもあるだろう。もし彼の祖父に会う機会があれば、小さい頃から受けていた英才教育は今十二分に発揮されていると伝えたい。
それにしても、普段から自由人で協調性のない仲條に妹がいたとは驚きだ。さぞ苦労したことだろう、と会ったこともないのに一方的に同情する。
改めて写真を見ると真ん中に立つ若い男女は両親、二人の前に柔らかく微笑んでいる男の子が仲條、その背後に隠れるように顔を出している女の子が妹だろう。そして、四人の両端を挟む形で老夫婦が映っている。幸せに満ちた、ごく一般的な家庭の一枚だ。
「……それと、僕が中学生の頃に両親を亡くして祖父母に引き取られてから、妹と一緒に現実逃避するみたいに祖父の書庫で、怖い話やオカルトに関する本ばかり読んでいたのもあるかも」
言いにくそうに零した一言に峰城は固まった。知り合って、まだ半年も経っていないので知らなくて当然なのだが、軽い好奇心からの質問で「聞いてはいけないことを質問してしまったのではないか」と頭の中で思考が巡る。
峰城が無遠慮な質問をしたことに対して「すみません」と言ったきり返す言葉に詰まっていると、気まずさを感じていると珍しく察したらしい。彼はパッと明るい表情に戻って、両手を大げさに体の間で振った。
「全然、気にしなくていいよ。僕は普通に学校は行けてて、イジメとかもなかったし」
咄嗟の一言なのだろうが、「僕は」と強調するのが気になった。仲條も自分の言葉にハッとして、ばつの悪そうな顔をしている。峰城は沈黙に耐え切れず、気になるままに口をついて出た。
「妹さんは……」
「妹は、分からない。二つ下だったけど、オカルトの話以外は一切してくれなかったから」
思春期だったのかも、と苦笑して誤魔化す仲條。確かに、一般的に学校のことを話さないのは思春期特有のものだ。親兄弟にも話さないことはよくある。だが、鈍感な彼でも何か察していた部分があるのだろう。
彼の二つ下ということは峰城と同い年だ。世界は広くても世間は狭い。小さい頃の写真しかないので現在の姿を想像するのは難しいが、どこかで会っていた可能性もある。
「じゃあ、今はどこかの大学に?」
「いや、僕が高校生三年生のとき置手紙をしていなくなったんだ。祖父母も僕も、血眼になって探したよ。最悪の状態を想像しては否定しながら、色んな伝手を使って探したんだけど一向に見つからなくて」
衝撃の事実に峰城が口を挟む暇もない。またしても不用意な質問だったか、と口を抑えずにはいられなかった。
「行方不明になる前、いつも冗談で『私が死んだら必ず怪異になるから、絶対に探し出してね』って言ってたから、怪異を探していればいつか会えるんじゃないかって思ってね。よく言うんだ、『怪異は怪異を引き寄せる』って」
仲條がしみじみと語る妹の言葉はまるで遺言だ。その言を信じて怪異あるところに赴き、妹を探しているのか、と峰城は納得する。彼が怪異の話になるといつも嬉しそうなのは、妹に会える可能性を秘めているからかもしれない。
「もし生きているとしたら君と同じ年だし、世話焼きなところも少し似ているから無意識に妹を重ねていたのかも。妹なら喜んでいただろうけど、同じ感覚で君を連れまわしていることに関しては本当に反省しているんだ」
いつも傍若無人に峰城のことを振り回している仲條に、いきなり殊勝に謝られると調子が狂う。彼が「悪いと思っている」と時々言うのは、実は本音だったのだろうか。もしかしたら、世間話をオカルト談義にすり替えてしまうのも、妹と話していたときの癖なのかもしれない、と思うと少し気の毒に思えた。
「まぁ、それはそうとして、単純に怪異や怖い話が好きだからってのもあるけどね」
「……結局、自分の趣味じゃないですか」
上手く返せずにいると、いつもの調子で仲條が笑うので峰城は胸を撫で下ろした。会う度に不満はあるし文句も言いたいが、怖い話や不思議な出来事についてよく話している分、しんみりしているより笑顔でいる方がうんと雰囲気が良い。いつも浮かべている笑みが、こんなにもホッとする日が来るとは思いもよらなかった。
「妹さん、見つかるといいですね」
峰城が心を込めて願望を口にすると仲條は静かに頷いて感謝を述べ、その視線が何かに気づいて止まる。
――その瞳が突如、好奇心に光った。
第二章:のろわれた定期の怪 第十一話(次回)
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