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【第九話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第八話(前回)
あらすじ:事なきを得た後輩を、先輩が「送る」と言い始めます

第二章:のろわれた定期の怪 第十話(次回)


 仲條は一方的に今後の方針を告げると、素早く帰り支度を整える。意外な申し出に峰城は目を剥いた。今、最寄り駅まで送ると言ったか。当然そこにも裏があるようにしか思えず、ありがたみより先に警戒がにじみ出る。

「そりゃ、心強いですけど……電車代かかりますよ」

「何、後輩の無事がわかるのであれば電車代など安いものだよ」

「そんなこと言って、本当は何か起きるのを見逃したくないだけじゃないんですか」

「おや、そんな風に思われていたなんて心外だな。一応これでも、嫌がる君を連れて行った後ろめたさはあるんだよ」

 棘のある反論をするものの、用意していたかのように返されてしまうと仲條との弁論には歯が立たないことを思い知らされる。また煙に巻かれた気はするが、実際にあの男に出くわした場合に困るのは峰城だ。これ以上、自ら事態を悪化させる必要はないだろう、と抵抗を諦めた。

「でも、先輩はあの男性が見えないじゃないですか。もし出たらどうするんです?」

 唯一の心配事を投げかけると、待ってましたと言わんばかりに口元に不敵な笑みを浮かべる。何か策でもあるのだろうか。

「じゃーん」

 鞄の中から何かを取り出して机の上に置くと、誕生日のサプライズでプレゼントを出したときのように両手で注目を集めた。仲條の手が指し示す先では、あのこげ茶色の定期入れが机の色と同化しているではないか。

「せ、先輩それ、拾ってきちゃったんですか!?」

「だって、僕だけ見えないなんて不公平じゃないか」

 拗ねる仲條の基準はどこかおかしい。これでは峰城の護衛どころか、彼の好奇心によって道連れにされかねない。

 しかも、駅員に届けることなく持って帰ってくるなど前代未聞で何が起こるか分からないのに、彼は新しいおもちゃを手に入れた子どものように嬉々として定期入れを観察している。

「これで見えない問題は解決!」

 サムズアップして満面の笑みを浮かべる仲條は、ここ数日で一番ご機嫌だ。

「今のところ掲示板で更新があるわけでもなし、他にも来る人もいないだろうから、完全に暗くなる前に撤収しようか」

 そう言って仲條がノートパソコンを閉じると、小屋の戸締りをし始める。机の上の定期入れが禍々しく感じるのは峰城だけだろうか。こんなに明るいうちに仲條が撤収するのを見るのは初めてで、二人並んで帰るのも実は初めてだったりする。

 別に今まで避けていたわけではないが、「小屋の鍵を返却するから」とか「もう少ししたら帰るから」とか、何かしら理由をつけて仲條は最後まで残っているので、バイトだったり定められた活動時間を過ぎたりするといつも峰城だけが先に帰っていた。

 そうでなくても、いつも課題が終わると仲條のオカルト講座が始まる前に引き上げることもある。全く顔を出さない幽霊部員よりマシだが、それでも薄情な方だったかもしれない。

 大学から駅までの学生街を抜けて駅のホームに行く間、お互いの自宅最寄り駅の確認を済ませる。予想外にも峰城が住む駅の数駅先が仲條の住む地域だと知り、電車代を気にする必要がなくなったことで峰城の懸念は完全に無くなった。

「先輩って同じ電車だったんですね。今まで一緒に帰ることがなかったんで初めて知りました」

「そうだね……活動時以外で、先輩に付き合わせるのも悪いと思って、今まで時間をずらして帰ってたからね」

 どうやら今まで理由をつけて残っていたのは仲條なりの気遣いだったらしい。世間話を振ってもオカルト話にすり替わることもない。普段からこんな風なら、もう少し過ごしやすいのに、と思う。

 雑談をしながらも電車に乗り込むと、峰城は周囲を見回すが先日の男はいないようだった。だが、高木が乗っていた電車よりも人が多いので見逃している可能性もある。
 自宅最寄り駅まで三十分ちょっとの道のりだが、方向的にベッドタウンがあるので行きも帰りもピーク時は座れないどころか、掴むつり革すら無くなるほどだ。だが幸いにも授業終わりすぐでもなく、サークルが終わる時間でも帰宅ラッシュの時間でもないので席は若干空いている。

「ところで高木さんは、大丈夫なんでしょうか……」

「そうそう。定期入れを拾いに行った日、例の駅員にまた詳しく話を聞きに行ったんだ」

 先日、三人で行ったときにも仲條の迫りようにタジタジだった駅員を思い出す。また面倒をかけたんだろうな、と胸中で合掌した。

 その駅員が言うには、落とし物の拾い主が二度怪我している姿を見たことがないという。被害に遭うのは一度だけなのではないか、と予想すると高木は既に危険を回避したことになる。だからこそ仲條は、もう彼女に危険は及ばないと考えているのだろう。

「次、高木さんに連絡するときは結果報告になるだろうね」

「もう解決の糸口が見えているんですか?」

「怪異には大抵、対処法があるものだよ、峰城クン」

 仲條はお決まりの口癖を言い放つと、得意げに胸を張る。その自信や怪異に対する姿勢はどこから来るものなのか、気になって口をついて出た。

「あの、前から気になっていたんですけど……先輩って、なんでそんなに怪異が好きなんですか? 何がきっかけだったんです?」


第二章:のろわれた定期の怪 第十話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n6b38a86f50d1

第一章 第一話はこちらから↓






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