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【第八話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第七話(前回)
あらすじ:依頼人が恐れていた男が現れ、後輩にも危害が及びます

第二章:のろわれた定期の怪 第九話(次回)


 左腕が強い力で後方に引かれ、バランスを崩した峰城は背中と尻を強か打った。状況が把握できず顔を上げた瞬間、前方を猛スピードの乗用車が通り過ぎて行く。

 定期入れを届けた主が事故に遭う――駅員の話を思い出した峰城は鳥肌が立った。心臓を思いっきり握られて縮んだ気がした。

「高木さんが心配なのはわかるけど、車に気を付けてね」

「……すみません」

 危うく二次的交通事故を起こしかけていた峰城の腕を引っ張って防いだのは仲條だった。彼も引っ張った勢いで尻もちをつき、倒れこんだ彼女の後頭部で顎を打ったらしい。痛みに呻きながら立ち上がると、「高木さんの様子を」とだけ言って通報を済ませた女性に話を聞きに行った。

 震える膝に鞭を打ち、改めて車が来ていないことを確認すると峰城は高木の元へと駆け寄る。側では片膝をついた運転手が声をかけていた。

「大丈夫ですか? 何があったんですか?」

 随分前に学校の救命講習で実践した記憶を辿りつつ、高木の肩を叩いて問いかけるが、彼女はうっすら目を開けた後「あの、男が」と呟いて意識を失ってしまった。「突然、彼女が飛び出してきて」と未だ動揺している運転手の無事を確認すると、とりあえず二人で彼女を車道から安全な歩道へと移動させる。

 移動を終えて振り返ると、仲條は連絡の済んだ女性に簡単な事情を聞き終えていた。高木が走って来たときにタイミング悪く車が通ったのだという。

 幸い車は彼女に接触する前に急ブレーキと共にハンドルを切ったため、歩道に乗り上げただけで済んだ。彼女はぶつかりはしないものの、車に轢かれそうになったショックで気を失ったようだ。

 警察と救急が来ると、被害者の高木と同じ大学の知り合いであることを告げ、いくつかの質疑応答を受けると目撃者でないこともあってか解放された。

 電車を降りたら突然、高木が逃げ出して車に轢かれそうになったこと以外、何がなんだか分からず、結局これ以上調査できないと判断して、その日は解散となった。

 週明けの月曜日。ただでさえ重い気分なのに、林にいる大量の蝉の鳴き声で頭が痛くなってくる。いつもの掘立小屋に行くと、仲條は椅子に浅く座り、背もたれに頭を乗せて天井を眺めていた。

「お疲れ様です。何かわかりましたか?」

「ぜーんぜん。僕達……特に僕は何も見ていないからね。彼女が突然立ち上がって、ホームから逃げるように去っていった理由もわからない。あえていうなら、降りた駅が彼女の家の最寄り駅だったくらいかな」

 峰城が尋ねると、だらしない恰好のまま手の平を頭上でヒラヒラと揺らす。その口ぶりからして、仲條にはやはりあの男が見えていないのだと峰城は確信した。

「やっぱり先輩には見えてなかったんですね。高木さんの隣にいつの間にか男性が座ってたんです。聞いた話だと男は電車を降りてこないそうですから、助かったと思って最寄り駅で降りて逃げ出したんだと思います」

「峰城クンは、あれから何ともないのかい?」

 尋ねられて峰城は首を振る。金曜日を含め、土日のバイトの行き帰りも特に異常は起きず、もちろん例の男も見かけなかった。

「一体、何だったんでしょうね」

「さぁ」

 仲條が分からないなら峰城はなおさら見当もつかない。微妙な空気が小屋の中に漂い、その空気を破るように峰城のスマホが震えた。画面を見ると来ていた通知は高木からだった。

 目撃者の女性の言う通り、車に轢かれたわけではなかったので怪我は転んだ際に負ったかすり傷程度で済んだそうだ。併せて、今日は安静を取って同行は控えたい旨が書かれていた。

 峰城は仲條ほど鬼ではない。同じく恐怖を目の当たりにしたことのある同志からしてみれば、できれば二度と遭いたくない気持ちはよくわかる。気遣いの一言を送り仲條には来れない、とだけ伝えておく。

「今日は調査できそうにありませんね」

「いやいや峰城クン、今度は君の番なんじゃないか?」

「……はい?」

 ポツリと呟いた言葉に、驚いた表情を浮かべた仲條は思いがけないことを言う。咄嗟に間抜けな声が出た。

「峰城クンも、あの定期入れを拾っただろう。そして君には男性が見えていて、僕には見えなかった。ということは、恐らくあの男性が現れたり見れたりするのは、あの定期入れを拾った人だけなんじゃないかな」

 小屋の中は暑くもないのに、冷や汗が首元を流れた。考えたくなかった事実を改めて突きつけられ、生唾を飲んで上ずった声が出る。

「つまり、今度は私が狙われると?」

「そういうことになるね」

「できれば、その嬉しそうな口元は隠してもらえますか」

 事態に反して、仲條は口元の笑みを隠しきれていない。慌てて手の平で口元を隠すが手遅れだ。
 
「少なくとも全く調査の切り口がないわけでないということだよ。とにかく、しばらくは警戒した方がいい。たしか、君は一人暮らしだったね。ここからそう遠くないのであれば当面、最寄り駅まで送るよ」

「はい!?」


第二章:のろわれた定期の怪 第九話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n56a203056b71

第一章 第一話はこちらから↓






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