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【第六話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第五話(前回)
あらすじ:依頼人の話を聞いた後輩、結局巻き込まれて調査に加わります。

第二章:のろわれた定期の怪 第七話(次回)


「毎日通学だけで、これだけの時間かかってるんですか?」

 たった十五分の道のりだというのに、急な坂道や階段で峰城は疲弊していた。これから乗る電車の一時間も耐えられるかどうか。これが往復、毎日続くとなるとウンザリする。

「ええ。一年生の時は大変でしたけど、今は課題を解く時間に使えると思えばちょっとは……」

 そう苦笑しながら高木は息を乱すことなく坂を登っていく。細身の体からは想像もつかないほどの健脚だ。乗り換えの人だかりは三人を追い越し、前方を見ると玉になりながら進んでいる。仲條を見ると彼も若干呼吸が荒い。

 坂を登ったかと思えばまた下り。峰城は沈んだ気分で下り始めると、少し先に荒れ放題の木と雑草が目に入る。大したことのない、よくある手入れのされていない空き地に生えた雑草のはずなのに、何故か妙に気になった。

「そういえば、例の定期入れを拾ったのもこの辺りでした」

 思い出したように高木が呟いた途端、それまで雑草群を見つめていた峰城は感じていた違和感に気づいた。地面の色に混じって彩度の違う色が見えたのだ。

「峰城クン?」

「なにか、気になって」

 ボンヤリと呟きながら空き地の雑草の側にしゃがみ込むと、違和感の正体を拾い上げる。それは手の平に収まり、指を曲げると手によく馴染んだ。

「それ……」

 振り返った峰城の手元をを見た高木が、口元を押さえながら顔を青ざめる。峰城が拾ったのは角が擦り切れた、こげ茶色の定期入れだった。

「高木さんが拾ったというのは、この定期入れですか?」

 察した仲條が尋ねると、高木は静かに頷いた。どうやら彼女が駅員から聞いた「届けられた定期が消えて、また落とし物として拾われる」という話は本当のようだ。

「ど、どうしましょう、これ」

 拾ったものの正体を知って気味が悪くなる。だが指先でつまんだ持ち方をすると余計に祟られそうなので、峰城は握っていた指を開くと手の平に乗せた状態で二人に見せる。

「落とし物ではあるのだし、駅の窓口に届けようか。ついでに駅員さんにも話を聞こう」

 話に聞いていた通り、定期入れが現れたのがよほど嬉しいらしい。峰城の手の平に乗せたまま、あらゆる方向から興味深そうに観察している。

「先輩、そんなに見たいならどうぞ」

「いや、いいよ。高木さん、先に進みましょうか」

 差し出した定期入れをキッパリ手で制し、高木に駅までの道案内を促す。高木は峰城の方をチラリと見て、先に進んでも良いのか気にしつつも促されるままに駅へ進み始めた。

 仲條のこういう自由奔放な反応が時々鼻につくのだが、今は高木もいるので大人の対応で黙ることにした。内心はイライラしながらも、二人の後について行く。

「すみませーん」

 乗り換え先の駅に着くと早速、改札横の窓口へと直行した。定期入れを持った峰城が窓口の前に立ち、数歩下がった所に仲條と高木が控える。

「はい、はい、お待たせしました。どうされましたか?」

 声をかけてから少し間を置くと、人の良さそうな初老の男性が出てくる。高木を振り返ると頷いたので、運良く彼女が定期入れを届けた時と同じ駅員に会えたようだ。

「あの、落とし物拾ったんですけど」

 そう言いながら、峰城は定期入れを手早くカウンターの上に置く。この定期入れから開放されるのであれば何でも良かった。
 だが、その定期入れを見た駅員は人好きしそうな表情から一変して訝しげな顔を浮かべた。

「……そうですか。とりあえず、拾っていただきありがとうございます。こちらで遺失物として管理しておきますね」

 ぎこちなく笑顔を浮かべると、駅員は定期入れを手にする。そこへ少し後ろから見ていた仲條が割り込んできた。

「あの、この定期入れって定期的に落とし物で届けられるんですか?」

「な、何ですか?」

 突然割り込んできた仲條に駅員は不審な目を向けるが、彼の背後に高木がいたことに気づいたのだろう。少し困惑した顔をする。彼女が駅員を覚えていたように彼もまた、定期入れを届けに来た彼女のことを覚えていたようだ。

「僕達、その定期入れについて調べてまして。彼女に聞いたら、あなたが何かご存知のようだと」

 最初は口を閉ざしていたが、仲條が引く気がないことを悟ったのだろう。周囲を気にするように見回したあと、身を乗り出して口元を手の平で隠しながら話し始めた。

「実はこれまでにも何度か、届けられてるんですよ。管理しているはずなのに気が付いたら消えてるんです」

 部室で高木から聞いた話と一致している。
 定期入れの色はこげ茶という汎用性のある色だ。偶然、似た定期入れが届けられているだけではないか、と仲條が尋ねると駅員は首を振って眉根を寄せた。

「それが、届けられてから管理している場所を確認すると、確かに消えているんです。誰かが持ち出して悪戯しているとしても、意図がわかりませんし。それに……」

「それに?」

 偶然説を否定した駅員は、話の続きを言うべきか迷っているようだったが、仲條の先を急かす視線に耐え切れなかったのか「人づてに聞いた話なんですが」と躊躇いがちに口を開いた。


第二章:のろわれた定期の怪 第七話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n4961da425060

第一章 第一話はこちらから↓





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